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Café  アヴェク・トワへようこそ 3 

「店長としては、相良くんをどうしたいわけ?」

松本のきつい視線に耐えかねて、荒木が先に声を発した。

「……あの不器用さは、時間がたてば何とかなるってもんじゃないっすよ。」
「おまえ、気づいていなかったのか?」
「は?」
「良くは分からないけど、直のあれって「虎馬」……ってやつじゃね~のか?」
「トラウマ?なんでそう思うんすか?」
「俺じゃなくたって、あんな分かりやすいの、誰でも気づくと思うけどな……」

松本は荒木が気づかないほうが不思議だった。

「ただのどんくさい奴にしか、見えませんって。」
「近くにそういうやつがいるから、わかったのかもしれないな。うちの坊ちゃんのバシタが、そうなんだよ。」
「それって、相良くんと同じようなトラウマ持ちを、知ってるってことすか?」
「ああ。本人は何とかしようとしてるんだけど、自分の力ではどうしようもないみたいだ。何か条件……きっかけっていうのかな、地雷を踏むと一気にフラッシュバックして、その時に舞い戻っちまうみたいな感じだ。何度か発作が起きたのを見たことあるけど、呼吸ができなくなったり、うわごと言ったりして、傍にいると可哀想でこっちが胸を締め付けられる気がする。大学病院がかかりつけだから、完全治癒ってのは簡単じゃないんだと思う。」
「だから、相良の事も我慢してやれっての?」
「そうは言っていない。だけどな、ねんねは強いぞ。いつも他人の心配ばかりしてるんだ。相良を見てると、なんかねんねを見てるようでさ、手を貸してやりたくなる。何とかしてやれないかな。」
「俺には無理だ。そんな余裕はない。」

荒木もそれほど薄情な人間ではない。
ただ、責任感が強い分、今の相良を見守ることなどできなかった。
理由はどうあれ、和を乱す存在は仲間内には居てほしくない
新規開店のカフェの厨房責任者としては、集めた信頼できるスタッフを、万全の状態でまとめ上げたいと思うだけだ。

「松本さん……。俺、しばらく県内の産直市を回ってきたいんだけどいいっすか?」
「産直って、国道沿いとかにある?」
「……それは、道の駅っす。まあ、似たようなものかもしれないけど。そこで気に入った農家を見つけて、いずれ店が軌道に乗ったら直接取引ってのもあると思うんですよね。」
「すげぇな、荒木!そんな事、考えていたのか。」
「誰でも考えると思いますけどね。とりあえず、4、5日、店の事は松本さんに任せます。まだ日にちもあるし、俺が傍でがみがみ叱ったら相良くんも委縮するだろうし、帰ってくるまでに何とかなりそうだったら電話ください。俺はあちこち回って、いい野菜仕入れるのに専念します。この一件は、松本さんに丸投げしてもいいっすか。」
「わかった。いろいろ考えてくれてんだな。やっぱりお前は頼りになるよ。無理言って来てもらって正解だった、ありがとう。」
「やめてください。逃亡するって言ってるのに、そんなこと言われたら照れるじゃないっすか。」
「なぁ、荒木。どうしてもだめだったら、相良には俺が話をする。荒木には憎まれ役はさせないからな。」
「松本さん……」
「おう。」
「なんだか、木本さんに似てきましたね。」
「何も出ねぇぞ。」

木本に似ている。
実は、そう言われるのが一番うれしい松本だった。




本日もお読みいただきありがとうございます。
相良の様子を見て、トラウマ持ちだと気付いた松本。
結構、ちゃんとしている面もあるようです。
開店前に、いろいろありますなぁ……

(`・ω・´)「なんだか、木本さんみたいっす。」
(*つ▽`)っ)))「よせや~い。」

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