小説・初恋・10
さすがに、医者の息子だけあって、医術の心得のある清輝はこういうとき役に立つ。
「校医を呼んだほうがいい?」と、颯は問うたが、一過性のものだから必要ないでしょうと、簡単な応急処置をしながら答えた。
「如月さまの方は、すぐ気がつくと思いますよ。」
ただ舌を噛み切ってはいけないので、顔を横向けてハンケチを咬ませるように颯に指示をした。
「これは、どう見ても、颯さまの責任ですね。」
「何でだ。」
「そういうところが!です。」
背中合わせで会話しながら、奏の首元のカラーとシャツのボタンを緩めてやった。
清輝は、奏に力任せに打たれた、小姓の傷の手当てをするために、躊躇することなく豪奢な寝台のほうへ担ぎ上げた。
打ち身は熱を持つだろうが、柔らかい鞭だったせいか、見たところ擦過傷はそれほど重傷ではなかった。
狼狽する無傷の小姓に、奏が激昂の挙句に卒倒したのかと問うた。
「ええ・・・、そうです。」
朦朧と意識が混濁しているらしい奏は、寝台にもたれて、とろりとした曖昧な視線を落としたままだった。
「颯さま。水を。」
寝台の枕もとの水差しは無事だったので、飲ませてやろうとしたが湯飲みが見当たらない。
「仕方ないな・・・」
そうごちて、直接水差しの水を含むと、奏の柔らかい髪を掴んでついと顎をあげさせた。
ごくりと、喉が上下する。
少しずつ覚醒するように、瞳に生気が戻ってきた。
「な・・にを・・し・・」
「ああ、水を飲ませただけだ。後、痙攣してたから衣類を緩めた。」
「衣類・・・?」
奏は、しどけなくはだけた自分の格好にやっと気が付いたようだった。
「ぁああっ・・・!」
乱暴された処女のように、絹のシャツの前を強く掻き合わせて、その場にうずくまった。
颯はと言えば、奏の行動が理解できなくて、どうしていいか分からずひどく戸惑っていた。・・・
颯の足元で声も出さずに、如月奏はずっと泣いていた。
伏せた目から、後から後から零れ落ちるように、はらはら溢れる涙が上等の絨毯に吸われてゆく・・・
颯は、困り果てていた。
「あの・・・悪かったよ。そんなに驚くとは思わなかったんだ。」
「でも、君も鞭を振るうなんて、やりすぎだろう。」
滂沱の涙を拭いもしないで、泣き濡れた目で颯を見上げる。
「・・・ぼくの小姓を、どう扱おうが君には関係ない。」
「ぼくの領民は、ぼくのものだ。」
外見と激しくそぐわぬ言葉を、紅い唇が吐いた。
清輝が小さく首を横に振って、合図をしたのでその場から退散することにした。
寝台の上に広げてあった布を、せめて肩からかけてやろうとしたら清輝が止めた。
「颯さま。・・・それ、テーブル掛けです。」
とうとう、奏は大きくしゃくりあげて子供のように声を上げて泣き伏してしまった。
今度こそ、如月奏の自尊心を粉々にして、颯は頭をかいた・・・
「清輝、もう降参する。」
「こういった女性の扱いは、僕には無理だ。」
「何で、女性呼ばわりなんですか、もう・・・」
清輝が、これほど狼狽する颯を見たのは初めてだった。
「校医を呼んだほうがいい?」と、颯は問うたが、一過性のものだから必要ないでしょうと、簡単な応急処置をしながら答えた。
「如月さまの方は、すぐ気がつくと思いますよ。」
ただ舌を噛み切ってはいけないので、顔を横向けてハンケチを咬ませるように颯に指示をした。
「これは、どう見ても、颯さまの責任ですね。」
「何でだ。」
「そういうところが!です。」
背中合わせで会話しながら、奏の首元のカラーとシャツのボタンを緩めてやった。
清輝は、奏に力任せに打たれた、小姓の傷の手当てをするために、躊躇することなく豪奢な寝台のほうへ担ぎ上げた。
打ち身は熱を持つだろうが、柔らかい鞭だったせいか、見たところ擦過傷はそれほど重傷ではなかった。
狼狽する無傷の小姓に、奏が激昂の挙句に卒倒したのかと問うた。
「ええ・・・、そうです。」
朦朧と意識が混濁しているらしい奏は、寝台にもたれて、とろりとした曖昧な視線を落としたままだった。
「颯さま。水を。」
寝台の枕もとの水差しは無事だったので、飲ませてやろうとしたが湯飲みが見当たらない。
「仕方ないな・・・」
そうごちて、直接水差しの水を含むと、奏の柔らかい髪を掴んでついと顎をあげさせた。
ごくりと、喉が上下する。
少しずつ覚醒するように、瞳に生気が戻ってきた。
「な・・にを・・し・・」
「ああ、水を飲ませただけだ。後、痙攣してたから衣類を緩めた。」
「衣類・・・?」
奏は、しどけなくはだけた自分の格好にやっと気が付いたようだった。
「ぁああっ・・・!」
乱暴された処女のように、絹のシャツの前を強く掻き合わせて、その場にうずくまった。
颯はと言えば、奏の行動が理解できなくて、どうしていいか分からずひどく戸惑っていた。・・・
颯の足元で声も出さずに、如月奏はずっと泣いていた。
伏せた目から、後から後から零れ落ちるように、はらはら溢れる涙が上等の絨毯に吸われてゆく・・・
颯は、困り果てていた。
「あの・・・悪かったよ。そんなに驚くとは思わなかったんだ。」
「でも、君も鞭を振るうなんて、やりすぎだろう。」
滂沱の涙を拭いもしないで、泣き濡れた目で颯を見上げる。
「・・・ぼくの小姓を、どう扱おうが君には関係ない。」
「ぼくの領民は、ぼくのものだ。」
外見と激しくそぐわぬ言葉を、紅い唇が吐いた。
清輝が小さく首を横に振って、合図をしたのでその場から退散することにした。
寝台の上に広げてあった布を、せめて肩からかけてやろうとしたら清輝が止めた。
「颯さま。・・・それ、テーブル掛けです。」
とうとう、奏は大きくしゃくりあげて子供のように声を上げて泣き伏してしまった。
今度こそ、如月奏の自尊心を粉々にして、颯は頭をかいた・・・
「清輝、もう降参する。」
「こういった女性の扱いは、僕には無理だ。」
「何で、女性呼ばわりなんですか、もう・・・」
清輝が、これほど狼狽する颯を見たのは初めてだった。
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