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桃花散る里の秘め 2 

濡れ縁から様子を眺めていた、大姫の父、国家老が声を掛けた。

「大津。義高殿を困らせてはいけないよ。」

「困らせたりはしておりませぬよ、父上。転びそうになったのを義高さまに助けていただいただけです。床の間に活ける雛の節句の花は、このくらいもあれば足りましょうか?もう、すっかり蕾がほころびそうになっておりまする。」

「そうだな。菜の花と共に、母上が活けてくださるだろうから、義高殿と一緒にそっと勝手の方へ持ってお行き。転ばぬようにな。」

「は~い。」

共に勝手口に向かいながら、義高はふと大姫の赤くなった手首に気付いた。

「お待ちください。姫さま。先ほど枝でこすったのではありませんか?手に傷が出来ておりまする。お手当てをしませぬと。」

「傷……?こんなものは、舐めておけば治ります。太郎もこの前傷ついた仔犬を舐めていたもの。」

「狗(いぬ)とご自分をご一緒にしてはなりませぬ。御手当はきちんといたしませんと、大事になるかもしれませぬ。」

「う……ん。義高さまが言うならそうするけど……。お薬を塗るの?姫は百足(むかで)を菜種油に漬けたお薬は嫌いよ。つんと鼻に臭うのですもの。」

「いやでも傷が膿むといけませんからね。まずは、井戸端で洗って差し上げます。お薬はそれからです。こちらへいらっしゃい。」

「大津は義高さまが舐めてくだすった方が良いのに。」

「大姫さま。義高は狗ではありませぬよ。姫さまを舐めたりは致しませぬ。」

くすっ……と上目づかいに大姫は笑った。

「怒らないで、義高さま。大津は義高さまにならば、この傷を舐められても良いと思っただけなの。」

決して怒ってはいないが、義高はわざと大きなため息を吐いてそっぽを向いた。

自分の桃の節句の祝いに飾る、桃の花を抱えた大姫さまは、まるで小さな花の精のようだと義高は思う。
男兄弟しか知らない義高には、2歳年下のこの姫が、どうにも可愛くてならなかった。
初めてまみえた時から人懐っこく、うれしや、姫に兄上様が出来たと喜んだ。
大姫の父親である国家老の家に、お預けの人質の自分とは、到底身分違いで想いを告げようなどとは望むべくもないが、かなうならばどこまでもお傍に居たいと思う。

義高は大姫に、常に優しい眼差しを向けていた。

だが、この姫には家老夫婦と産婆しか知らぬ、重大な秘密がある。
それは、大姫が生まれる少し前の頃の話だった。




(°∇°;) じ、重大な秘密……?

(〃゚∇゚〃) 何かしら~

|゚∀゚)続きは、明日……?

■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ


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