桃花散る里の秘め 12
主君は、国家老が色よい返事をするものと思っているだろう。相手は安土から続く名門の家柄で、本来ならば断る理由がなかった。
「四面楚歌か……」
追い詰められていた。
「旦那さま。お早いお帰りですのね。お城で何かございましたか?」
浮かない顔をした主に気付いた妻は、そっと障子を閉めた。
「大津の縁談を持ちかけられた。」
「まあ……それで、なんと?」
「病身ゆえ婚姻は叶いませぬと、殿に言上して参ったが、高坂の子倅め、何もせずとも傍に居るだけで良いゆえ、大姫をくれと申しおった。」
「高坂さまというと、殿の武芸御指南役ではございませんか?そのようなお家の若さまが何故大津をご存じなのです……?」
「三日前に大津が川に落ちたことが有っただろう。その時の様子をたまたま見て居たらしい。あの様子では、大津が男子だと気づいておる。……あのものは、つい先ごろ元服は済ませたようだがな……公にはなっておらぬが、何の知識もないまま幼き念弟を抱き、大怪我をさせたことのある粗暴で早熟な少年と、わしの耳にも噂は入って来ておる。」
「では、大津を欲しいと言うのは、なぜでございましょう……」
「念兄や念弟を持ち衆道をたしなむのは、武家の習いとしていささかも不思議はないが、あれは恐らく女子よりも男子(おのこ)の方に色を感じるのであろうよ。恐らく大津を真は男子と知り、手に入れたくなったのだろう。」
「……義高殿のお申し出に、わたくし夕べは嬉しくて眠れませんでしたのに……今日は、そのような恐ろしいお話を……聞きたくはございませんでした。」
二人は揃ってため息を吐いた。
*****
翌日、藩校では高坂が殿に直接、ご家老さまの御息女を頂戴したいと言上したらしいと、噂になっていた。
義高は、藩の御前試合には参加が許されていなかったのが悔しくてならなかった。いったいどのような話になっているのかわからないが、大姫の事を既に我が許嫁などと口にする高坂を歯がゆく思う。
「大槻義高殿!」
帰りを急ぐ義高を、遠くから高坂が呼び止めた。
「お待ちください。それがしも同道いたします。」
「同道とは……?貴殿の家は反対方向ではないか?」
「いやだなぁ。見舞いですよ。聞けば、ご家老さまの御息女は、大層病弱で今も臥せっているそうではありませんか。まだ色よいお返事は頂いてはおりませぬが、ぜひとも傍で可愛らしい姿を拝見したいと思いましてね。」
「……左様でございますか。わたしはお預けの身でありますから、お見舞ならば、ご家老さまの奥方さまにお願いすればよろしかろうと存じます。」
級友たちと別れ、武具を担ってさっさと歩きはじめた義高に、背の高い高坂は大股で難なく付いてくる。肩を並べると、声を落とし顔を覗き込んだ。
「義高殿。命を懸けて姫をすくい上げたのち、口に直接息を送り込むのは、よもや口吸いとはいうまいな?」
「え……っ!?」
義高の足が止まる。
Σ( ̄口 ̄*)義高 「ま、まさか……」
♪ψ(=ФωФ)ψ高坂 「ふふふ……」
(〃゚∇゚〃) 大津 「義孝さま。早くお帰りになればいいな~」
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
まあ、悪党と言っても、高坂は元服を終えたばかりの13,14歳の少年ですから。
ただ、早熟な少年で色々やんちゃなこともしているみたいです。此花咲耶
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