禎克君の恋人 28 【最終話】
「さ。ぼくも、大二郎くんに負けないように頑張らないとな。」
「うん。さあちゃんも試合頑張ってね。一年生なのに、すごいよね。」
「今回はぼくの実力じゃないんだけどね。主力選手が膝を傷めてしまって、ポジションが空いたんだ。奪い取ったわけじゃない。中学の頃は高校に入ってもそこそこ動けると思ってたんだけど、入ったらレベルが全然違ってて、最初はこれでやれるのかって、すごくショックだったんだよ。でも、チャンスだと思って必死にやるよ。」
「うん。一番くじけそうな時ほど、周りに見られてるからね。」
「そう思うよ。大二郎くんとは、環境が違うけど、お互い今が頑張り時だ。」
「おれ、離れ離れになるのは哀しいけど、さあちゃんとはまた会えると思っていいよね。」
「勿論、そのつもりだったよ?あ、もうすぐ夜が明ける。大二郎くんは、もう少し寝ないと身体が持たないよ。集合時間が早いから、ぼくはもう行くね。アラームが鳴る前に起きれて良かった。」
「さあちゃん。もう、お別れ……?」
縋る瞳の大二郎が、鼻の頭を赤くした。
「集合6時なんだ。」
「……そう。」
「大二郎くん。次に会えるのが楽しみだね。電話で話も出来るし、お互いにもう昔みたいに何もできずに泣いてたチビとは違う。時間が出来たら、大二郎くんの所へ訪ねてゆくよ。興行先が決まったら、メールでも電話でもいいから教えて。」
「そっか。そうだよね。これでおしまいになるわけじゃなかった……。馬鹿みたいだ、おれ。さあちゃんとお別れしたら、その後どうしようと思った。なのに、さあちゃんったらぐうぐう寝ちゃうんだもの……。」
そう言って、うれしげに微笑んだ大二郎の頬を、ころ……と滴が転がった。
「大二郎くん。役者は泣いちゃいけないって言ってたくせに、ほんとは泣き虫だろ。」
「う~、ゴミが入った~。」
「うそつき。」
禎克は大二郎をそっと引き寄せると、抱きしめた。
胸までしかない大二郎が、愛おしくて離れがたくなっているのは、自分の方かもしれないと思う。
真っ直ぐに向けられた想いに、自分も思い切って正直に応えようと思った。
「……好きだよ。大二郎くん。忘れないでいてくれてありがとう。」
「さあちゃん。」
「あのね。紅い振袖の可愛い女の子が、ぼくの初恋だったよ。」
「さあち……え~ん……さあちゃ~ん……。」
ぽんぽんとあやすように、禎克は大二郎の背中を撫ぜた。
「またね、大二郎くん。」
二人はもう一度、キスを交わして別れを告げた。
離れがたいが今は仕方がない。互いに進むべき道がそこにある。
「おれ、さあちゃんの恋人?」
「ぼくは、そうだったらいいなって思う。」
巻き付けた腕に、もう一度力を込めて大二郎は離れた。
今はもう悲しくはなかった。
*****
別れ際、大二郎が耳元でささやいた。
「今度はもっと激しいことしようね。寝かせないから覚悟して会いに来て。」
「激しいこと?」
「さあちゃんの知らない世界、見せてあげるよ。」
「ん~?」
ぶんぶんと大きく手を振る大二郎に応えて、禎克は手を上げた。
朝日の中を、禎克は駆けてゆく。
長い影を、禎克の恋人が見つめていた。
*****
インターハイ後、自宅に帰った禎克がパソコン検索を掛けて、男同士が愛し合う方法を知り、絶叫したのはそれから何日か先のことだった。
「うわ~~っ、何これ~~っ!!??」
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
拍手もポチもありがとうございます。
日々の励みになってます。このお話は、いくらでも続編が書けそうなので、構成を考えたいと思います。
らぶらぶの二人とかね……(〃▽〃)←大丈夫か? 此花咲耶
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