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Café アヴェク・トワで恋して27 

しばらく、ルセットを眺めていた直が、着替えを始めた。

「直?」
「店の厨房、借りていいですか?」
「いいけど、もう遅い、明日にしないか?……と言っても、行くんだろ?」
「はい。これを作ってみたいんです。」
「黒崎のルセットを?」
「だって……あの、ケーキに罪はないから。」
自分と同じことを言う直に、松本は笑ってしまった。
結局、直は、菓子を作る誘惑に負けてしまったようだ。

*****

月に追いかけられながら、二人は店に急いだ。
店につくと、直はすぐにオーブンを予熱にセットし、卵を割り始めた。

「直。このケーキを作るのか?」

松本は、カウンターの上に置かれたルセットを眺めた。

「はい。今のおれの実力だと、これが精いっぱいですから。おれは製菓学校で一通りのことは習ったけど、基本を押さえただけなので、黒崎の作る手の込んだものはちょっと敷居が高いです。」
「見てていいか?」
「いいですけど、時間かかりますよ?おれは、それほど手早くないから。」

そう言ったが、二台のオーブンで素早く仕込んだスポンジを焼き、冷める間に二種類のカスタードクリームを作る直の動きは十分、手早かった。額に汗をし、忙しく働く直の姿を、松本は目を細めて見つめていた。
泡立てた生クリームにマロンリキュールを落とし、味を見た直は指先でクリームを掬うと、松本に差し出した。

「黒崎と同じルセットで作った物です。」
「同じような気がするけど……あいつのクリームとは微妙に違うかなぁ……俺にはわからねぇ。」
「同じように作ったつもりでも、些細なことで味に差が出るんです。たぶん裏ごしした栗を混ぜ込んでると思うんだけど……やっぱり、叶わないな。」
「直?」
「こんなすごいものが作れるのに、どうしてフランスなんかに行くかなぁ。」

そう言いながら、チョコレートを湯煎にし、仕上げのテンパリング(コーティング用チョコレート)の準備を始めた。

*****
裏口のドアが開いて、荒木が顔を出す。
既に数時間経っていた。

「何で、二人しているんすか?……ケーキ?」
「黒崎が直にルセットを寄越したんだよ。それで、直が作ってみたんだ。」
「へぇ。本格的じゃないか。直、そんなこともできるんだな。」
「学校で習った基礎だけですけどね。後、このカスタードは黒崎に教えてもらったんです……あの、出会った初めのころに……」
「うまそうだなぁ。」
「もう一台できるから、今日のランチのケーキに使いますか?」
「そうだなぁ……あ、ちょっと、待て。直にバースディ・ケーキを焼いてくれないかって、注文が来てたんだ。確か、今日だった気がする。」

急いで予定を書いた、ホワイトボードを確認する。

「大人向けの甘くないケーキ?……って、そういやねんねが、直に頼みたいって言ってた気がするな。荒木も聞いたのか?」
「電話をもらいましたよ。一応、松本さんには頼んであるって言ってましたけど。」
「そうだったな。悪い、色々あって、すっかり忘れてた。」
「ねんねさんって?時々、お二人の間で名前が出てきますけど?」
「ああ。周二さんのバシタだよ。直にちょっと似てるかもしれないな。」
「おれに?」
「ああ。頼りなく見えても、芯がしっかりしてるところとか、一生懸命なところとかな。いつか、会わせてぇな。ほら。前に、オレンジの入ったシフォンケーキを持って帰ったことがあっただろう?すごく喜んでたんだよ。こんなおいしいケーキを作る人と、仲良しになれていいねぇって、羨ましがられた。」
「可愛い人なんですね。もう一台のケーキは、コーティングにビター・チョコレートを使います。それでいいですか?」
「ああ。」
「ああ、そうだ。誕生日のプレート付けてくれって言ってたぞ。」
「大丈夫、できますよ。何て書けばいいですか?」
「Happybirthday……けいったんだとさ。確か、沢木の旦那の周りをちょろちょろしてるやつだな。」
「ちょっと待て、nichikaにちゃんとした日付を聞いてみる。」

直はマロンペーストの入った生クリームで、豪華なバラのブーケを作り、ケーキの上に飾った。
「すまん、nichika。仕事に出かける前だな。あのな、けいったんの誕生日っていつだ?ああ……ああ、そうか。9月ってことしかわからねぇのか。まぁいい。サプライズをやるんだな。わかった。昼過ぎには料理と一緒に届けておくから。……代金?良いよ。お前からもらったら後がこわ……気持ちだ。」
「……店長?」
「まあ、俺にも頭の上がらない女がいるってことだよ。」
「ふふっ……じゃあ、店長のためにも、仕上げ頑張りますね。」
「直~。直は本当に可愛いよなぁ。荒木に後は任せて、ちょっと家に帰ろうぜ。」

引き寄せた松本に全身で抗った直は、初めての注文に大張り切りだった。




本日もお読みいただきありがとうございます。

9月は、いつもコメントをお寄せ下さるけいったんさんのお誕生日だそうです。
nichikaさんから、直くんにケーキを作ってくださいとリクエストいただきました。
ありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

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4 Comments

此花咲耶  

けいったんさま

> niったん、よく 私の誕生月を覚えてくれて 「ホンマ、アリガトッサン♪」
> そして それに 素早く応えてくれた 此花さまも 「ホンマ、オオキニィ~♪」

はい。教えていただきました。(〃゚∇゚〃) お誕生日おめでとうございます。
直が、nichikaさんにも作りたいと言ってましたよ。また、楽しいリクエスト、よろしくお願いします。

連休は大忙しだったみたいですね?風邪のお具合はいかがですか?
此花はR1というヨーグルト飲料で、昨年からこっち風邪知らずです。
単純なので、暗示にかかってます。

(*つ▽`)っ)))「馬鹿だからさ~」
ヾ(。`Д´。)ノ「うるさいやいっ!」←否定はできない

沢木も貸し出ししますので、頑張って乗り切ってくださいね。
>
> 美味しいケーキを作ってくれた直ちゃんにも 松本にも 感謝の(* ̄◎ ̄*)ぶっちゅぅ~♪

Σ( ̄口 ̄*) 「直っ!逃げろ~!風邪が飛んでくるぞ。」
(〃゚∇゚〃) 「ありがとうございます~♡喜んでいただけて嬉しいです。」←待ってる……

仲良しのnichikaさんと、けいったんさんのおかげでちょっぴりお話が膨らみました。
もう少し続きますので、これからもよろしくお願いします。(`・ω・´)

>
> 皆様も 風邪には気を付けて くれぐれも お体に無理の無い様に お過ごし下さいませ。
> ケーキ!o(⌒囗⌒)oΨ イッタダキマーーース!!...byebye☆ 

コメントありがとうございました。(〃゚∇゚〃)

2015/09/22 (Tue) 16:52 | REPLY |   

けいったん  

niったん、よく 私の誕生月を覚えてくれて 「ホンマ、アリガトッサン♪」
そして それに 素早く応えてくれた 此花さまも 「ホンマ、オオキニィ~♪」

この歳になると(←いやぁん、想像しないで(* ̄ω ̄*) ポッ)、前は「」はぁーーまた 一つ年を取ったぁ。。。(ヘ;_ _)ヘ ガクッガ ガクッ」でした。
でも 年老いて行く母を 子供の成長を見るにつけ 些細な事も色々あるけど 何とか一年を無事に過ごせたと、感謝する様になりました。

と、殊勝な事を言いながら
先週末より 風邪を引き ダウン寸前になった時は、「平日より忙しい 連休に 何で こうなるのよ~~~!゛(`ヘ´#) ムッキー」
と フラツク頭で 恨み節を吐いてました(苦笑)
こんな時 沢木が側で 御世話してくれたら。。。ポッ♡(〃ω〃)。o 0

美味しいケーキを作ってくれた直ちゃんにも 松本にも 感謝の(* ̄◎ ̄*)ぶっちゅぅ~♪

皆様も 風邪には気を付けて くれぐれも お体に無理の無い様に お過ごし下さいませ。
ケーキ!o(⌒囗⌒)oΨ イッタダキマーーース!!...byebye☆ 

2015/09/22 (Tue) 10:07 | REPLY |   

此花咲耶  

nichikaさま

> 『沢木の旦那の周りをちょろちょろしてるやつだな~』←もうこれが定番ですね。(*´▽`*)
> 創作おねだりにありがとうございます!

しばらく書いていないお話の登場人物です。今はスピンオフですが、またあんぽんたんなお話を書いてみたいです。
こちらこそ、遊んでくださってありがとうございます。(〃゚∇゚〃)
>
> Happybirthday♫ けいったんさん 素敵な日々を過ごせますように。

おめでとうございます。
変わりなく素晴らしい毎日でありますように。
>
> Café アヴェク・トワ では幸せな香りが漂っていそうです💚

まだ一悶着ありそうですが、きっと……
コメントありがとうございました。

2015/09/21 (Mon) 23:54 | REPLY |   

nichika  

『沢木の旦那の周りをちょろちょろしてるやつだな~』←もうこれが定番ですね。(*´▽`*)
創作おねだりにありがとうございます!

Happybirthday♫ けいったんさん 素敵な日々を過ごせますように。

Café アヴェク・トワ では幸せな香りが漂っていそうです💚

2015/09/21 (Mon) 22:11 | EDIT | REPLY |   

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