砂漠の赤い糸 ・おまけ 【文の秘密】とあとがき
「君に聞きたいことが有ったんだ。由綺哉。」
疲れ切って朦朧とした由綺哉は、ゆっくりと視線を巡らせた。
「ぅん……?」
髪は短くなってしまったが、小さな顔も疲れて青ざめたまぶたも、あの日のままだった。
緩慢な動きで、サクルの胸に預けていた頭を上げた。
「何……?」
「いつか、君に貰った箸についていた文の意味が知りたい。愛し合った日の翌日に、花のお礼だと言って君から届いたんだ。」
「ああ……あれ。」
「何度もそらんじて、覚えてしまったよ。日本の大使に使いを出して意味を聞こうと思っていた。」
「……そんなことをしたら、とんだ赤恥をかくことになるぞ。」
由綺哉はどうやら照れていた。気にせずサクルは直も重ねた。
「なぜ?……黒髪の みだれもしらず うちふせば まづ かきやりし 人ぞ恋しき……にはどんな意味が?君がわたしにくれた文の意味を、どうしても知りたいんだ。教えてくれ、由綺哉。」
「何でそんなことを知りたがるかなぁ……いっそ、そこいらの中学生にでも聞けよ……もう。」
由綺哉はふっとそっぽを向いた。実はかなりシャイな性質らしいと、サクルは気付く。
「由綺哉……?」
赤みを乗せた頬で、怒ったように由綺哉は口にした。
「……あなたを思い、髪の手入れもせず乱れたまま、わたしは床に伏しています。こうしていても真っ先に思い浮かぶのは、昨夜わたしの褥(しとね)で、この黒髪をかきやったあの人の事。あなたが恋しい……って書いたんだよ。この、野暮天。」
「由綺哉っ……!」
幸運にも最期の言葉は聞こえなかったらしいサクルは、喜びに上気し、もう一度由綺哉を抱きしめた。
やはり日本には帰したくない、このまま傍に居てくれと言い出し、由綺哉が本気で切れるのはもう少し後の事だった。
「あとがき」
黒髪のみだれも知らずうちふせば まづかきやりし人ぞ恋しき 和泉式部、後拾遺集755番。
黒髪が乱れるのも構わずにふせていると、なにはさておいても、この髪をやさしく掻きやってくれたあの人が恋しい。「まず」は初めて愛してくれた男を指す。
和歌検索などしていますと、時々こういうものを見つけます。訳も色々あるので目移りします。
古文が自在に操れる人が羨ましいです。文語体とか、此花にはちんぷんかんぷん……すごく使いやすかった大好きな翻訳サイトさまが閉鎖されてしまったので、復活してくれないかな~と思っています。(´・ω・`)まじ、 しょっく……
奇想天外なお話しの番外編は、割と普通のらぶろまんす?でした。ツンデレの由綺哉のキャラは初めて書いたような気がします。この後、日本に帰り澄川財閥に入社して、東吾と再会する話へと続きます。
これまでお読みいただき、ありがとうございました。またね。 (*⌒▽⌒*)♪ 此花咲耶
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