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漂泊の青い玻璃 36 

タクシーを飛ばして大学病院の夜間出入口に付いた時、電話をくれた看護師は表に出て尊を待っていてくれた。

「寺川さん?」
「そうです。電話をありがとうございました。ご迷惑をおかけしました。あの……弟は?」
「わたしたちが当直する部屋で眠ってるの。何だか、とても苦しそうなんだけど、熱のせいだけではないみたいで、気になって連絡差しあげたんですけど……琉生くん、おうちで何かあったんですか?」
「ええ……少し、家の中で父と揉めたみたいです。」
「そうだったの。思春期ですもの、色々あるわね。」

親身に琉生の心配をしてくれる看護師の表情に、尊はふと相手が病院関係者でもあり、話をしてみようかと思った。

「あの、お忙しいでしょうが、少しお時間いただいてもよろしいですか?込み入った話になるんですが……」
「わたしで良ければ、どうぞ。」
「実は……父の精神的な状態が良くなくて、弟に負担がかかっている様なんです。出来れば、相談に乗っていただきたいです。」
「そう、琉生くんにも事情があるのね。実はね、ついこの間、再会したばかりなんですよ、わたし達。」
「そうなんですか?看護師さんは、琉生の知り合いだったんですか。」
「ええ、うんと昔の知り合いなの。琉生くんは小さな頃、お母さんがお勤めに出ている間、入院しているお父さんの傍でずっと過ごしていたの。その頃の知り合いよ。琉生くんは、3歳くらいだったかしら。可哀そうなくらいいい子でしたよ。」

尊は、琉生は今もそうなんです……と、言いかけた言葉を飲み込んだ。

*****

「どうぞ。」

看護師に促されるようにして、尊は誰も人のいない面会室に入った。
こんなものでごめんなさいねと、看護師は自販機の缶コーヒーを尊の目の前に置いた。

「寺川さん。さっきのお話の続きですけど、琉生くんのお父さんは、この病院で亡くなったの。まだ20代だったと思うわ。」
「そうですか……。僕は琉生の亡くなった父親に関しては何も知りません。琉生は父の再婚相手の連れ子ですから。母は先日亡くなりましたが、そういった話を僕達にはしませんでした。多分気を使っての事だと思います。」
「まあ、あの綺麗なお母さん、お亡くなりになったの。……可哀想に。」
「もう、二年になります。琉生は母親に似ているので、父は時々混同するみたいです。今回の事も、それが原因だろうと思います。ただ、なぜここを訪ねて来たのか、僕にはわかりませんでした。」
「そう……お父さんもお気の毒に。実はね、琉生くんのお父さんが、最後に病室で描いた絵が玄関ロビーに飾ってあるの。もしかすると、琉生くんは絵を見に来たのかもしれないわね。」
「……僕らは……僕は琉生を守ると言っておきながら、琉生が居なくなってもどこに行ったのかわかりませんでした。琉生の仲の良い友人の事も、殆ど聞いていなかったんです。僕が何もできなかったから、琉生は亡くなった父親に救いを求めたんです……兄として力不足でした。」
「そう……それに貴方にとっては血の繋がりのあるお父さんの事だから、何か言うと貴方が苦しむと思ったのね。」
「ええ。……きっと、そうです。琉生はいつも周囲に気を使ってばかりだから……。琉生に何と言って謝ればいいか……」

尊はここまで彷徨って来た琉生の心情を思うと、やるせなかった。
母親を失くしたとき、琉生を守ると誓ったのに、何もできなかった。
顔を覆った尊に、看護師の声は優しかった。

「力になれるかどうかはわからないけれど、わたしの方が年を取っている分、経験したことは多いはずよ。
あなたはまだ若いし、一人で抱え込むには荷が重いのではなくて?抱えている話をしてみる気はある?患者ではないけど、琉生くんは知り合いだもの、わたしも力になってあげたいわ。守秘義務は守るから。」
「ええ……正直。どうしていいか、途方に暮れています。息子としては父も心配だし、弟の琉生も可愛いんです。このままではいけないと分かっているんですけど……」
「いいお兄ちゃんね。今日は、私の担当に重篤な患者さんはいないの。琉生くんの為にも、お話してくださる?他の看護師に、時間を貰えるように頼んでおきますから、少し待っててね。」
「よろしくお願いします。」

尊は頭を下げた。




本日もお読みいただきありがとうございます。(`・ω・´)

電話をくれたのは、琉生がお父さんの病室で過ごしていたころ、優しくしてくれた看護師さんなのです。
[壁]ω・)チラッ そういえば、琉生に宝物のミニカーくれた看護師さんいたよね~


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