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Café アヴェク・トワで恋して 4 

頼みの荒木は視線を彷徨わせながら、いかにもとってつけたような棒読みで、話をした。

「そうそう……熊ね……確か、えっと、灰色熊だったかな。とにかく、遊んでいるときに後ろの木陰からがばーっと熊に襲われて、それ以来、直は背後を取られるのが弱いと言うか……あれだ、ほら、とにかく直の背後に立つなってやつだ。」
「あ~!それって、ゴルゴ13じゃない?」

由美が話に割って入った。

「ほら。俺の後に立つなって、デューク東郷の台詞だよ。尾上くんは、知ってる?」
「知らないな。俺、漫画にあまり興味ないから。」
「え~、面白いんだよ。凄腕のスナイパーでね、こんなぶっとい眉毛なの。世界中を股に掛けてんだよ。」
「そういえば、昔、兄貴にくっついて床屋に行った時に、本棚にずらっと並んでいた気がする。」
「ついでに教えてやる。ゴルゴ13のパンツは白ブリーフだ。」

真面目な顔で、松本が言う。

「すご~い!何、その情報。店長ってば、なんでそんなこと知ってるんですか?」
「俺にしてみれば、知らないほうが驚きだ。なんでこんなこと知らねぇんだ?有名な話だぞ。」
「あはは……受ける~。」

明るく笑いながら、直は、皆が詳しい事情を語らせないで話をそらしてくれたことを、薄々感じていた。
きっと、この仲間たちとなら上手くやっていける。

残り物を冷蔵庫に戻そうとした直は、ふと背後に嫌な気配を感じた。

『おい、うまく逃げたな。』

誰かが不意にそう言った気がして、直はその場に竦んだ。
ガラガラと音を立てて、足元に小鉢が流れ落ちた。
思わずその場にしゃがみ込む。
振り向く勇気はなかった。

「直くん、何やってんの!大丈夫?」
「気を付けないと、指を切るよ。」

尾上が声をかけ、音に気付いた松本が走り寄ってきた。

「ケガはないか?直。」
「あ……」

松本の声に我に返った直は、やっと振り返った。

「すみません、店長。やってしまいました……」
「ケガがなけりゃいい。どうしたんだ?」
「手が……滑りました。」
「皿代は給料から引くぞ。」
「……はい。そうしてください。」
「馬鹿、冗談だ。笑え、直。」

強張った直の顔に、いぶかしげな視線を向けた松本だったが、片づけをする直は静かだった。陶器のかけらを拾い集める直の耳に残る低い声。一体誰の物だろう。
直は思わず身震いした。

「今の声……黒崎に似てた……どうして……?」

振り向けば数人のスタッフが談笑している。
松本と荒木しか、黒崎の事は知らないはずだった。




本日もお読みいただきありがとうございます。

(´・ω・`) 今の声……

忍び寄る影に怯える直。……直くん、だいじょぶなのか?

(´・ω・`) また、小鉢割っちゃった……

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