禎克君の恋人 27
「……ああ、うん。お師匠さんは、どう?」
誰かと父親のことを話しているらしい。
月明りの中に、大二郎の肢体が発光するように艶めかしく浮かぶのに、思わずぞくりとする。
「うん……舞台は大丈夫だったよ。お客さまも喜んでくれたし、明日からもやれるよ。興行が終わるまでお見舞にはいけないけど、劇団のことは心配しないでって伝えてくれる?こっちは何の心配もいらないからって……そう。お師匠さんには、ちゃんとわかってるみたいなの?……うん。うん。」
「良かった……、頼むね、羽鳥。でも、身体壊しちゃいけないから、少しは眠って。本当にありがと。」
そう言って鼻声になったところを見ると、きっと大二郎は泣いていた。
自分のことばかりでいっぱいだった禎克は、やっと大二郎の置かれた今の大変な状況を思い出した。
ぴっと電話を切った大二郎の気配を背中で感じながら、禎克は眠った振りをしていた。大二郎の背負ったものは重く、共に積み重ねたものがない自分は手を貸してやることなどできない。
余りに無力な自分を思いながら、再び落ちかけた眠りの中で、満面の笑みを向けた大二郎が自分に縋るようにかきついたのを思い出していた。
*****
すぐそばの大二郎は、何をしているのか、禎克の隣に中々帰ってこなかった。
そればかりか、何かがこすれる音、ぱさりと何かが落ちる音がする。
くるりと寝返りを打つ振りをして、薄く目を開けて様子を伺ったら、月明りを浴びた大二郎が大きな扇子を手に、何度も同じ所作を繰り返していた。
時折り漏らす小さく不満げな溜息に、恐る恐る禎克は声を掛けた。
「大二郎くん……?」
「あ、さあちゃん。起こしちゃった?ごめんね。寝る前に少しだけやっとかないと、明日腕の筋肉が動きにくくなるんだ。」
「何をしているの?」
「企業秘密なんだけど……。」
すっぽんぽんで扇子をかざす大二郎が、恥ずかしげに打ち明けた。恥ずかしがるところが違う気もするが、あえて追求しないことにする。
「あのね、要返しの練習をしてた。」
「かなめ、がえし?」
「ほら、こうやってね、扇子の親骨だけをつまんでね、こうやって手首を回すんだよ。ひらひら~~って。花が散る所だったり、雪が舞う所だったりの表現を……こうしてするの。」
大二郎は扇をかざすと、しなを作りひらひらと花を散らせた。
「本当に花が散ってるみたいだ。花弁が見える気がするね。」
「そう?動きがね、滑らかじゃないと、綺麗な要返しにならないんだよ。舞台ではもっと大きな扇子を使うんだけど、これはちびの頃、一番最初にお師匠さんにもらった物なんだ。古いものだけど、修繕しながら使ってる。今がおれの正念場だから、お師匠さんの力を借りようと思って。」
そう言って、凛々しく言い切った大二郎は、先ほどまでの甘えん坊とはまるで違った表の表情を見せていた。
稼業と言い切るだけあって、大衆演劇の世界に身を置く大二郎が、どれほど仕事に誇りを持ち精魂を傾けて来たか分かる。
華やかに見える裏で、どれほどの努力があったか見えるような気がする。細く見えて、よく見ると意外に薄く筋肉の乗った身体も、そういった努力の結果に違いなかった。
大二郎くんは、いろいろがんばっています。
(〃゚∇゚〃) 禎克 「大二郎くん。見えない努力、えらいね~、尊敬する。」
(*ノ▽ノ)キャ~ッ!大二郎「さあちゃんにほめらりた~。」
(`・ω・´) 「でもっ!ぱんつは穿いたほうが良いと思う。」
(°∇°;) 「あ……。」
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