Café アヴェク・トワで恋して 9
カウンターの上に、大量の食材が乱雑に置かれていた。
すでに荒木は、下準備に取り掛かっていたが、かなり不機嫌だった。
「荒木。」
「松本さん。これ見てください。」
「どうしたんだ、これ。使えねぇのか?」
広げられた食材の肉が変色している。
「原因は?」
「店に来たら、冷蔵庫の電源が落ちてたんすよ。しかも、ご丁寧に扉が開けられていたから、この暑さで、ご覧のとおり肉と魚がパーです。匂いもないし、食べられないことはないけど、客に出すのは不安ですね。賄い用にでもして、早く使い切ってしまわないと。」
「あの、荒木さん……冷凍庫の方も駄目なんですか?」
「直、すぐに見てみろ。」
「はい。」
急いで直が中身をチェックする。
扉が閉まっていたため幸い溶けるまでには至らなかったようで、冷凍庫の食材は使えそうだ。
「こっちは扉が閉まっていましたから、大丈夫だと思います。」
「そうか、良かった。」
*****
それにしても、なぜ電源が落されたりしたのだろう。
忙しなく働く二人をしり目に、松本は冷蔵庫の電源を確認していた。
ブレーカーではなく、冷蔵庫と冷凍庫のコンセントだけが抜かれている。その上、ご丁寧に冷蔵庫の扉が自然に閉まらないように、椅子が挟んであった。
「直。メニュー変えるぞ。今日の分は使えそうな食材で凌ぐしかないからな。」
「荒木さん。冷凍してあったコロッケは使ます。メインはこれにしますか?」
「ああ、それでいい。ランチのケーキはどうする?冷蔵庫の生クリームは、品質が変わっているといけないから、使うのはやめたほうがいい。」
「そうですね。卵は使えますか?」
「ああ。大丈夫だ。」
個別に新聞紙に包んで、冷蔵庫の奥にしまってあった根菜類の無事を確認して、直は人参を出してきた。
「キャロットケーキにします。時間もかからないし、有るものでできますから。」
「頼む。最悪、足りないものは、コンビニでもスーパーにでも走るから、頑張ってくれよ。」
「わかりました。生クリームがなかったら、ホイップクリームでいいので、買ってきてください。」
「よし。」
*****
なぜ電源が切れたのか、今は考える暇もない。
荒木と直は、迫る開店時間に間に合うように準備をするのが先だった。
バウンドケーキ型に、キャロットケーキの材料を流し込むと、予熱したオーブンにセットし、直は荒木とほかの調理に掛かった。
下準備をした食材は、すべて使えない。
「急げよ。」
「はい!」
「小鉢用のポテトサラダときんぴらの、材料揃うか?」
「できます。きんぴらはごぼうと人参、蓮根でいいですか?こんにゃく入れますか?」
「こんにゃくは、違うものに使う。七味あったっけ?」
「あります。ポテサラはきゅうりとコーンの缶詰とハムでいいですか?」
「それでいい。アンチョビの缶詰があるから、風味づけに炒めて入れてくれ。あと、長芋があるから、シソの葉巻いて天ぷらにするか。サニーレタスはしんなりしているだけだから、少しの間ぬるま湯に付けてくれ。」
「わかりました。」
二人の連携で、献立が次々と形になってゆく。
本日もお読みいただきありがとうございます。
実は、このちん、最近カフェにお出かけしています。
どんな感じが流行りなのかなぁと思いつつ。
caféアヴェク・トワのメニューは、此花の食べ歩きの成果なのでっす。(〃゚∇゚〃)
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