Café アヴェク・トワで恋して23
勝手に座ると、聞かれもしないことを、饒舌にしゃべり始めた。
直は思い切り不愉快そうな顔をして、そっぽを向いている。
「参ったわ~。尾上の事で、苛々しながら歩き回ってたら、疲れた上にのどが渇いてな。たまたま入ったら、そこが黒崎の店だったんだ。え~と、トンダトラブル……とかいう名前だったかな。」
「……トゥジュール・アンサンブルです。」
「ま、いいや。そのトラブルでな、たまたま黒崎に会ったわけよ。後、人形のような綺麗な姉ちゃんがいた。あれはたぶん整形だな。」
「たまたま入った店に、たまたま黒崎がいたんですか。」
「妬くなよ?直のほうが美人だったぞ。俺は姉ちゃんには目もくれず、お勧めのケーキを食った。」
「黒崎の店で、あいつが作った物を食べたんですか……!」
「そうだけど?」
「嘘……」
直はあきれた。
この男は、一体どういう神経をしているのだろう。
元々、大雑把でがさつで、細かいことは気にしないタイプだと分かっていたが、人の傷を知っておきながら、見て見ないふりをする性分ではないと思っていた。
直の知らないところで、黒崎と接触することが、どれほど直を傷つけるか、深くは考えていないようだ。直はがっかりしてしまった。
「店長はもっと……繊細な優しい人だと思っていたのに……。おれがどれほど黒崎を毛嫌いしているか、知っていて……あいつのケーキを食べたんですね。」
「ああ。貰って来たやつ、食ってみろよ。美味いぞ。」
広げた箱から無雑作に掴んだケーキは、直の知るモンブランだ。
無性に腹が立ち、抑えようとしても怒りがこみ上げてくる。
「そんなもの!おれが食べるわけないじゃないか!」
「おっと!」
松本の手から払い落とそうとした直の手が、空を切ってバランスを崩し、松本の胸に倒れこんだ。
「店長のバカ!嫌いです!なんでこんなもの買って来たんですか?思い出したくもない、そんなもの!おれが……なんで店長が……うぅっ……わかりません……」
支離滅裂な言葉の羅列は、自分でもどうしようもなかった。
見開いた直の目に溢れた涙に、思わず松本は唇を寄せた。
そのまま、懐に抱え込んで、宥めるように抱きしめると髪の毛にキスをした。
「ごめんな、直。言葉にしてやらないときつかったよな。」
「……嫌だ……」
「あのな。直が、苦しんで苦しんで……やっと前を向いたことは俺が一番知ってるよ。ずっと傍にいたんだからな。辛かったのに、頑張ったよなぁ。」
「だったら……なぜ、こんなものを……!押し付けて、食べろなんて……!」
ぽろぽろとあふれる涙をぬぐいもせずに、直は憤っていた。
「ほら。」
「……あっ。」
指ですくった甘いクリームを舌にのせられ、直は思わず舐めた。
「な?うまいだろ?」
黒崎のケーキの味を直は覚えていた。
金箔が載ったマロングラッセも、砕いてはいるが上物の一粒栗をグラッセにした後、半分に割ったものだ。
黒崎が四国まで赴いて、栗の産地で品質を確かめ送らせていたのを、直は思い出した。
あの男は、菓子作りに関してだけは、一切の妥協をしなかった。
本日もお読みいただきありがとうございます。
(つд・`。)・゚ おれ、店長の気持ちがわからない……
直くんはぐるぐるです。
直は思い切り不愉快そうな顔をして、そっぽを向いている。
「参ったわ~。尾上の事で、苛々しながら歩き回ってたら、疲れた上にのどが渇いてな。たまたま入ったら、そこが黒崎の店だったんだ。え~と、トンダトラブル……とかいう名前だったかな。」
「……トゥジュール・アンサンブルです。」
「ま、いいや。そのトラブルでな、たまたま黒崎に会ったわけよ。後、人形のような綺麗な姉ちゃんがいた。あれはたぶん整形だな。」
「たまたま入った店に、たまたま黒崎がいたんですか。」
「妬くなよ?直のほうが美人だったぞ。俺は姉ちゃんには目もくれず、お勧めのケーキを食った。」
「黒崎の店で、あいつが作った物を食べたんですか……!」
「そうだけど?」
「嘘……」
直はあきれた。
この男は、一体どういう神経をしているのだろう。
元々、大雑把でがさつで、細かいことは気にしないタイプだと分かっていたが、人の傷を知っておきながら、見て見ないふりをする性分ではないと思っていた。
直の知らないところで、黒崎と接触することが、どれほど直を傷つけるか、深くは考えていないようだ。直はがっかりしてしまった。
「店長はもっと……繊細な優しい人だと思っていたのに……。おれがどれほど黒崎を毛嫌いしているか、知っていて……あいつのケーキを食べたんですね。」
「ああ。貰って来たやつ、食ってみろよ。美味いぞ。」
広げた箱から無雑作に掴んだケーキは、直の知るモンブランだ。
無性に腹が立ち、抑えようとしても怒りがこみ上げてくる。
「そんなもの!おれが食べるわけないじゃないか!」
「おっと!」
松本の手から払い落とそうとした直の手が、空を切ってバランスを崩し、松本の胸に倒れこんだ。
「店長のバカ!嫌いです!なんでこんなもの買って来たんですか?思い出したくもない、そんなもの!おれが……なんで店長が……うぅっ……わかりません……」
支離滅裂な言葉の羅列は、自分でもどうしようもなかった。
見開いた直の目に溢れた涙に、思わず松本は唇を寄せた。
そのまま、懐に抱え込んで、宥めるように抱きしめると髪の毛にキスをした。
「ごめんな、直。言葉にしてやらないときつかったよな。」
「……嫌だ……」
「あのな。直が、苦しんで苦しんで……やっと前を向いたことは俺が一番知ってるよ。ずっと傍にいたんだからな。辛かったのに、頑張ったよなぁ。」
「だったら……なぜ、こんなものを……!押し付けて、食べろなんて……!」
ぽろぽろとあふれる涙をぬぐいもせずに、直は憤っていた。
「ほら。」
「……あっ。」
指ですくった甘いクリームを舌にのせられ、直は思わず舐めた。
「な?うまいだろ?」
黒崎のケーキの味を直は覚えていた。
金箔が載ったマロングラッセも、砕いてはいるが上物の一粒栗をグラッセにした後、半分に割ったものだ。
黒崎が四国まで赴いて、栗の産地で品質を確かめ送らせていたのを、直は思い出した。
あの男は、菓子作りに関してだけは、一切の妥協をしなかった。
本日もお読みいただきありがとうございます。
(つд・`。)・゚ おれ、店長の気持ちがわからない……
直くんはぐるぐるです。
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