桃花散る里の秘め 17
「……」
高坂は黙したまま、視線を落としていた。
「高坂殿は、この義高と同じように、きっと大姫さまと親しくなりたかったのです。ただ、方法を誤ったのです。」
「安堵しました……」
ゴト……と鈍い音がして、脇差が床に落ちた。
「お二方……あの……大津は自分が普通ではないと、知っています。」
「大姫さま……それは?」
「大津には菊や母上のように、胸に丸いまろみがない……いつか、同じようになるのかと聞いたら、菊は哀しそうに笑ったのです。父上と同じように、男子の徴(しるし)があるのは何故と、母上にもお聞きしたことが有ります。母上は泣くばかりで、お答えしてはくださら……なかった。」
ほろ……と、涙がこぼれた大姫の肩に、義高は着物をはたいて着せかけてやった。
「……帰りましょう、大姫さま。時期が来れば、ご家老さまがきっと全てをお話下さいます。どんなことがあっても、わたしは大姫さまを大切に思います。」
「義高さま。大津は……義高さまを信じます。」
「さ、大姫さま。」
義高は大津に背中を向けた。
「大槻、覚悟!」
その機を狙いすましたかのように、高坂の白刃が真っ直ぐに二人を襲う。
向けられた殺気を辛うじて交わし、義高は体を入れ替えた。どんと大姫を押しやり、咄嗟に鞘ごと引き抜いた刀で受け止める。
大津が負わせた手傷のせいで、刀を操る速度が鈍くなっていたのが幸運だったが、じんと背中から腋にかけて熱くなる。
「卑怯者!それが、武芸指南、高坂家のご嫡男のなさることか!」
切先がわき腹をかすめたと知り、義高は高坂に向き合った。
はっと我に返った高坂は、鬼の形相で直も正眼に構えたまま、じっと義高に狙いを付けたまま動かなかった。
「この傷の理由を父上はお聞きになるだろう。正当な試合以外で刃物を合わせることを高坂流は禁じておる。ありのまま話せば、破門はまぬがれまい。下手すれば勘当される。」
「自業自得ではないか……」
「男の姫と報われぬ恋をした他藩の居候が、ここで心中立てをしようとしたのを止める折りに傷を負ったとご家老に言上する。」
義高はがくりと社の入り口付近で膝を付いた。
「義高さま!」
義高は小さな声で、いいから早くお行きなさいと大津にささやいた。背後に大姫を押しやり、社の外に出すと高坂を睨みつけた。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。大姫 「卑怯者~~~」
♪ψ(=ФωФ)ψ 高坂 「ふんっ!」
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