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桃花散る里の秘め 4 

国家老の娘は、こうして深く家の中に隠され、雛にも希な美姫に育っていった。
病身であるからと、世間からは隔離していたが、隠せば隠すほど密かに噂は広まり、幼いながらに目を引く男子らしからぬその美貌は、父にため息を吐かせた。

余り外へ出さない大姫の姿を見るものは少なく、まことしやかに噂に尾ひれがついた。
国家老は大姫の秘密を、主の藩主にさえ話さなかったが、それがこの先の憂いとなる。
いずれ、困った縁談が持ち込まれ、両親は顔を見合わせて困惑することになるのだった。

*****

2年後。

国境の藩が、二心の無い証しにと寄越した人質、三男の大槻義高は凛々しく成長している。
烏帽子親には藩主が名を貸し、立春には仮元服を行うことになっていた。
今も藩内ではお役目のないお預け(飼い殺し)の身であったが、こればかりは義高にも国家老にもどうしようもなかった。

自分の身を嘆くことなく、義高は今も変わらず大姫の傍らにあった。

「義高さま。共に手習いを致しましょう。」

「はっ。でも、大姫さま。わたしの顔に墨で悪戯するのはおやめくださいね。」

「お勇ましい顔にして差し上げたのです。今日は、眉を太くする?」

「姫さま……!では、国家老様にご報告いたします。」

「え?……義高さま。父上に言いつけるの?」

くるくると変わる表情を、義高は楽しげにからかった。見る見るうちに涙が盛り上がって溢れそうになる。

「嘘ですよ。姫さまが御困りになるようなことを、義高は決して致しません。」

「良かった~。だって父上ったら、お怒りになるとまるで真っ赤な不動明王さまみたいなお顔になるのよ。こら~~って。いつもはお優しいけど、お怒りになると怖いの。」

「あはは……不動明王って……。国家老様も大姫さまに掛かったら……。」

義高は込み上がってくる笑いを何とか抑えた。

仔犬のようにじゃれ合う二人を、母は慈愛を込めた目で見つめていた。
いっそ、大津が本当の姫ならば良かったのに……と密かに思う。
互いに信頼し合う二人は、とても仲睦まじく見えた。
姫として疑うことなく育ち、自分が何者かを知らない大津は、いつしかいつも傍らに居る優しい義高を慕っている。
母は、決して叶わない大姫の思いを、痛いほど感じていた。




(〃゚∇゚〃) 大姫「義高さまと一緒に居るのが好き。」

(*⌒▽⌒*)義高 「お可愛らしい姫さまです。」

[壁]ω・)チラッ 「これからいろいろあるのよ~」

本日もお読みいただき、ありがとうございます。
いとけない大姫の運命やいかに……此花咲耶


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