砂漠の赤い糸 4
「サクルさま。そろそろ、国許へお帰りになりませんと……。既に二週間がたっております。」
「そうか、時のたつのは早い。大江戸はわたしにはつれない場所だったな。諦めて帰国の支度をするとしよう。」
立ち上がったサクルは、ふと窓際に置かれた一鉢の青い胡蝶蘭を認めた。
「珍しい花の色だな……これは?」
「一輪だけ花をつけたそうです。サクルさまが作られた基金の奨学生が、バイオ技術で成功した最初の花を贈って参りました。」
小さな鉢植えの胡蝶蘭の青は、清楚に震え、花魁道中で見かけたきり、会いたくてたまらない雪華花魁の可憐な姿を思い起こさせた。
「あの花魁に似ている。……これが最後だ。この花を、雪華花魁に届けるように……」
そして雪華花魁は、思いがけず届けられた花一鉢で、異国の油屋の若旦那に落ちた。
湯水のごとく金を使っても、微笑みを寄越すどころか同席すらしなかった雪華花魁は、全ての手順を流して、サクルに長煙管を渡し、一度きりの同衾をした。
「綺麗なお花をありがとうござりんす。」
サクルは雪華花魁にのぼせ上り溺れた。
身体の相性も良く、心根も優しい雪華花魁を自分一人のものにしたいと願ったが、そんな話を切り出す前に雪華花魁を災禍が襲う。
雪華花魁は、禿の不始末を被り、衆人環視の中で折檻を受けることになった。雪華花魁を、国庫を傾けても助けてやりたいと願ったが、それは周囲が許さなかった。雪華の名を叫ぶ半狂乱状態になったサクルを護衛が止めなかったら、何よりも秩序を重んじる大江戸から出入り禁止の大事になっていたに違いなかった。
どれ程愛おしくても、サクルと雪華は客と花魁、ただそれだけの関係でしかなかった。
「雪華……」
諦めて機上の人となったサクルは、雪華花魁に貰った箸に付けられた文を広げていた。
「黒髪の みだれもしらず うちふせば まづかきやりし 人ぞ恋しき」(和泉式部『後拾遺集』恋三より)
「この文の……意味が解るか?」
「いえ……」
配膳をするお付きのものに、古い日本の和歌の意味が解るはずもない。力なく微笑んで首を振った。
昨夜、おしょうゆにまみれた、此花のUSBのその後です。
一晩、こたつの中で乾燥した香ばしいUSBを、パソコンにつないでみました。
何度かのエラーが出たのち、一度だけつながって保存することができました。
正直、半分あきらめかけていたので、うれしかったです~……(´・ω・`)
今度からはこまめにバックアップ。そしてつなぎっぱなしにしないで、ちゃんと片付けようと思います。
お騒がせいたしました。
そして、温かいお言葉をかけてくださった方々、ありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪