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Café アヴェク・トワで恋して 6 

松本は不安げな直を引き寄せ、強く抱き込んだ。
そうせずにはいられなかった。

「直。どうしたんだ?」
「店長……」
「俺は直に、どうしてやればいいのかな。俺は馬鹿だから、直にとって何が正しいのかどうか、わからねぇんだよ。だがな、俺は直が可哀想だから抱いたんじゃない。抱いたのは俺が直を欲しいと思ったからだ。可愛くてどうしようもないから手を出したんだ。店を手伝ってもらう以上、俺が店長で直がスタッフになるわけだが、それはそれとして恋愛は対等な相手とじゃなきゃできねぇだろ?」

こくりと直がうなずく。

「本音をぶちまけると、出会ったばかりだってのに、俺は直が誰よりも大切なんだ。中坊のガキみたいに、直が嬉しそうに夢の話をしているだけで、いじらしくて愛おしくて欲しくてたまらなくなるんだよ。今だって、へこんだ直なら簡単にベッドに連れ込めるなって、よこしまなことを考えてるしな。俺は一生懸命菓子を作る直が好きだ。それを邪魔する奴は、俺が何をおいても排除してやりたいと思う。それじゃダメか?俺の好きと直の好きは別ものだと思うか?」
「……同じだと思います。」
「直。見えないものに怯えるな。一度道を選びそこなったくらいで、誰も信用できないと決めつけるなよ。誰にだって間違いはある。俺だってこれまで散々失敗して来たぞ。俺の兄貴分の持論だけどな、回り道ってのは悪い事ばかりじゃない。生きてさえいれば何とかなるもんなんだ。後になって考えれば、無駄じゃなかったって思える日が、きっと来る。」
「……そうかな……?」
「直が回り道して良かった事を、一つ教えてやろうか?」

直は小首を傾げて、松本の言葉を待った。

「俺と出会っただろ?」

松本は強張った直の頬に手を伸ばし、言葉を続けた。
必死に言葉を選んでいたが、内心では直に届いているかどうか不安だった。

「ひどい目に遭っても、直の根っこは変わっていないだろ。その証拠に毎日、ちゃんとケーキを作れてるじゃねぇか。見えないものに囚われていないで、不安だったら俺に甘えろ。毎日、直は大丈夫だって教えてやるから。皿なんて、いつかは割れるもんだ。気にすることはない。直のほうがよほど大事だ。」

直の表情がふっと柔らかくなった。

「店長は、なんでそんなにおれに優しいんですか。」
「そんなの、下心があるからに決まってるじゃねぇか。」
「えっ……?」

予想外の返答に、思わず目を丸くした直は、まじまじと松本を見つめた。

「おかしいか?だけど俺はな、直が可愛くてどうしようもないんだよ。直のなにもかも手に入れたくて仕方がないんだ。荒木がばらしちまったけど、本当は自分で格好良く「君と共に」って言うつもりだったんだ。ひでぇよな、荒木の奴……店の名前、寝ないで考えたのにあっさりばらしやがって。むかつく~!」

泣き出しそうな顔で、直は無理やり笑った。
これほどまでに、まっすぐに自分を求めてくれた人と初めて会った気がする。
松本の言葉は飾り気がなくて乱暴だが、直の深いところにすとんと届いた。
答えの出ない余計なことを考えないで、この人の背中を見つめていれば、いいのかもしれない。

「直……俺な、今のしゃべりに脳ミソ2年分くらい使ったかもしれない。疲れた。」
「おれも打ち明けるのに、ありったけの勇気使いました。」
「かっこよかっただろ?」
「はい。とても。」
「ブドウ糖使ったから腹減ったなぁ。直の部屋で、なんか食わせてくれ。」
「はい。食材はおれで良いですか?」
「よっしゃ!良い答えだ。腹いっぱい食うぞ~!お代わり自由だな?」
「お代りは自由ですけど、時間制限が有ります。」
「なんだよ、バイキングかよ~。くそ~。」
「あはは……」

手をつないぐ恋人たちを追いかける月明かりは、どこまでも優しい。
松本が名付けたCaféアヴェク・トワの名前のように、この人とずっと一緒にいられたら……と、直は思った。




本日もお読みいただきありがとうございます。

直の心に、不器用な松本の言葉が染みてゆきます。

(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚「店長……」「心配すんな、直。」

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