Café アヴェク・トワへようこそ 2
松本が即決で雇うと決めた経験者の相良が、思ったほど役に立たないのを目の当たりにしていたからだ。
「松本さん。もう一度聞くけど、あの子本気で採用する気?」
「そうだけど。何か問題あるか?」
「小さい店だからさ、厨房も忙しいときには、ホールに出るだろう?あいつ、恐ろしいほどどんくさいんだ。人前は使えないぜ?断るつもりなら早いほうがいい。」
その時、ホールで派手な破裂音が響いた。
「ほら、また割った。今度はグラスだな。」
ため息をついた荒木が事務所の扉を開けると、相良がトレイを抱えて呆然としていた。
「怪我はなかったか?」
松本の声で、はっと我に返った相良が頭を下げた。
「すみません……おれのミスです。すみません……」
「ごめんね。後ろ通った時、当たっちゃった?」
「ううん……そんなことない。手が滑ったんだ……こちらこそ、ごめんね。」
床一面に運んでいたらしい爽やかな水色が、零れていた。
他のスタッフはてきぱきとモップでふき取ってゆく。
荒木は彼らの対応に満足しながらも、立ち尽くす相良に対するいら立ちを隠せなかった。
「相良くん。君さぁ、開店前にここの食器、全部割る気なの?」
「すみません……」
「もう何度目だよ。正直、謝罪の言葉は聞き飽きたよ。菓子衛生士の資格はあるし、フロアの経験もあるって聞いていたけど本当なの?バイトより使えない本採用なんて話、聞いたことがないよ。頑張ってるあの子たちにも、悪いと思わないか。君の時給は、彼女たちよりもずっと高いんだよ?大体さぁ……」
「荒木!」
松本は話の腰を折ると、荒木を事務所に引っ張り込んだ。
「ごめん。こいつとちょっと話するから、君らは休憩入ってて。直、賄いお願いできるかな?グラスの事は気にしなくていいからね。」
「……はい。」
「やった~。相良くんの賄いっておいしいんだよね。」
「この前のふわふわオムレツもおいしかったし。」
「……ありがと。」
「大丈夫だから、がんばろう?ね?」
「うん……」
相良はぐいと目をこすった。
一番年長者なのに、仲間内で足を引っ張っているのが情けなかった。
ちらと松本は相良に視線を送った。
スタッフの中では、浮いている風はない。
ほっと一息ついて、松本は荒木に対峙した。
本日もお読みいただきありがとうございます。
チーフシェフの荒木は、相良直の振る舞いに苛立ちを隠せません。
Σ( ̄口 ̄*) 「あ。またグラスを割りやがった。」
(´・ω・`) 「……すみません……」
(`・ω・´) 「直。気にすんな。」
(つд・`。)・゚「……はい……」
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