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小説・若様と過ごした夏・32 

大法要の日は、ご住職のほかに大勢のお坊さんがいらっしゃて煌びやかな袈裟は壮観だった。


兄弟子や、弟弟子、友人も含めて総勢15人はいるだろうということだった。


おばあちゃんは、ママと佳奈叔母さんや、縁戚の人たちの差配に忙しそうだった。


大法要は、お寺の本堂で行われるのだけど、今年は若様のこともあっておばあちゃんもやたら気合が入っている感じだった。


あたしは「お芳さん」を探した。


本堂の縁からちょうど、西の方角に近くの川から運ばれた大きな石碑が建っている。


多くの人の鎮魂のために建てられた、青石は風雪に晒されていつしか彫り込まれた文字は、判別が難しくなっていた。


大勢の縁者が、撫でながら冥福を祈ったため少しずつ薄くなったのだと思う。


心の中で、尋ね人の名前を呼んでみた。


「お芳さん。」


青石から、弱い波動を感じる・・・


たくさんの魂の鼓動が、大法要での救いを待ちかねてざわめいているようだった。


おばあちゃんの助けがないと、あたし一人ではお芳さんを呼び出すのは無理なのかもしれない。


若様はこのまま成仏して、両親の元に迷うことなくきちんと行けるのかどうか、あたしはすごく気になっていた。


「真子。」


何故だか、若様は、この青石の側にくるとすごく弱々しい。


このまま、薄く透けて溶けてしまいそうな気がしてあたしは思わず若様の手を取って、石から離れた。


「待ちや。」


背後から、昨日の声がする。


「乳母や!」


そりゃね、あたしには共に暮らした歴史は有りませんけどね・・・


すぐに手を振りほどいて、しっぽを振りながらお芳さんの下に走る若様に、あたしはちょっとむかついた。


・・・しっぽなんて、あたし以外に見え無いだろうけど・・・。


「じゃね。」


「真子・・・?」


「あたしは向こうで、用があるから。」


「わたしを置いてゆくのか・・・?」


・・・ああ~、もうっ!


あたしのへたれ好きが、起動した。



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