小説・初恋・17
時の大臣よりも高給取りといわれた、外国人の教授は皆熱心で、東洋の島国での教師生活を楽しんでいた。
西洋の王室では、社交界と言うものがあって貴族の子女はある年齢が来ると、王や皇帝の列席の中お披露目されるそうだ。
美しく流れるようにダンスを踊ること、それは教養のひとつであり紳士淑女の嗜みであると、モンテスキュウ教授は語った。
颯のは、ほとんど柔の組み手のようだと散々言われたが、練習の甲斐あって何とか形にはなってきたと、二週間余り奮闘の末やっと及第点を貰った。
「あとは、踊る相手との呼吸がすべてです。実際に踊る相手は誰ですか?」
思わず、考え込んだ颯の目線の先に、奏が見えた。
二階の教室から、ぼんやり校庭を眺めるその視線の先に回って、下りて来いと手を振った。
「なんですか?」
毎日、リボンを直してやるようになって、ほんの少し表情が柔らかくなった・・・様な気がする。
「頼みがある。如月、踊ってくれ。」
優雅に見えないドレスの裾をつまんで、奏は恭しく腰を折った。
「お断りです。」
「なぜだ。」
鼻白む颯に、教授は貴婦人にはそれなりの申し込む礼儀作法があるのだと、教えた。
「え・・・と。・・・よろしければ、私と踊っていただけませんか・・・?」
「喜んで。」
・・・紛れも無い血統のよい貴婦人が、身体を預けて艶然と微笑む。
軽やかに踊る女役の奏は、水を得た虹色の魚のように、くるくると回る。
寄宿舎のテーブルに飾られた、ねじ式のマイセンのつややかな陶器人形のようだ。
ぱんと教授が手を叩く音で我に返った颯は、自分が奏に見とれていたらしいと気が付いた。
「如月。君が、女性でなくてよかった。」
颯のほんの小さな褒め言葉が、奏の心に楔を打った。
「あやうく見とれて、婚約者を泣かせる所だったよ。」
小さな貴婦人の顔が、無理やり微笑もうとして悲しげに歪む。
・・・見えない硬質なドレスが、どこかで軋んだ・・・
西洋の王室では、社交界と言うものがあって貴族の子女はある年齢が来ると、王や皇帝の列席の中お披露目されるそうだ。
美しく流れるようにダンスを踊ること、それは教養のひとつであり紳士淑女の嗜みであると、モンテスキュウ教授は語った。
颯のは、ほとんど柔の組み手のようだと散々言われたが、練習の甲斐あって何とか形にはなってきたと、二週間余り奮闘の末やっと及第点を貰った。
「あとは、踊る相手との呼吸がすべてです。実際に踊る相手は誰ですか?」
思わず、考え込んだ颯の目線の先に、奏が見えた。
二階の教室から、ぼんやり校庭を眺めるその視線の先に回って、下りて来いと手を振った。
「なんですか?」
毎日、リボンを直してやるようになって、ほんの少し表情が柔らかくなった・・・様な気がする。
「頼みがある。如月、踊ってくれ。」
優雅に見えないドレスの裾をつまんで、奏は恭しく腰を折った。
「お断りです。」
「なぜだ。」
鼻白む颯に、教授は貴婦人にはそれなりの申し込む礼儀作法があるのだと、教えた。
「え・・・と。・・・よろしければ、私と踊っていただけませんか・・・?」
「喜んで。」
・・・紛れも無い血統のよい貴婦人が、身体を預けて艶然と微笑む。
軽やかに踊る女役の奏は、水を得た虹色の魚のように、くるくると回る。
寄宿舎のテーブルに飾られた、ねじ式のマイセンのつややかな陶器人形のようだ。
ぱんと教授が手を叩く音で我に返った颯は、自分が奏に見とれていたらしいと気が付いた。
「如月。君が、女性でなくてよかった。」
颯のほんの小さな褒め言葉が、奏の心に楔を打った。
「あやうく見とれて、婚約者を泣かせる所だったよ。」
小さな貴婦人の顔が、無理やり微笑もうとして悲しげに歪む。
・・・見えない硬質なドレスが、どこかで軋んだ・・・
- 関連記事
-
- 小説・初恋・24 (2010/02/14)
- 小説・初恋・23(如月湖西) (2010/01/04)
- 小説・初恋・22 (2010/01/04)
- 小説・初恋・21 (2010/01/04)
- 小説・初恋・20 (2010/01/04)
- 小説・初恋・19 (2010/01/04)
- 小説・初恋・18(夜会) (2010/01/04)
- 小説・初恋・17 (2010/01/04)
- 小説・初恋・16(夜会前) (2010/01/01)
- 小説・初恋・15 (2010/01/01)
- 小説・初恋・14 (2010/01/01)
- 小説・初恋・13 (2010/01/01)
- 小説・初恋・12(誘い) (2009/12/31)
- 小説・初恋・11 (2009/12/31)
- 小説・初恋・10 (2009/12/31)
- 如月奏の物語(明治) >
- (明治)はつこい
- 2
- 0