小説・初恋・14
「せっかく親元を離れて学生生活を送るのだから、そのくらいは自分で出来るようになれ。」
「今のままじゃ、一生何も出来ない京人形で終わるぞ。」
「ほら。
一人できちんと出来るように、教えてやるから。」
椅子に座った奏の肩越しから、釦のはめ方を征四郎に教えるように丁寧に教えてやった。
「最初は釦の、端っこをつまむんだ。そう・・・」
「慌てなくていいから、ゆっくり。」
奏は少し、くすぐったそうにしていたが、嫌そうではなかった。
奏の、焚き染めた香が鼻をくすぐる・・・
「そら。
反対の指・・・親指と人指し指をホールの側に迎えに行くように持っていって。
釦の端っこが来たのを捕まえる。」
「そのまま、離さずに持ってろ・・・」
「そう、指で釦の横を、反対側に押すんだ。」
「・・できた。」
「二つ目もやってみろ。」
不器用な子供のように、頬を上気させて、一生懸命奏は釦と格闘した。
驚くことに奏は、投げ出さずに半時もかけて、釦をとめた。
感動の面持ちで自慢げに姿見を覗き込む奏は、感情の暴走した昨夜と同じ人間とは思えない。
その豹変振りに、如月奏という人間は生まれたての子供のように、ただ何も知らないだけなのだと颯は理解した。
一人で寝巻きを着たとき、父親に褒めてもらおうと長い時間玄関で待っていた、年の離れた弟。
そのまま、その場で眠ってしまった征四郎と奏は、かぶって見えた。
「ほら。タイは難しいから、今日は結んでやろう。」
「顎を上げて。」
奏は颯の言うまま、待っていた。
「手というのはね、鞭を振るうよりも、釦を留めるほうが優雅に見える様に出来てるんだ。」
「働く者たちの手元を見たことがあるかい?」
「いえ。」
「大工の棟梁の手などは、まるで手妻(手品)を扱うように見える。
一度、見てみるといい。」
じっと、奏が不思議そうに見つめる。
「僕に、そんなことを言ったのは、君が始めてだ。」
「友人になるつもりだから、言う。」
「友人・・・?」
奏は、聞きなれない言葉を問い返した。
「今のままじゃ、一生何も出来ない京人形で終わるぞ。」
「ほら。
一人できちんと出来るように、教えてやるから。」
椅子に座った奏の肩越しから、釦のはめ方を征四郎に教えるように丁寧に教えてやった。
「最初は釦の、端っこをつまむんだ。そう・・・」
「慌てなくていいから、ゆっくり。」
奏は少し、くすぐったそうにしていたが、嫌そうではなかった。
奏の、焚き染めた香が鼻をくすぐる・・・
「そら。
反対の指・・・親指と人指し指をホールの側に迎えに行くように持っていって。
釦の端っこが来たのを捕まえる。」
「そのまま、離さずに持ってろ・・・」
「そう、指で釦の横を、反対側に押すんだ。」
「・・できた。」
「二つ目もやってみろ。」
不器用な子供のように、頬を上気させて、一生懸命奏は釦と格闘した。
驚くことに奏は、投げ出さずに半時もかけて、釦をとめた。
感動の面持ちで自慢げに姿見を覗き込む奏は、感情の暴走した昨夜と同じ人間とは思えない。
その豹変振りに、如月奏という人間は生まれたての子供のように、ただ何も知らないだけなのだと颯は理解した。
一人で寝巻きを着たとき、父親に褒めてもらおうと長い時間玄関で待っていた、年の離れた弟。
そのまま、その場で眠ってしまった征四郎と奏は、かぶって見えた。
「ほら。タイは難しいから、今日は結んでやろう。」
「顎を上げて。」
奏は颯の言うまま、待っていた。
「手というのはね、鞭を振るうよりも、釦を留めるほうが優雅に見える様に出来てるんだ。」
「働く者たちの手元を見たことがあるかい?」
「いえ。」
「大工の棟梁の手などは、まるで手妻(手品)を扱うように見える。
一度、見てみるといい。」
じっと、奏が不思議そうに見つめる。
「僕に、そんなことを言ったのは、君が始めてだ。」
「友人になるつもりだから、言う。」
「友人・・・?」
奏は、聞きなれない言葉を問い返した。
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