真夜中に降る雪 3
思わず身体がぐらりと揺れた春美の見開いた目から、どっと零れ落ちた涙を認めた聡一は、くすりと笑った。
「何だ、春はそんなに俺が好きか?」
滲んだ輪郭に向けて、何度も何度も頷いた。
心臓が痛むほどの勇気を振り絞って、聡一にねだった。
「ちゃんと……キ、キスして下さい。先輩……好き.」
片頬にえくぼのできる聡一は、優しく笑って春美を落ち込ませた。
「春。キスは、好きな人とするもんだろ?」
「……ぼくは、先輩が好きです。ぼくと……一緒に、いて下さい」
「駄目だ。言っただろう。放課後は、女と会うんだ」
春美の見開いた瞳から、溢れるように零れる涙。
「……い、行かないで、先輩」
「可愛いな、春」
「先ぱ……い……あぁんっ……」
「じゃな」
懇願を繰り返しても、聡一が頷いて春美を抱きしめる事はなかった。
扉は冷たく閉められて、聡一がどんな顔をしているか、晴美には見ることもかなわない。
聡一に伸ばした手は、いつもそのまま虚しく下ろされた。
独り残されて、聡一の消えた扉を見つめてのろのろと衣類を身に着けた。
流れる涙を拭いながら、自分の精で濡れた床を拭った。
それからも、春美は聡一とのいびつな関係を続けた。
虚しくてやり切れなくて、辛くて苦しくて、決して繋がる事のない切ない関係だった。
変化球を投げる硬いたこの出来た指先で、聡一は教室の扉の細い隙間から、くいと指を曲げて春美を呼ぶ。
春美の下半身の衣類だけを脱がせ、ゆっくりと顔を見ながら吐精するまで擦り続ける。
強弱をつけて波に翻弄される春美は、拳を握り締めて泣きながら聡一の名前を呼んだ。
親指がくっと縮こまるのを認めると、上気した頬を俯けずに、こちらへ向けろと支配者が言う。
「あ……んっ。あんっ……」
高めるだけ高めて、聡一は春美を置き去りにする。
「や……ぁっ、聡一せん……ぱ……も、出ます、出るっ」
「いいよ。俺の顔、見つめながら出して。俺が好き?春」
「あぁ……あ……せんぱ、いが、す……」
「達けよ」
冷たい声に反応して、一方通行のおののく腰が跳ねた。
自分で触れるより先に、どこもかも聡一に開発された。
どこに力をいれ、どこを撫ぜると幼い茎が立ち上がり弾けるのか、自分よりも聡一のほうが詳しかった。
後ろめたい行為のたびに、どこかが軋みながら少しずつ壊れてゆく気がしていた。
聡一を前にして、そんな思い出すだけで息苦しくなる、玩具にされただけの過去が足元からどろりと這い登る。
見えない鎖が重かった。
「危ない!」
ぐらりと倒れそうになった時、誰かが受け止めてくれた。
「ちょっと。君、大丈夫?真っ青だ」
入社の緊張で、気分が悪くなったけど、もう大丈夫ですと告げた。
「芳賀さんと知り合いなの?」
「え・・・?あ、ああ、芳賀さん?宮永先輩とは中高で、同じ部でしたから。あなたは?」
「同期入社の、松前孝幸(まさき たかゆき)だ、宜しく頼む。彼、異例の人事担当だってね。やり手だって有名だよ」
「ぼくは、里中春美(さとなかはるよし)です」
松前孝幸の野太い声を聞き、聡一の絡みつく呪縛から逃れられた気がして、ほっと息をついた。
「行こう、式に遅れる」
「あ、はい」
何故か宮永聡一は、芳賀聡一という名前に変わっていた。
親が離婚でもしたのだろうか。
思いがけず過去と向き合った日。
気のいい新しい友人も得て、ともかく春美は社会人になった。
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「何だ、春はそんなに俺が好きか?」
滲んだ輪郭に向けて、何度も何度も頷いた。
心臓が痛むほどの勇気を振り絞って、聡一にねだった。
「ちゃんと……キ、キスして下さい。先輩……好き.」
片頬にえくぼのできる聡一は、優しく笑って春美を落ち込ませた。
「春。キスは、好きな人とするもんだろ?」
「……ぼくは、先輩が好きです。ぼくと……一緒に、いて下さい」
「駄目だ。言っただろう。放課後は、女と会うんだ」
春美の見開いた瞳から、溢れるように零れる涙。
「……い、行かないで、先輩」
「可愛いな、春」
「先ぱ……い……あぁんっ……」
「じゃな」
懇願を繰り返しても、聡一が頷いて春美を抱きしめる事はなかった。
扉は冷たく閉められて、聡一がどんな顔をしているか、晴美には見ることもかなわない。
聡一に伸ばした手は、いつもそのまま虚しく下ろされた。
独り残されて、聡一の消えた扉を見つめてのろのろと衣類を身に着けた。
流れる涙を拭いながら、自分の精で濡れた床を拭った。
それからも、春美は聡一とのいびつな関係を続けた。
虚しくてやり切れなくて、辛くて苦しくて、決して繋がる事のない切ない関係だった。
変化球を投げる硬いたこの出来た指先で、聡一は教室の扉の細い隙間から、くいと指を曲げて春美を呼ぶ。
春美の下半身の衣類だけを脱がせ、ゆっくりと顔を見ながら吐精するまで擦り続ける。
強弱をつけて波に翻弄される春美は、拳を握り締めて泣きながら聡一の名前を呼んだ。
親指がくっと縮こまるのを認めると、上気した頬を俯けずに、こちらへ向けろと支配者が言う。
「あ……んっ。あんっ……」
高めるだけ高めて、聡一は春美を置き去りにする。
「や……ぁっ、聡一せん……ぱ……も、出ます、出るっ」
「いいよ。俺の顔、見つめながら出して。俺が好き?春」
「あぁ……あ……せんぱ、いが、す……」
「達けよ」
冷たい声に反応して、一方通行のおののく腰が跳ねた。
自分で触れるより先に、どこもかも聡一に開発された。
どこに力をいれ、どこを撫ぜると幼い茎が立ち上がり弾けるのか、自分よりも聡一のほうが詳しかった。
後ろめたい行為のたびに、どこかが軋みながら少しずつ壊れてゆく気がしていた。
聡一を前にして、そんな思い出すだけで息苦しくなる、玩具にされただけの過去が足元からどろりと這い登る。
見えない鎖が重かった。
「危ない!」
ぐらりと倒れそうになった時、誰かが受け止めてくれた。
「ちょっと。君、大丈夫?真っ青だ」
入社の緊張で、気分が悪くなったけど、もう大丈夫ですと告げた。
「芳賀さんと知り合いなの?」
「え・・・?あ、ああ、芳賀さん?宮永先輩とは中高で、同じ部でしたから。あなたは?」
「同期入社の、松前孝幸(まさき たかゆき)だ、宜しく頼む。彼、異例の人事担当だってね。やり手だって有名だよ」
「ぼくは、里中春美(さとなかはるよし)です」
松前孝幸の野太い声を聞き、聡一の絡みつく呪縛から逃れられた気がして、ほっと息をついた。
「行こう、式に遅れる」
「あ、はい」
何故か宮永聡一は、芳賀聡一という名前に変わっていた。
親が離婚でもしたのだろうか。
思いがけず過去と向き合った日。
気のいい新しい友人も得て、ともかく春美は社会人になった。
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