桃花散る里の秘め 5
ある日、藩校から急ぎ帰ってきた義高は、見つけた大姫に因果を含めていた。
姿が見えぬと思い、こっそり抜け出したつもりが、振り向けばそこに姿がある。
「あ。」
「義高さま。大津も……」
「姫さま。此度ばかりは、ご一緒はなりませぬ。」
「どうして……?」
「わたしはこの川の上流に鮎を取りに行くのですから、姫さまをお連れするわけには参りません。上に行くほど流れの速い川なのです。足を取られて転んだら、男でもそのまま一気に流されてしまいます。」
「……義高さまの意地悪。何もお魚を獲りたいとは言っておりません。大津は、鮎を取る義高さまを見て居たいの。……どうして義高さまと一緒に行ってはいけないの?」
無垢な丸い目でじっと覗き込まれたら、義高には抗えなかった。
「ご家老さまがお許しくださるのでしたら、義高に依存はございません。しかし、ご重役さまの御息女が、他国から来た義高といつまでも共に遊んでいるのはいけないことなのです。こうして表で話をしているところを誰かに見られたら、姫さまが謗りを受けます。」
「なぜ?……義高さまは大津が嫌いなの?」
「そんなことはありません!」
「だって、近ごろいつも一緒に居てはいけないと言うんだもの。大津は一人で寂しい……」
「姫さま。お慕いしてくださるのは、義高はとてもうれしいのです。しかし、わたしは他藩のもので、この国のものではありません。いずれ、姫さまにもご縁談があるでしょうし、いつまでもこうして幼い時のように遊んでいるわけには参りませぬ。それにいつかは、義高はこの国を出てゆく身です。」
「いやいや。出てゆくなんて許しません。どうしてそんなことを言うの?」
何故と問われて返答に困る義高だった。距離を置こうとしても、この姫には通じなかった。
そのうち、ぽろりと涙の粒が頬を転がり始め、義高は機嫌を取るのに追われた。
「え~と……大姫さまの弱い御身足では、川上まで登っていけませぬ。それに6月と言えども、川の水は身を切るように冷たいのです……」
「……うっ……うっ……義高さまと、一緒に行く……」
「あ……のっ、そうだ、大姫さま。姫さまに、獲ってきた中で一番大きな鮎を差し上げます。」
「一番……?」
「はい。本当は驚かせたくて秘密にしていましたが、打ち明けます。義高は大好きな姫さまに、見事な鮎を釣り上げてお見せしたかったのです。」
「大津を大好き?……本当?」
義高は肯いた。嘘偽りなどではない、本心だった。
「本当です。ですから、大好きな姫さまを、危ない場所にお連れすることは叶わぬのです。大きな鮎を捕らえて来たら、塩焼きにしてもらってご一緒に戴きましょう。」
「大津は甘露煮の方が好き……」
「では、賄い方にお願いしましょうね。楽しみにお待ちください。直ぐに帰って参りますから。」
「じゃあ……大津は帰ります。」
「真っ直ぐお帰り下さいね。道はお分かりですね。」
こくりと頷いて、涙を拭った大姫を抱き上げると、義高は大きな鮎を捕まえますからね、とささやくように告げた。
下ろされた大津は、義高に行ってらっしゃいと素直に手を振った。
そして数刻後、義高は青ざめる事になる。
「……見るだけだもの。誰にも内緒で、そうっと義高さまの様子を見たら帰って来るの。だから、少しくらい平気ね。」
姿が見えなくなった後、寂しくなった大姫がこっそり後を付いてきたのに義高は気付かなかった。
(〃゚∇゚〃) 大姫 「うふふ~、こっそり~」
( *`ω´) 義高 「も~~、ついてきては駄目だと、言ったのに。」
(*/д\*) 大姫 「だって……」
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
この先、二人に何が起きるのでしょうか。 此花咲耶
姿が見えぬと思い、こっそり抜け出したつもりが、振り向けばそこに姿がある。
「あ。」
「義高さま。大津も……」
「姫さま。此度ばかりは、ご一緒はなりませぬ。」
「どうして……?」
「わたしはこの川の上流に鮎を取りに行くのですから、姫さまをお連れするわけには参りません。上に行くほど流れの速い川なのです。足を取られて転んだら、男でもそのまま一気に流されてしまいます。」
「……義高さまの意地悪。何もお魚を獲りたいとは言っておりません。大津は、鮎を取る義高さまを見て居たいの。……どうして義高さまと一緒に行ってはいけないの?」
無垢な丸い目でじっと覗き込まれたら、義高には抗えなかった。
「ご家老さまがお許しくださるのでしたら、義高に依存はございません。しかし、ご重役さまの御息女が、他国から来た義高といつまでも共に遊んでいるのはいけないことなのです。こうして表で話をしているところを誰かに見られたら、姫さまが謗りを受けます。」
「なぜ?……義高さまは大津が嫌いなの?」
「そんなことはありません!」
「だって、近ごろいつも一緒に居てはいけないと言うんだもの。大津は一人で寂しい……」
「姫さま。お慕いしてくださるのは、義高はとてもうれしいのです。しかし、わたしは他藩のもので、この国のものではありません。いずれ、姫さまにもご縁談があるでしょうし、いつまでもこうして幼い時のように遊んでいるわけには参りませぬ。それにいつかは、義高はこの国を出てゆく身です。」
「いやいや。出てゆくなんて許しません。どうしてそんなことを言うの?」
何故と問われて返答に困る義高だった。距離を置こうとしても、この姫には通じなかった。
そのうち、ぽろりと涙の粒が頬を転がり始め、義高は機嫌を取るのに追われた。
「え~と……大姫さまの弱い御身足では、川上まで登っていけませぬ。それに6月と言えども、川の水は身を切るように冷たいのです……」
「……うっ……うっ……義高さまと、一緒に行く……」
「あ……のっ、そうだ、大姫さま。姫さまに、獲ってきた中で一番大きな鮎を差し上げます。」
「一番……?」
「はい。本当は驚かせたくて秘密にしていましたが、打ち明けます。義高は大好きな姫さまに、見事な鮎を釣り上げてお見せしたかったのです。」
「大津を大好き?……本当?」
義高は肯いた。嘘偽りなどではない、本心だった。
「本当です。ですから、大好きな姫さまを、危ない場所にお連れすることは叶わぬのです。大きな鮎を捕らえて来たら、塩焼きにしてもらってご一緒に戴きましょう。」
「大津は甘露煮の方が好き……」
「では、賄い方にお願いしましょうね。楽しみにお待ちください。直ぐに帰って参りますから。」
「じゃあ……大津は帰ります。」
「真っ直ぐお帰り下さいね。道はお分かりですね。」
こくりと頷いて、涙を拭った大姫を抱き上げると、義高は大きな鮎を捕まえますからね、とささやくように告げた。
下ろされた大津は、義高に行ってらっしゃいと素直に手を振った。
そして数刻後、義高は青ざめる事になる。
「……見るだけだもの。誰にも内緒で、そうっと義高さまの様子を見たら帰って来るの。だから、少しくらい平気ね。」
姿が見えなくなった後、寂しくなった大姫がこっそり後を付いてきたのに義高は気付かなかった。
(〃゚∇゚〃) 大姫 「うふふ~、こっそり~」
( *`ω´) 義高 「も~~、ついてきては駄目だと、言ったのに。」
(*/д\*) 大姫 「だって……」
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
この先、二人に何が起きるのでしょうか。 此花咲耶
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