小説・初恋・5
元来、人懐っこい性格の颯は、誰とでも話をするのが好きだった。
村の古老達が、鳥羽伏見でどんなに勇敢だったか、池田屋の襲撃が無かったら、明治維新はもっと早かったに違いないと、同じ話を繰り返し語るのも、嬉しげににこにこと聞いた。
やがて、全体の食事がほぼ終了した頃、明らかに古臭い颯の洋装をわざわざ笑いに来た者が居た。
「君の衣装は、随分年代物のようだが、外国人居留地のテーラードかい?」
「君。
失敬だろう。」
椅子を外した清輝の血相が変わったのを、颯が制した。
「・・・腕が一流かどうかは分からないが、一応仕立ては横浜の英国人の手によるものらしいね。」
「この上着は、父上が外務大臣の通詞として大英帝国に渡欧した時のものなんだ。」
さきほどまでの優雅な食事風景は、彼らの会話を聞き漏らすまいとして、随分静かになっていた。
「ふん・・・君の父上は、英語が出来るのか?」
「土佐藩の、あ、高知県というのだっけ?ジョン万次郎という通詞が居ただろう?」
「東京で直接習ったと、言っていた。
彼の息子は、ぼくらと年が同じくらいだったはずだよ。」
「へぇ・・・」
どうやら、やっと颯の血統がよさそうなのに気が付いたらしい。
「君の身分は?」と、聞いてきた。
「祖父は伯爵だ、僕はただの湖上颯。よろしく頼む。」
颯は、右手を差し出した。
「湖上、君の方が身分は上だ。でも友人になれそうだな。」
「勿論。
野良犬の臭いを気にしなければね。」
「颯さま。」
清輝が吹いた。
その場に居た者は皆笑い、颯はこの件以来多くの友人を得た。
「各自、授業に備えて、構内を確認して置くように。」
入学式の終わりに告げられたとおり、自由に構内を回った。
生物学室。
外国語教室。
物理室。
・・・階段式の珍しい教室を観て、いよいよ明日から授業が始まると思うと気分が高揚した。
「これだと、うっかり眠った日は最悪だな。」
「ここから見上げれば、丸見えだ・・・教授と目が合わないようにしないと。」
清輝は、半分本気だった。
村の古老達が、鳥羽伏見でどんなに勇敢だったか、池田屋の襲撃が無かったら、明治維新はもっと早かったに違いないと、同じ話を繰り返し語るのも、嬉しげににこにこと聞いた。
やがて、全体の食事がほぼ終了した頃、明らかに古臭い颯の洋装をわざわざ笑いに来た者が居た。
「君の衣装は、随分年代物のようだが、外国人居留地のテーラードかい?」
「君。
失敬だろう。」
椅子を外した清輝の血相が変わったのを、颯が制した。
「・・・腕が一流かどうかは分からないが、一応仕立ては横浜の英国人の手によるものらしいね。」
「この上着は、父上が外務大臣の通詞として大英帝国に渡欧した時のものなんだ。」
さきほどまでの優雅な食事風景は、彼らの会話を聞き漏らすまいとして、随分静かになっていた。
「ふん・・・君の父上は、英語が出来るのか?」
「土佐藩の、あ、高知県というのだっけ?ジョン万次郎という通詞が居ただろう?」
「東京で直接習ったと、言っていた。
彼の息子は、ぼくらと年が同じくらいだったはずだよ。」
「へぇ・・・」
どうやら、やっと颯の血統がよさそうなのに気が付いたらしい。
「君の身分は?」と、聞いてきた。
「祖父は伯爵だ、僕はただの湖上颯。よろしく頼む。」
颯は、右手を差し出した。
「湖上、君の方が身分は上だ。でも友人になれそうだな。」
「勿論。
野良犬の臭いを気にしなければね。」
「颯さま。」
清輝が吹いた。
その場に居た者は皆笑い、颯はこの件以来多くの友人を得た。
「各自、授業に備えて、構内を確認して置くように。」
入学式の終わりに告げられたとおり、自由に構内を回った。
生物学室。
外国語教室。
物理室。
・・・階段式の珍しい教室を観て、いよいよ明日から授業が始まると思うと気分が高揚した。
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清輝は、半分本気だった。
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