Café アヴェク・トワで恋して 8
翌朝。
短いアラームの音に飛び起きた松本は、慌てて服を着始めた。
「うわっ。やべぇっ!着替えに帰る時間がない、直、悪いっ。すぐ出るから。駅前でタクシー拾うわ。」
「あっ。待ってください。」
「いや、いくらなんでも、このままじゃあかんだろう。せめて下着くらいは帰って替えないと、店に行けないからな。」
「あの……ありますから。店長の着替え。」
「は?」
「好みじゃないかもしれませんけど、買っておきました。」
そう言って、直は下着一式とシャツを取り出してきた。新しい靴下もある。
シャツは普段松本が着ているような高級品ではないが、今はいているパンツに合う色合いだ。
鏡の中の松本によく似合っているのを確認して、直はほっと息をついた。
「お、いいじゃねぇか。直はほんとに気が利くなぁ。センスもいい。」
「買い物行ったついでに、スーパーで間に合わせに買っただけです。安物です。」
「何言ってるんだ。俺好みだよ。直は気の付くいい嫁だな。」
「……褒め言葉になってません。」
「あはは……時間ができたな。コーヒーだけ呉れるか?直も一緒に出るだろ?」
「ちゃんと食べておかないと駄目です。簡単なものしかできませんけど、ハムエッグ作りますから、朝ご飯食べていってください。」
直は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し、グラスに注いだ。
「すぐにできますから。」
「お、フレンチトースト……?やっぱり、いい嫁じゃねぇか。」
「口当たりは甘いですけど、シナモンシュガーだけですから糖分はそんなに入っていません。」
「うめぇな。こんな風に、直と毎日朝飯を食えたら最高だな。」
松本は何気なく口にしたが、直には思いがけない特別な言葉だったらしい。
「……店長は、誰にでもそんな風に言うんですか?」
「ん?思ったことは相手に直接伝えないと、通じないだろ?」
「そうですけど。」
「思ってるだけで、相手に通じるなんて絶対にないからな。だから、言葉があるんだよ。直の飯はうまかった。ごちそうさま。」
「お粗末さまです。」
「直、7時30分前だ。」
「あ、おれももう出ます。店に行かないと。」
「片づけどうする?」
「少しですから、洗ってしまいます。」
「よし。手伝う。洗い物は俺がやるから、直は支度しろ。」
松本も長らく木本の下で雑用をこなしていたせいで、洗い物などは慣れている。
手際よく片づけをこなした。
「直。出かける前のチュウ~♡は?」
「一緒に出かけるんだからしません。」
「つまんね~。なぁ、ちょっとだけ。直~、チュウ~♡」
「聞き分けのない子供みたいです。」
それでも、頬に一つぎこちないキスを贈られて、上機嫌な松本だった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
松本みたいに能天気な男と、引っ込み思案な直の取り合わせは、どこか不思議です。
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