Café アヴェク・トワで恋して30
学校にも行かないで夕刻までゲームセンターで時間をつぶし、自転車にまたがってぼんやりと往来を見ている時、友人につつかれた。
「ねえ。あいつ、お前の事をずっと見てるんだけど、知り合い?」
「ん?」
言われた先に立っていた、スーツの男に見覚えがあった。
「知らね。……なぁ、夕飯どうする?マクド?」
「俺、今月もう小遣いないからなぁ、コンビニのカップヌードルでいいや。」
「じゃ。行こうぜ。」
その場から立ち去ろうとしたとき、男が近づいて、遠慮がちに声をかけてきた。
「……洋貴……?あの……ずいぶん久しぶりだね。わからないかな?」
「尾上。知り合いなんだろ?俺、先行くわ、じゃな。」
「あ、うん。」
「元気そうだ。安心したよ。ずっと連絡が取れなかったから、心配していたんだ。」
「……」
黙ってしまった弟の顔を覗き込んで、兄はにっこりと笑った。
「迎えに来たんだ。」
「え?」
ずっと望んでいた言葉だった。
別れた兄が、このいたたまれない境遇から、いつか自分を救いに来る。
そんな夢にまで見た兄の言葉に、弟は戸惑った、
「早く独り立ちしたくて頑張ったんだけど、今頃になってしまったよ。待っていてくれと言えなくてごめんな。」
「何をしていたの……?」
「うん。あのね……」
色々なコンクールに応募をしていたと、兄は語った。
「大きな賞を取って、やっと認められてね。自分の店を持つことができたんだ。」
「店?」
「ケーキの店だ。頑張ったんだよ。」
「ふ~ん……」
「褒めてくれないのか?いつか、ケーキの店を作るって約束しただろう?」
「ガキの頃の約束なんて、もう時効だ。」
「洋貴。遅かったのか?」
弟は、すん……と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「……もう別の家族がいるじゃないか。弟か妹か知らないけど……一緒に暮らしているんだろ?」
「そうだな。だけど、一日だって忘れたことはなかったよ。俺は洋貴と一緒に暮らすことだけを思って、ここまでやってきたんだ。俺はもう家を出た。あの家に残っているのは親父の家族だ。」
「それって……」
「俺の家族は、昔から洋貴だけだ。洋貴と暮らすために頑張ったんだよ。」
「……お兄ちゃん……」
ぐっとこみ上げるものがあった。寂しい風穴に、温かい何かが満ちた。
「行こう。」
*****
未成年だった尾上は、母親の傍を離れることができなかった。
兄と共に暮らしたいと口にしたら、母は半狂乱になって手が付けられなかった。
「黒崎の家に戻るの?あんたはお母さんの傍にいたいって言ったじゃないの!洋貴……お母さんを捨てないでよ。」
「お母さんには……恋人がいるだろ。俺なんかいなくても寂しくないだろ?」
「いやよ!絶対にいや!黒崎の家には絶対行かせない!」
「関係ないって言ってるじゃないか。」
不安定な母親との話は、どうにも埒が行かないので、結局兄が出向いて母親を説得した。
経済的に助けたいんだと話をしたら、やっと頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
普通の兄弟みたいよね~(´・ω・`)
「ねえ。あいつ、お前の事をずっと見てるんだけど、知り合い?」
「ん?」
言われた先に立っていた、スーツの男に見覚えがあった。
「知らね。……なぁ、夕飯どうする?マクド?」
「俺、今月もう小遣いないからなぁ、コンビニのカップヌードルでいいや。」
「じゃ。行こうぜ。」
その場から立ち去ろうとしたとき、男が近づいて、遠慮がちに声をかけてきた。
「……洋貴……?あの……ずいぶん久しぶりだね。わからないかな?」
「尾上。知り合いなんだろ?俺、先行くわ、じゃな。」
「あ、うん。」
「元気そうだ。安心したよ。ずっと連絡が取れなかったから、心配していたんだ。」
「……」
黙ってしまった弟の顔を覗き込んで、兄はにっこりと笑った。
「迎えに来たんだ。」
「え?」
ずっと望んでいた言葉だった。
別れた兄が、このいたたまれない境遇から、いつか自分を救いに来る。
そんな夢にまで見た兄の言葉に、弟は戸惑った、
「早く独り立ちしたくて頑張ったんだけど、今頃になってしまったよ。待っていてくれと言えなくてごめんな。」
「何をしていたの……?」
「うん。あのね……」
色々なコンクールに応募をしていたと、兄は語った。
「大きな賞を取って、やっと認められてね。自分の店を持つことができたんだ。」
「店?」
「ケーキの店だ。頑張ったんだよ。」
「ふ~ん……」
「褒めてくれないのか?いつか、ケーキの店を作るって約束しただろう?」
「ガキの頃の約束なんて、もう時効だ。」
「洋貴。遅かったのか?」
弟は、すん……と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「……もう別の家族がいるじゃないか。弟か妹か知らないけど……一緒に暮らしているんだろ?」
「そうだな。だけど、一日だって忘れたことはなかったよ。俺は洋貴と一緒に暮らすことだけを思って、ここまでやってきたんだ。俺はもう家を出た。あの家に残っているのは親父の家族だ。」
「それって……」
「俺の家族は、昔から洋貴だけだ。洋貴と暮らすために頑張ったんだよ。」
「……お兄ちゃん……」
ぐっとこみ上げるものがあった。寂しい風穴に、温かい何かが満ちた。
「行こう。」
*****
未成年だった尾上は、母親の傍を離れることができなかった。
兄と共に暮らしたいと口にしたら、母は半狂乱になって手が付けられなかった。
「黒崎の家に戻るの?あんたはお母さんの傍にいたいって言ったじゃないの!洋貴……お母さんを捨てないでよ。」
「お母さんには……恋人がいるだろ。俺なんかいなくても寂しくないだろ?」
「いやよ!絶対にいや!黒崎の家には絶対行かせない!」
「関係ないって言ってるじゃないか。」
不安定な母親との話は、どうにも埒が行かないので、結局兄が出向いて母親を説得した。
経済的に助けたいんだと話をしたら、やっと頷いた。
本日もお読みいただきありがとうございます。
普通の兄弟みたいよね~(´・ω・`)
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