桃花散る里の秘め 9
門番の知らせで、侍女が血相を変えて走って来た。
「姫さま!大姫さま、いかがなされたのです!お怪我はございませぬか?」
大姫はにっこりと、義高の背中から笑いかけた。
「怪我はしておりませぬ。それよりも、橋から落ちた大津を助けてくれた義高さまにお礼を言っておくれ。」
「……えっ!橋から!?」
しかし、義高に向けられたのは、恐ろしいほどの激高だった。
「義高殿っ!あなた様がついて居ながら、一体どういう事です。このように御髪まで濡らしてしまって……姫さまに何かあったら、あなたはどう責任を取るおつもりですか。」
「違うの。違うの。義高さまは来てはいけないとおっしゃったの。大津はげんまんしたのに、付いて行ったの。義高さまは悪くないの……婆や。大津がいけないの……うっ……うっ……義高さまを怒っちゃいや。」
義高の背中にかきついて泣く大姫に、結局侍女はどうすることもできなかった。困り果てているところに、大津の母親が現れ助け舟を出した。
「菊や。義高殿に、早く湯を沸かして差し上げて。大姫も川に落ちたのでしたら、早く体を温めないと、またすぐに熱が出ます。部屋を暖めて、お薬湯の準備をしておいてください。髪も早く拭かなければ。お医師も呼んだ方が良いでしょう。」
「はい。はい、ただいま。直ぐに迎えの駕籠をやりまする。」
頭を下げて侍女は下がり、義高はほっと一息ついた。家まで送り届けてから、出かけるべきだったと自分でも思う。
義高は手をつき直も深く頭を下げた。
「申し訳ございませぬ。義高が短慮でした。もう少し、気配りをすべきでしたのに、うかつでした。」
「いいえ……義高殿のせいではありませぬ。いつも家の中ばかりで過ごさせていますから、あの子も他の子と同じように外遊びがしてみたかったのでしょう。旦那様がお城からお戻りになりましたら、大切なお話があります。夕餉を済ませてからになると思いますから、あなたはもうお部屋にお戻りなさい。」
「はっ。その前に大姫さまの御様子を伺ってまいります。」
帰宅してまだ時は経っていなかったが、既に大姫は発熱し床の中にいた。
「義高さま。ごめんなさい。」
布団の中で、しょんぼりとしおれた花のようになった大姫に、義高は努めて明るい顔を向けた。
「はは……怒られてしまいました。でも、大姫さまに食べていただくように鮎は持って帰りましたから、後ほど戴きましょう。」
「……怒ってない?」
怒ってなど居りませんと、義高は繰り返した。
額に触れると、ほろほろと熱ましい。
驚くほどひ弱な大姫だった。
秘密を知って驚いたが、心から大姫が無事で良かったと思う事に変わりはなかった。
奥方の大切な話というのは、おそらく大姫の秘密に違いないと、すでに義高は悟っていた。
本人に何も告げず、男子を女子と偽って育てた意味を、その夜遅く義高は国家老に告げられることになる。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶
。・゚゚ ’゜(*/□\*) ’゜゚゚・。大姫 「お熱が出ちゃった~」
(´・ω・`) 義高 「早く、本復しますように。」
「姫さま!大姫さま、いかがなされたのです!お怪我はございませぬか?」
大姫はにっこりと、義高の背中から笑いかけた。
「怪我はしておりませぬ。それよりも、橋から落ちた大津を助けてくれた義高さまにお礼を言っておくれ。」
「……えっ!橋から!?」
しかし、義高に向けられたのは、恐ろしいほどの激高だった。
「義高殿っ!あなた様がついて居ながら、一体どういう事です。このように御髪まで濡らしてしまって……姫さまに何かあったら、あなたはどう責任を取るおつもりですか。」
「違うの。違うの。義高さまは来てはいけないとおっしゃったの。大津はげんまんしたのに、付いて行ったの。義高さまは悪くないの……婆や。大津がいけないの……うっ……うっ……義高さまを怒っちゃいや。」
義高の背中にかきついて泣く大姫に、結局侍女はどうすることもできなかった。困り果てているところに、大津の母親が現れ助け舟を出した。
「菊や。義高殿に、早く湯を沸かして差し上げて。大姫も川に落ちたのでしたら、早く体を温めないと、またすぐに熱が出ます。部屋を暖めて、お薬湯の準備をしておいてください。髪も早く拭かなければ。お医師も呼んだ方が良いでしょう。」
「はい。はい、ただいま。直ぐに迎えの駕籠をやりまする。」
頭を下げて侍女は下がり、義高はほっと一息ついた。家まで送り届けてから、出かけるべきだったと自分でも思う。
義高は手をつき直も深く頭を下げた。
「申し訳ございませぬ。義高が短慮でした。もう少し、気配りをすべきでしたのに、うかつでした。」
「いいえ……義高殿のせいではありませぬ。いつも家の中ばかりで過ごさせていますから、あの子も他の子と同じように外遊びがしてみたかったのでしょう。旦那様がお城からお戻りになりましたら、大切なお話があります。夕餉を済ませてからになると思いますから、あなたはもうお部屋にお戻りなさい。」
「はっ。その前に大姫さまの御様子を伺ってまいります。」
帰宅してまだ時は経っていなかったが、既に大姫は発熱し床の中にいた。
「義高さま。ごめんなさい。」
布団の中で、しょんぼりとしおれた花のようになった大姫に、義高は努めて明るい顔を向けた。
「はは……怒られてしまいました。でも、大姫さまに食べていただくように鮎は持って帰りましたから、後ほど戴きましょう。」
「……怒ってない?」
怒ってなど居りませんと、義高は繰り返した。
額に触れると、ほろほろと熱ましい。
驚くほどひ弱な大姫だった。
秘密を知って驚いたが、心から大姫が無事で良かったと思う事に変わりはなかった。
奥方の大切な話というのは、おそらく大姫の秘密に違いないと、すでに義高は悟っていた。
本人に何も告げず、男子を女子と偽って育てた意味を、その夜遅く義高は国家老に告げられることになる。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶
。・゚゚ ’゜(*/□\*) ’゜゚゚・。大姫 「お熱が出ちゃった~」
(´・ω・`) 義高 「早く、本復しますように。」
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