小説・若様と過ごした夏・29
気合を入れて、あたしは青石の前に立った。
手を触れると、目には見えない何かがまといつく気がする・・・
「あなたは、誰ですか?」
おばあちゃんはすぐ横で般若心経を唱えてくれていたけど、あたしの鼓動は隣に伝わりそうなくらい、大きく打っていたと思う。
「我が名は、芳。
お芳と呼ばれておる。」
おばあちゃんに、お芳さん・・・とささやくとかぶりを振った。
どうやら奥方様の名前ではないらしい。
残念だけど。
「そなた、影様をどちらに隠した?」
お芳という人の霊は、きつい目であたしをにらんでいた。
いや~ん・・・こわ~い・・・・
この前、振り切って帰ったのを覚えているみたいだった。
「お探しの若様は、「宗太郎様」でしょうか?」
陽炎のように、婦人の霊がふわりと揺れた。
「なぜ、それを・・・?
影殿の名は伏されておるに。」
手短に、全て説明した方が良いような気がした。
きっと、この霊は若様を探して迷っている。
「来てください。影様にお会わせしますから。」
「出来ぬ。
わたくしはどうやらこの青石に、つなぎとめられているようなのじゃ。
ここから、動くことはかなわぬ。」
「では、わたしと共に・・・手を合わせて。
きっと上手く行きますから。」
霊媒体質の宗ちゃんと違って、あたしは霊が憑くという初めての経験に、すごく面食らっていた。
あたしであって、あたしじゃない・・・感じ。
宗ちゃんはこんな感じになっているのか・・・確かにきつい・・・
その証拠に、あたしはこんな風にすり足で歩かないし内股でもなかった・・・そして、何だかこの人の考えていることがわかる。
ひたすら、視線は若様の姿を探している・・・この人は、きっと若様の近くにいた人に違いなかった。
眠る宗ちゃんの足元で、呆けて空を見る若様にあたしの中の人は足を止めた。
「影様。」
自然にそんな言葉が漏れた。
「乳母や!」
きゅんきゅんしっぽを振って、若様があたしに飛びついてきた。
手を触れると、目には見えない何かがまといつく気がする・・・
「あなたは、誰ですか?」
おばあちゃんはすぐ横で般若心経を唱えてくれていたけど、あたしの鼓動は隣に伝わりそうなくらい、大きく打っていたと思う。
「我が名は、芳。
お芳と呼ばれておる。」
おばあちゃんに、お芳さん・・・とささやくとかぶりを振った。
どうやら奥方様の名前ではないらしい。
残念だけど。
「そなた、影様をどちらに隠した?」
お芳という人の霊は、きつい目であたしをにらんでいた。
いや~ん・・・こわ~い・・・・
この前、振り切って帰ったのを覚えているみたいだった。
「お探しの若様は、「宗太郎様」でしょうか?」
陽炎のように、婦人の霊がふわりと揺れた。
「なぜ、それを・・・?
影殿の名は伏されておるに。」
手短に、全て説明した方が良いような気がした。
きっと、この霊は若様を探して迷っている。
「来てください。影様にお会わせしますから。」
「出来ぬ。
わたくしはどうやらこの青石に、つなぎとめられているようなのじゃ。
ここから、動くことはかなわぬ。」
「では、わたしと共に・・・手を合わせて。
きっと上手く行きますから。」
霊媒体質の宗ちゃんと違って、あたしは霊が憑くという初めての経験に、すごく面食らっていた。
あたしであって、あたしじゃない・・・感じ。
宗ちゃんはこんな感じになっているのか・・・確かにきつい・・・
その証拠に、あたしはこんな風にすり足で歩かないし内股でもなかった・・・そして、何だかこの人の考えていることがわかる。
ひたすら、視線は若様の姿を探している・・・この人は、きっと若様の近くにいた人に違いなかった。
眠る宗ちゃんの足元で、呆けて空を見る若様にあたしの中の人は足を止めた。
「影様。」
自然にそんな言葉が漏れた。
「乳母や!」
きゅんきゅんしっぽを振って、若様があたしに飛びついてきた。
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