Café アヴェク・トワで恋して28
いつもの時間に出てきた荒木も、すぐに食材の下準備に取り掛かった。
尾上の事を、松本に話すつもりだったが、直がいるので仕方なく後回しにした。
直のケーキは、パティシエの勉強をしてきただけあって、本格的な垢ぬけたもので、荒木は口にこそしなかったが流れるような手際を間近で見て驚いていた。
松本に近寄ると密かに打ち明けた。
「ちょっと、松本さん。」
「ん?」
「直はやっぱり、ケーキの道に進んだほうがいいんじゃないか?ランチのケーキを持って帰りたいと言うお客さんも多くなっているし、俺も少しはああいうものの味を知っているけど、あいつ本物だぞ?」
「そうだなぁ。そのうち、いつかそういう話をし始めるかもしれないな。俺はいつでも直の好きにすればいいと思っているよ。ただ、まだ不安定な時もあるから、そこが心配なんだ。」
「そうっすね。だいぶん落ち着いてはいるけど。」
「それに、ランチのケーキは一応目玉になっているから、外せないだろう?そうなったら、誰か違う職人を入れるしかないぞ。」
「ああ。さすがに畑違いで、俺がやるよとは言えないからな。心当たりだけでも、当たっておくか。」
「頼むな。もう一人、直がいればいうことないんだが、それはできない相談だしなぁ。」
「もう一人直がいたら、松本さんが持ち帰りするから駄目っすよ。戦力にならないっす。」
「それもそうだ。」
二人の様子に直は、手が足りないらしいと感じたのだろう。
「荒木さん。焼き菓子の土台が冷めるまでの間、手伝います。」
献立を聞いて、直も手伝うと言い出した。
昨夜から一睡もしていないはずだが、張り切っている。
「ランチのメインは、今日は中華なんですか?」
「ああ。春巻きにしたんだ。種は仕込んで冷やしてある。注文を聞いてから、揚げたてを出すから忙しいぞ。小鉢は、きくらげときゅうりの酢の物と春雨サラダ、鶏の南蛮漬けだ。後、里芋の煮っ転がし。」
「おれ、煮っ転がしやりますよ。酢の物に錦糸卵入れますか?」
「ああ。頼む。後、酢の物の彩に海老を湯がいてくれ。冷凍庫のバナメイエビでいいから。飯は一応、五穀米と、栗入り中華おこわで。もち米は漬けてある。」
「わかりました。あれ……?この剥き栗って仕入れたんですか?」
「ああ。産直市に、国産のものが入って来てるからどうですかって、連絡もらったんで分けてもらったんだ。大粒で美味そうだろう?余分があるから、ケーキに使ってもいいぞ。」
「ありがとうございます。栗の渋皮煮もいいですよね。考えて使わせてもらいます。」
忙しなく調理する直に向かって、荒木は告げた。
「尾上の事なんだけどな、後で直に謝りたいそうだ。早めに出てくることになっているから、話を聞いてやってくれるか?」
「そうですか。」
「できれば、このままここで働きたいんだそうだ。だけど、もし直が嫌だってんなら俺は断るからな。」
「おれは一人でも欠けないほうが嬉しいです。気心も知れているし……おれ、尾上くんのこと、嫌いじゃないです。」
「わかった。だったら詳しい話はあとだ。」
「はい。」
尾上の両親は、尾上が幼いころに離婚した。尾上は母親に引き取られ、母方の姓を名乗ることになった。
年の離れた実兄が、父親に引き取られた黒崎だと、直は知らない。
弟がいる話は聞いたことがあるかもしれないが、苗字が違っているため、気づくはずもなかった。
松本は黒崎と話をしたときに、薄々気づいていたが、直には話さなかった。
これ以上、直が傷つかないようにと願うばかりだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。
どうやら、直くんは黒崎のルセットに夢中になったみたいです。
ケーキ作るの本当は、大好きだもんね……(〃゚∇゚〃) 「はい。」
尾上の事を、松本に話すつもりだったが、直がいるので仕方なく後回しにした。
直のケーキは、パティシエの勉強をしてきただけあって、本格的な垢ぬけたもので、荒木は口にこそしなかったが流れるような手際を間近で見て驚いていた。
松本に近寄ると密かに打ち明けた。
「ちょっと、松本さん。」
「ん?」
「直はやっぱり、ケーキの道に進んだほうがいいんじゃないか?ランチのケーキを持って帰りたいと言うお客さんも多くなっているし、俺も少しはああいうものの味を知っているけど、あいつ本物だぞ?」
「そうだなぁ。そのうち、いつかそういう話をし始めるかもしれないな。俺はいつでも直の好きにすればいいと思っているよ。ただ、まだ不安定な時もあるから、そこが心配なんだ。」
「そうっすね。だいぶん落ち着いてはいるけど。」
「それに、ランチのケーキは一応目玉になっているから、外せないだろう?そうなったら、誰か違う職人を入れるしかないぞ。」
「ああ。さすがに畑違いで、俺がやるよとは言えないからな。心当たりだけでも、当たっておくか。」
「頼むな。もう一人、直がいればいうことないんだが、それはできない相談だしなぁ。」
「もう一人直がいたら、松本さんが持ち帰りするから駄目っすよ。戦力にならないっす。」
「それもそうだ。」
二人の様子に直は、手が足りないらしいと感じたのだろう。
「荒木さん。焼き菓子の土台が冷めるまでの間、手伝います。」
献立を聞いて、直も手伝うと言い出した。
昨夜から一睡もしていないはずだが、張り切っている。
「ランチのメインは、今日は中華なんですか?」
「ああ。春巻きにしたんだ。種は仕込んで冷やしてある。注文を聞いてから、揚げたてを出すから忙しいぞ。小鉢は、きくらげときゅうりの酢の物と春雨サラダ、鶏の南蛮漬けだ。後、里芋の煮っ転がし。」
「おれ、煮っ転がしやりますよ。酢の物に錦糸卵入れますか?」
「ああ。頼む。後、酢の物の彩に海老を湯がいてくれ。冷凍庫のバナメイエビでいいから。飯は一応、五穀米と、栗入り中華おこわで。もち米は漬けてある。」
「わかりました。あれ……?この剥き栗って仕入れたんですか?」
「ああ。産直市に、国産のものが入って来てるからどうですかって、連絡もらったんで分けてもらったんだ。大粒で美味そうだろう?余分があるから、ケーキに使ってもいいぞ。」
「ありがとうございます。栗の渋皮煮もいいですよね。考えて使わせてもらいます。」
忙しなく調理する直に向かって、荒木は告げた。
「尾上の事なんだけどな、後で直に謝りたいそうだ。早めに出てくることになっているから、話を聞いてやってくれるか?」
「そうですか。」
「できれば、このままここで働きたいんだそうだ。だけど、もし直が嫌だってんなら俺は断るからな。」
「おれは一人でも欠けないほうが嬉しいです。気心も知れているし……おれ、尾上くんのこと、嫌いじゃないです。」
「わかった。だったら詳しい話はあとだ。」
「はい。」
尾上の両親は、尾上が幼いころに離婚した。尾上は母親に引き取られ、母方の姓を名乗ることになった。
年の離れた実兄が、父親に引き取られた黒崎だと、直は知らない。
弟がいる話は聞いたことがあるかもしれないが、苗字が違っているため、気づくはずもなかった。
松本は黒崎と話をしたときに、薄々気づいていたが、直には話さなかった。
これ以上、直が傷つかないようにと願うばかりだ。
本日もお読みいただきありがとうございます。
どうやら、直くんは黒崎のルセットに夢中になったみたいです。
ケーキ作るの本当は、大好きだもんね……(〃゚∇゚〃) 「はい。」
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