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Café アヴェク・トワで恋して 5 

小さくため息をついた直に、松本が気が付いた。

「どうした、直?」
「何でもないです。みんな、優しいなって思って。」
「そうだな。」
「店長。……おれ、熊に襲われたことになったんですね?」

熊に襲われたなどと、突拍子もないことを良く思いついたものだと思う。
松本には、何の衒いもなかった。

「ああ、あれな~。とっさに口から出ちまったんだよ。コモドオオトカゲに襲われた事にしたかったんだが、どこに住んでるかわからなかったからな。」
「一応、突っ込みを入れると、荒木さんが片言で言ってた灰色熊って、北アメリカのでかい熊ですよ。北米出身なのって言われたら、おれどうしようって思いましたよ。英語なんて話せませんもん。」
「直。ちっさいことは気にするな。英語は英検4級の俺に任せろ。」
「はい。頼りにしてます、店長。」

英検4級で堂々としている松本が頼もしかった。

「片付けはもういいのか?」
「はい。もう洗い物も終わりましたし、野菜の下ごしらえは明日、荒木さんがやってくれるそうです。迷惑かけてすみませんでした。」
「帰るぞ。家まで送っていく。」
「すぐ、出ます。」

直は、静かに厨房の明かりを落とした。

*****

見上げる空に、星が瞬き始めていた。

「おれ、こんな風に空を見上げるの久しぶりです。」
「そうか。気持ちのいい夜だな。星がよく見える。」

松本は、そっと腕を絡ませてきた直の肩を抱いた。
ずっと俯いてきた直は、暗闇に差し込んできた光のような男に包まれて、思い切って打ち明けた。

「店長、実はおれ……さっき、厨房で黒崎の声を聞いた気がしたんです。スタッフしかいなかったから、そんなはずないのに、誰かがおれを陥れようとしていると思ってしまって……被害妄想かもしれません。」
「直は声に驚いて、皿を割ってしまったのか?」
「……すみません。きっと空耳です。どうかしてました。」
「気にするな。」

直の視線は、悲しげに松本を見据えていた。
忘れたはずの過去がふわりと記憶の底から舞い上がって、直を侵食したのかもしれない。

「ねんねが前になった、フラッシュバックというやつかもしれねぇな。」

思わず小さな声でごちる。
暗い街灯に消え入りそうな直を引き寄せた。

「何か引っかかることでもあんのか?俺は黒崎とは違う。直の嫌がることはしないからな。きつくても、直がもういいと言うまで待つぞ?」

意外な言葉に、直は思わず松本を見上げた。

「それって、おれと……距離を置くってことですか?」
「ん?」
「守りたいから距離を置くって言うのは、今のおれとは付き合えないってことですか?黒崎にやられたおれが可哀想だから……そう思ったんですか?だから、離れるんですか?」
「直。どうしたんだ?そんなことは言ってないぞ。落ち着け。」
「おれの手を……放さないでください。何か……頭がぐるぐるして……吐きそう……」

得体のしれないものに怯える直は、その場に座り込んでしまった。
自分の中に渦巻く感情を持て余していた。




本日もお読みいただきありがとうございます。
直くんはぐるぐるしてます……(´・ω・`)可哀想にね。

ところで松本、英検4級って、何かの役に立つの?

(`・ω・´)「馬鹿野郎、店に外人が来たら、役に立つじゃねぇか。俺に任せろ。」

(*つ▽`)っ)))「あはは~」

ヾ(。`Д´。)ノ「てめぇっ!何笑ってんだよ~!」

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