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砂漠の赤い糸 1 

大江戸で「油屋の若旦那」と二つ名で呼ばれていた異国の青年は、今、機上の人となりながら水滴の走る窓に額を付けた。もう二度とこの国に降り立つことはないだろう。
愛する人を残して一人国許に帰る、それだけのことが今はたまらなく悲しい。
自分の心中を察した天が、共に泣いている気がしていた。

「雪華……」

誰にも祝福されることの無い、報われぬ恋が終わりを告げる。
プライベートジェットのゆったりとした皮張りの椅子に、人払いをしたサクルは毛布を深く被り肩を震わせた。

これ程に人を愛したことはなかった。ただ一度、肌を合わせただけの美しい男女郎の姿が、ひらひらと蝶のように長い袖を翻してまぶたの裏で揺れた。

*****

「サクル。成人の披露目をしたくないと言ったそうだが?」

「あ、父上。今、お伺いするつもりでした。」

「王位継承権を持つそなたが、なぜ出席を拒む?王族に次期王の宣言をし、祝賀の宴を開いて、臣下万民に広く知らせる手はずになっておったのだが……?」

サクルは父王に似た精悍な顔を向けると、人好きのする顔をふっとほころばせた。

「成人の日は、父上と静かに酒を酌み交わしたかったのです。わたしの好きなニホンコクでは、大人になった男子は成人したら、そうするものらしいですから。」

「お前のかぶれている、東洋のちっぽけな島国の話かな?」

「ええ。父上が子供の頃に、わたしにお話して下さったお伽噺のような国の話です。かの国では、成人の夜は父親と息子は互いに自ら酒を汲み、人生について長い間話をするそうですよ。」

「それが望みか?」

「いけませんか?わたしは、昔から父上とゆっくり話などしたこともありません。もし、披露目をする場に父上がお越しなら、その時間を自分だけのものにしたいと思ったのです。そして出来るならば、披露目に掛かる莫大な金は、才能あるこの国の子供たちに与えたい。」

父王はサクルの言に肯いた。

「では、おまえに何か別に祝いをやろう。何でもいい、言ってみなさい。カジノを買い上げてやろうか、それともしばらくわたしが話していた大江戸に逗留してみるか?」

サクルの顔が一瞬上気して輝いた。

「父上!いつかニホンに行きたいと思っていました。国賓としてではなく、ただのサクルとしてバックパッカーのようにしてSPなしで、大江戸に行ってみたいです。」

「王位継承者が一人で……?残念ながらそればかりはわたしが許しても、宰相が諾とは言うまいよ。」

父王は呆れたが、結局数名の護衛を付けることで互いに折れた。




平成大江戸花魁物語 「油屋の旦那」と雪華のお話になります。
サクル王子と雪華は結ばれるのでしょうか。
しばらくお付き合いください。(*⌒▽⌒*)♪←リクエストいただきました。うふふ~♪


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1 Comments

此花咲耶  

拍手コメントkonさま

どういうお話に使用かと色々考えて、油屋の旦那の視点で書いてゆくことにしました。
きっと甘いお話になるはずです。
ハピエンでっす!(*⌒▽⌒*)♪
よろしくお願いします。

2012/11/06 (Tue) 21:28 | REPLY |   

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