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杏樹と蘇芳(平安) 6 

平安のころの話である。




兄の消えた部屋の外で、蘇芳はじっと息をひそめていた。
知らずにいつか、頬を涙が伝う。
ぽたぽたと落ちた水滴は、やがて廊下で小さな溜まりになった。
耳を覆っても、聞きたくない声は漏れ聞こえて来る。
「ああぁ……っ、あぁ……っ……」
板戸の向こうから漏れ聞こえる、兄の引きつるような苦しげな声が、蘇芳の胸を苦しくさせた。

「あに……うえ……っ」
泣き声が中に聞こえないように、口を覆って蘇芳はその場に突っ伏していた。
ほんの少し開いた、板戸から月明りが漏れていた。
切れ切れな細い兄の悲鳴に、隙間からそっと中をうかがったきり蘇芳は固まって動けなくなった。
煌々たる月光に浮かぶ白い身体は、杏樹のものだ。
蛇が鎌首をもたげるようにゆっくりと上がった白い足が、光に照らされた空で弧をかいた。
「あ……あ……ぁ……」
「杏樹、……辛いか?」
次郎に聞かれても、杏樹には返事のしようもなかった。
女子(おなご)の居ない山椒大夫の屋敷では、女子の代わりをするものを下働きの見目良い奴の中から選ぶ。
きつい山仕事に従事するよりも、身体が楽だと悦んで居る者もいた。

下肢の奥に菜種油を塗りこめられ、夜着を脱いで横になった杏樹は、足をそろえ膝を立ていた。
きつい菊門をなぶられて呻き、涙をこぼすように薄い精を吐いた。
髪を乱した杏樹の腹の上には、己のまき散らした透明な精が、とろりと溜まっている。
次郎の手によって杏樹は初めて精通を知った。
髪を乱し肩で息をする杏樹の、余りに扇情的な眺めに思わず次郎の喉がごくりと鳴った。
「そなたのような、身体の持ち主は見たことがない。柔らかなだけの女子(おなご)でもなく、骨がましい男でもない、未通でいながら菊門の絞りは、わしの指に吸い付くようじゃ。」

満足げな次郎が、杏樹を抱き寄せると深く舌を差し入れ、荒く口を吸った。

「良い子じゃのう……。これから、ずっと傍に置き可愛がってやるぞ、杏樹」
返事の代わりに、つっと流れた滴が頬を走ると、珠となった。
それから、杏樹の膝に次郎を受け入れる場所を作る為の、細い紐が掛けられてゆく。
縛められた杏樹は、次郎を受け入れる容れ物となっていた。

次郎は、杏樹の腿をきつく縛り合わせ、素股を使うつもりだった。
固い壁のように、いくら解そうとしても白菜種の油すらなかなか飲み込まない、頑なな幼い後孔だった。
女子のように合わせた腿に、手を滑らせ肉の薄い皮膚を撫ぜた。
触れるたびに、ひくひくと打ち上げられた魚のように、杏樹の白い肢体が跳ねる。
次郎はこの上なく優しく、何もかも初めての杏樹を抱いた。
杏樹は、ひどくされないのに戸惑っていた。
両足の付け根に次郎の熱い雄心を受け入れる行為は、痛みはなかったが、心が疼いた。
自分が何か違う生き物になったような気がする。

次郎は未通の後孔をいきなり使うのは哀れと思い、杏樹の内腿(素股)を肉の鞘(さや)として使っていた。
後から前から腰を打ち付け、やがて思うさま杏樹の上にしとどに精を吐く。

「う、む……っ!」
折れるほど抱き寄せられた杏樹は、次郎の胸の中で息を詰めていた。
「あぁ、次……郎……さま……」
「声を出せ、杏樹。人形を抱いているようで、つまらん」
「は……い」

這いまわる次郎の愛撫に何も感じなかったが、それでは努めが果たせぬと思い杏樹は下肢のひもを解いてくれるようにねだった。
ころりと向きを変えると、次郎の恐ろしい怒張を見て、初め杏樹は凍りついた。
わりわりと自らの後孔を裂いて、入ってくるはずのものだった。

「でかいだろう?」
「はい……」
怖気て、肌が粟立った。
遊び女でも受け入れられないことがあったのだと、次郎は笑った。
「そなたのものは、可愛らしいの。」
返事に困った次郎が、ゆるゆると指でこすり上げると、杏樹の丸い鈴口からこぷりと薄い露が零れ落ちた。
「とんだ粗相を。……申し訳ございません」
「かまわぬ」
慌てる姿さえ健気で、次郎は杏樹を抱き上げて内に抱え込んだ。
膝の上に抱えてやったら、くすぐったいと身体を捩る。
出来るならまだ熱の引かない怒張を、堅い杏樹の菊門にねじり込みたかったが、次郎は耐えた。
杏の花の咲く、故郷の里山を懷かしんだ時の、綻んだ花のような笑顔が見たいと思った。
「咲くまで待つか」
独りごとに返事をしようと、杏樹が顔をねじってこちらを向いた。
「杏樹、俺のものになれ。無理強いはせぬから、この次郎を嫌うなよ」
からからと楽しげに笑う次郎は、自分で慰める様子を杏樹にみせた。
次郎の顔に、ひたと目を据え杏樹は手をついた。
「かどわかされたとはいえ、奴婢の身に落ちたわたしが弟の身の安泰を望むのは、余りに過ぎたこととわかっております。お教えください、次郎さま」
「杏樹に出来ることを一つでも、してさし上げたいのです」







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