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砂漠の赤い糸 8 【最終話】 

「ラクダに乗った王子さま。ぼくの本名は樋渡由綺哉(ひわたりゆきや)というんだ。雪華の名前は大江戸において来たんだよ。今のぼくは、誰もが欲しがる大江戸一の花魁じゃない。大金持ちの油屋の若旦那が欲しかった華やかな花菱楼の雪華花魁は、どこにもいないんだ。ここに居るのは何も持たない樋渡由綺哉だけど、あなたはそれでも欲しいの?。」

サクルは回した腕に力を込めた、異国の美しい蝶が何処にも羽ばたいてゆかないように。

「わたしが欲しかったのは雪華花魁の姿でも、名前でもない。わたしが国を捨てても欲しいと思ったのは、樋渡由綺哉、最初から君だけだ。初めて君を見た時から、真っ直ぐに前を見つめる黒い瞳に惹かれていたんだよ。」

「どうすれば君を手に入れられるのか、笑いかけてもらえるのか、ずっとわからなかった。だから君を金で買おうと思った。でも……、今ならわかる。君が欲しかったのは物ではなかったのだね。ただのサクルとして心が求めるままに、素直に接すれば良かった。胸を裂いて、君に本心を見せられたらと思うよ。そうすれば君にも、わたしがわかる。」

「困ったなぁ……」

由綺哉は手を伸ばし、サクルの頬を挟んだ。

「いつか会いに来ようと思っていたのに。突然現れて、うんと驚かせるつもりだったのに……予定が狂ってしまった。」

「え……?」

「逢いたかったと言ったんだ。」

ぷいと横を向いた由綺哉の頬は、染まっていた。やがて白いヴェールをずらして首に巻いた最愛の男は、指を伸ばすと迷った挙句、自分からサクルに触れた。
サクルに向き合い、上に羽織った金糸のビシュト(ローブのような上着)を滑らせ長いトウグ(民族衣装)の襟元にそっと手を入れた悩ましい由綺哉の姿を、人払いされたお付きのものが見たら、おそらく卒倒したに違いない。

「ぼくにも、サクルが必要だ。」

「ゆ……由綺哉。」

*****

後宮の奥で、王族の神聖な裸身を夕日に晒したサクルは、褐色の胸にやっと手に入れた恋人を抱いた。
今は由綺哉の身体を隠す長い髪もなく、室内は明るかった。寝台に張り付けた由綺哉の隅々にサクルはキスを降らせ触れた。愛撫に応えて勃ちあがった薄い紅色の持ち物に触れ、優しく握り込むと手のひらに脈打つのを感じた。くんと質量が増えた気がする。

「どこもかも、雪花石膏(アラバスタ)でできた薔薇のようだ。由綺哉……。おまえは、何て美しいんだろう。」

密やかな最奥が、恋人を絡めとろうとそっと口を開く。薄く汗をかいた恋人は、白い喉を反らせて素直に最愛の人の名を呼んだ。

「サ……クル。ああ……っ……」

砂漠に赤い太陽が沈む。

小指の先に、運命の紅い糸が見えたよと、サクルはささやいた。
由綺哉は伸ばした手で、燃える太陽を掴んだ。



                 砂漠の赤い糸 ―完―




本日もお読みいただき、ありがとうございました。
何とかハピエンです。(〃▽〃)
明日は、エピソードを一つ「おまけ」としてあげたいと思います。

このお話は、二人のその後をリクエストしていただきました。
ありがとうございました。お話がこうして広がってゆくと楽しいです。(〃゚∇゚〃)


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2 Comments

此花咲耶  

拍手コメントさとうさま

(*⌒▽⌒*)♪そうそう~
王族で細かな心の機微なんて、何もわかっていないです。
しかも一人息子で、個人的に後宮を持って男も女も老若男女、より取り見取りのとんでもない設定です。
何しろ謝りませんから。(`・ω・´)←サクル

好き……と言ってくださってありがとうございます。(〃゚∇゚〃) きゃあ~
その一言で、此花この先もがんばれます。
また、新しいお話でお目にかかりたいと思います。コメントありがとうございました。
嬉しかったです~(〃゚∇゚〃)

2012/11/13 (Tue) 23:19 | REPLY |   

此花咲耶  

拍手コメントkon さま

お読みいただきありがとうございました。
(*⌒▽⌒*)♪ハピエンでした~♪確かに手荒でしたね。
絨毯にくるまって運ばれたのはクレオパトラです。うふふ~
明日、おまけを上げますので待っててくださいね。
コメントうれしかったです。(〃▽〃)

2012/11/12 (Mon) 21:47 | REPLY |   

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