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小説・初恋・18(夜会) 

約束どおり、奏から夜会の招待状は届けられた。


驚くほど上等の借り着に身を包み、馬車すらも友人の借り物で、颯と清輝は如月邸に向かった。


「怖じることは有りませんよ、颯様。」


「ふ・・・ん。それで、その震えは武者震いというものなのか、清輝。」


「勿論です。」


こうしてみると、二人は時代の先端を行く若者らしく、恰好がよかった。

元々、武道を嗜んできた事も有って、華奢な貴族とは違い、洋服を着ると薄く筋肉の乗った長身は見栄えがよかった。


背筋を伸ばして、戦場に降り立つ西洋の貴公子のように、外門前に揃った目立つ二人は周囲のご婦人方の目が熱く注がれているのに気が付く・・・


きりとした眦で辺りを見渡すと、視線に向かって付け焼刃で習い覚えたとおり、慇懃に会釈をした。


ほうっとかすかな、感嘆の堰をきるように・・・


「颯!」


聞き覚えのある懐かしい声だった。


「え?

父上・・・何故、ここに?」


華族は東京に住まうのが、義務付けられている。


当然、両親は最近東京に住まいを移したのだが、失念していた。


「薄情者。ちゃんと手紙を書いたのに顔も見せないで。」


「西洋舞踊の練習が、忙しかったんですよ。」


「母上は?」


元来、表に出るのを好まない古風な母であったが、最近は西洋式の妻女同伴という流行のおかげで、仕方なく父に連れられて夜会に顔を出すこともあった。

「ごきげんよう、颯。」


「お久しぶりです、母上。」


お互い何となく、くすぐったい気がするのは、見慣れない洋装のせいだと思う。


緑のタフタの腰高の衣装は、色の白い母親に、とてもよく映えていた。


如月奏が同級生なんです、と告げると二人は一様に驚いたように顔を見合わせた。


「如月に招待状を貰ったので、清輝と二人で来たんです。」

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