桃花散る里の秘め 3
8年前。
流行病に倒れた愛児の遺骸を抱きしめ、大姫の母は慟哭していた。
手当ての甲斐もなく、最愛の嫡男は熱に浮かされ、母の胸で息を引き取った。
受け取った幼き骸を布団にそっと横たえると、国家老は父として脇差を守り刀として胸元に置いてやった。
「もう泣くな、琴乃。この子は運が悪かったのだ。」
「旦那さま……」
妻は泣きぬれた顔を上げた。
「わたくしがついて居ながら、やっと授かった二人目の男子までみすみす失うようなことになり、申し訳もございませぬ。年明けて三つになりまして安心いたしておりましたものを……わたくし、よもや前世で神仏に仇成す事でもしたのでしょうか。今生で我子二人と別れるような不幸に見舞われるとは、思いもよりませんでした……」
「泣くな。母が泣けば、三途の渡しでこの子が迷う。それにそなたが倒れて腹の子に障りが出たら何とする。思い詰めるでない。」
「はい……」
「だが、諦めまいぞ、琴乃。此度宿ったややが、もしも男子であったなら、わしは思い切って女子として育てようと思う。古来より女子の形(なり)をさせて育てれば、元気に育つと言い伝えがあるそうだ。先代藩主の法要に都から招いた高僧が、そのようにすれば健やかに育つだろうと申して居った。」
「まあ。本当に……?」
「こうなれば、その言葉に頼ってみようとわしは思う。どうだ、琴乃。その腹の子が、男ならば、女子として育ててみようぞ。さすれば我が家も安泰じゃ。」
国家老は至極真面目にそう語った。妻を慰めるつもりで、そんな話をしたが、いつしかその気になっていた。幸い、妻は男腹でこれまでも夭逝したものの、立て続けに男子ばかりを身ごもっている。
僧の言うまま、今度こそ、嫡男が丈夫に成人するよう御仏に願を掛けて、藩主は三月の間、密かに五穀断ちをした。
そして、十月十日の月が満ち、二人は望み通り念願の玉のような男子を授かった。生まれ落ちた子供に、父は「大津」と名を付け言葉を掛けた。
「大津……元服の儀を迎えるまでは、そなたは我娘、大姫じゃ。良いな、達者に育てよ。」
「大姫……早う大きくおなり。それにしても、この子は難なく女子として育てられるように、神仏が御力をお貸しくださったのでしょうか。とても男(おのこ)には見えないかわいらしい顔をしております。」
「うりざね顔はそなたに似たのであろうよ。わしも安堵した。確かに女子のような優しい顔立ちじゃ。のう……大姫。」
丸々とした赤子は、父の胸でくしゅと小さなあくびをした。
「おお、良い子じゃ。男でも女子でも良い。まずはこの子が健勝に育てばのう。」
「はい、旦那さま。」
国家老の嫡男として生を受けた大津は、こうしてすくすくと国家老の一の姫「大姫」として育っていった。
(°∇°;) お、男の娘……時代物版だった~……
(〃゚∇゚〃) わけありの大姫でっす。
(`・ω・´)今も昔も、子供は宝物なのです。元気に育て、大姫。此花咲耶
流行病に倒れた愛児の遺骸を抱きしめ、大姫の母は慟哭していた。
手当ての甲斐もなく、最愛の嫡男は熱に浮かされ、母の胸で息を引き取った。
受け取った幼き骸を布団にそっと横たえると、国家老は父として脇差を守り刀として胸元に置いてやった。
「もう泣くな、琴乃。この子は運が悪かったのだ。」
「旦那さま……」
妻は泣きぬれた顔を上げた。
「わたくしがついて居ながら、やっと授かった二人目の男子までみすみす失うようなことになり、申し訳もございませぬ。年明けて三つになりまして安心いたしておりましたものを……わたくし、よもや前世で神仏に仇成す事でもしたのでしょうか。今生で我子二人と別れるような不幸に見舞われるとは、思いもよりませんでした……」
「泣くな。母が泣けば、三途の渡しでこの子が迷う。それにそなたが倒れて腹の子に障りが出たら何とする。思い詰めるでない。」
「はい……」
「だが、諦めまいぞ、琴乃。此度宿ったややが、もしも男子であったなら、わしは思い切って女子として育てようと思う。古来より女子の形(なり)をさせて育てれば、元気に育つと言い伝えがあるそうだ。先代藩主の法要に都から招いた高僧が、そのようにすれば健やかに育つだろうと申して居った。」
「まあ。本当に……?」
「こうなれば、その言葉に頼ってみようとわしは思う。どうだ、琴乃。その腹の子が、男ならば、女子として育ててみようぞ。さすれば我が家も安泰じゃ。」
国家老は至極真面目にそう語った。妻を慰めるつもりで、そんな話をしたが、いつしかその気になっていた。幸い、妻は男腹でこれまでも夭逝したものの、立て続けに男子ばかりを身ごもっている。
僧の言うまま、今度こそ、嫡男が丈夫に成人するよう御仏に願を掛けて、藩主は三月の間、密かに五穀断ちをした。
そして、十月十日の月が満ち、二人は望み通り念願の玉のような男子を授かった。生まれ落ちた子供に、父は「大津」と名を付け言葉を掛けた。
「大津……元服の儀を迎えるまでは、そなたは我娘、大姫じゃ。良いな、達者に育てよ。」
「大姫……早う大きくおなり。それにしても、この子は難なく女子として育てられるように、神仏が御力をお貸しくださったのでしょうか。とても男(おのこ)には見えないかわいらしい顔をしております。」
「うりざね顔はそなたに似たのであろうよ。わしも安堵した。確かに女子のような優しい顔立ちじゃ。のう……大姫。」
丸々とした赤子は、父の胸でくしゅと小さなあくびをした。
「おお、良い子じゃ。男でも女子でも良い。まずはこの子が健勝に育てばのう。」
「はい、旦那さま。」
国家老の嫡男として生を受けた大津は、こうしてすくすくと国家老の一の姫「大姫」として育っていった。
(°∇°;) お、男の娘……時代物版だった~……
(〃゚∇゚〃) わけありの大姫でっす。
(`・ω・´)今も昔も、子供は宝物なのです。元気に育て、大姫。此花咲耶
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