桃花散る里の秘め 18
「貴殿の思うように、都合よくはゆかぬ。この上は、評定所(裁判所)に出向き、貴殿の行い、広く問う事とする。貴殿と大姫を追う前に家人に告げて、既にご家老さまには、つなぎを付けてある。」
「……そのようなこと、されてたまるか。」
じりじりと目線を絡ませた合ったまま、間合いを高坂が詰めて来る。傷口からの出血で義高の着物はしとどに濡れ、色を変えていた。
追い詰められた高坂が聞く耳を持つかは、ひとつの賭けだった。
*****
一方、大津は必死に駆けていた。(傍目には、とても走っている様には見えなかったが)
義高が早くお行きなさいと言ったのは、きっと屋敷に戻り助けを呼べという事なのだろうと思う。
早く誰かを呼ばなければ、義高のうすい藍色の着物の染みは、どんどん広がってゆくだろう。心配で胸が潰れそうだった。
「義高さま。どうか……お願い。ご無事でいて……」
か弱い足では、半里ほどの道のりも果てしがない気がする。ぜいぜいと息が上がった大津は、それでも一生懸命来た道を戻っていた。
「義高さま……大津が、すぐに……助けを呼んでまいります……」
早く駆けられない自分が不甲斐なく、涙がこぼれたがそれでも大津は諦めずに先を行く。
「急がなければ……義高さまが……」
何度か転び、足の痛さに思わず天を仰いだとき、父の愛馬のいななきを聞いた。
「大津!」
「あ……父上……」
「供も連れず、かような場所でいかがした?ほら、おいで。」
父はそのまま大津を馬上へと引き上げた。
「屋敷からお前が一大事と使いが来たので、急ぎ帰宅する途中だ。一体何があった?義高殿は一緒ではなかったのか?」
ふと見れば、女性用の着物の着付けなどできない義高が、何とか結びつけた帯も解けかけ、大津はとんでもない格好になっていた。
大津は父親に懸命に訴えた。
「あの社に、義高さまが……大津をおぶった高坂さまが……高坂さまが斬り付けて、義高さまがお怪我をなさったのです。大津が高坂さまにお怪我をさせて……だから大津のせいです……父上……え~ん……」
「ん~、大津の話は、何が何やら父にはわからぬな。とにかく……上の社に義高殿と高坂殿がいるのだな?二人は揉めたのだな?それで大津は助けを呼びに行く途中だったのだな?」
「……はい……」
「では、おまえはこのまま流星とここで待っておいで。わたしが話をして来よう。」
「大津も……行きます。」
父は乱れた着物を直してやると、母上が心配して待っているからそこでお待ちと告げた。修羅場に大津を連れてゆくわけにはいかなかった。
「義高殿はとても強いから、大丈夫だ。きっと無事に連れて来るから、大津は泣かずにいるんだよ。」
「……泣きません。」
「いい子だ。後でよき話があるからな。」
ぽろぽろと転がり落ちる涙をぐいと拭って、大津は石段を見上げた。
木立に綱をくくりつけると、父は軽々石段を駆け上がってゆく。
本日もお読みいただきありがとうございました。此花咲耶
(`・ω・´)国家老 「いかがした、大津?」
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。大津 「高坂さまが……義高さまが……え~ん」←わけわかめな大津
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