Café アヴェク・トワで恋して 10
業務用の冷蔵庫のコンセントは、がっちりとしていて簡単に抜けるはずがない。
荒木は口にしなかったが、その不機嫌さから意図的に抜かれたのを知っていると松本は理解していた。
もしも、誰かが抜いたのだとしたら、それは店の営業妨害を狙ったのに違いない。
考えたくはないが、鍵を直と荒木が持っている以上、普通に考えればどちらかの犯行になる。
ありえない話だ。
「木本の兄貴。おはようございます。松本です。ちょっと調べてほしいことがありまして……いえ、見当はついているんで、すぐに片は付くと思います。」
忙しなく松本はcaféアヴェク・トワを後にした。
*****
黙々と働く荒木と直は、ほかのスタッフが出勤してくる前に、何とかランチの段取りを済ませ一息ついた。
「何とかなったな。直が早めに来てくれて、正直助かった。」
「おれも荒木さんがいてくれて良かったです。一人だったら慌てちゃって、何から手を付けていいかわからなかったです。でも……何で冷蔵庫の電源が落ちたんでしょう。」
「うん。そのあたりの事は松本さんに任せておけばいい。ああ見えて、あの人はもう目星をつけて動いているはずだから。」
「店長が?……そうなんですか?」
直は不思議そうだった。
「おいおい。直には松本さんがどう見えてるんだ?」
「……優しい店長……?」
「そうか。直には特別優しいみたいだからな。」
直は首筋まで赤くなって、俯いた。
荒木は松本と直の事を知っている。
「まあ、いいさ。直にも、そのうちあの人の本性が見えるだろう。馬鹿なことばっかり言ってるが、いざというときは頼りになる。松本さんを信じていればいい。」
「はい。」
やがて、ほかのスタッフが徐々に出勤してきた。
挨拶をするため厨房を覗くなり、皆一様に声を上げた。
「え~!?お肉が使えなくなったの?なんで~!勿体ない~!」
「どうゆうこと。いきなり冷蔵庫が壊れたの?」
「電源が落ちてたみたいなんだ。おれも朝出勤した時に荒木さんに聞いて、どうしようかと思った。」
「ランチはどうなるの……というか、営業できるの?」
「メニューが変わるけど、大丈夫。出来るよ。大方の野菜は大丈夫だったし。」
「ケーキもできるの?」
「時間がないから、今日は簡単なものにしたんだ。凝った物はできそうになかったから、キャロットケーキだよ。」
「へぇ……間に合ったんだ。良かったね。」
「うん。」
ふと、何を思ったか、学生アルバイトの尾上が直に聞いた。
「ねえ。昨日、最後に厨房を出たのって、直くんだったんでしょう?何も異変に気が付かなかったの?」
「気が付かなかったんだ……」
「そう。気づけばよかったのにね。」
昨夜の直は、誰かの声に怯えて足がすくみ、それどころではなかった。
動揺のあまり、冷蔵庫の電源どころか、最後に店の鍵をかけたのも自分だったか松本だったか、はっきりとは覚えていない。
落ち着くのを待ってもらい、松本に送ってもらったのだけは確かだった。
そう口にするわけにもいかず、直はあいまいに言葉を濁した。
本日もお読みいただきありがとうございます。
荒木の言う松本の評価に、意外な思いを抱いた直。
どんだけダメなやつだと思われているんだ、松本。
ヾ(。`Д´。)ノ 「駄目なやつってなんだよ!俺はできる男だぞ。」
(〃゚∇゚〃) 「店長~♡」
ヾ(o´∀`o)ノ 「直がわかってるから、いいや♡~」
|д゚) 「どんどんバカップルに……」
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