小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・28
今なら、まだ引き返せるけど、いいの?」
火葬場で所在無さげにしていた俺に、喪服の成瀬が声をかけてきた。
一夜の内に髪を染め替え、髭をそった成瀬は、こう見ると意外に作りの整ったいい男に見える。
ジャラジャラつけていた、ピアスもみんな外し、まるで違った真面目な印象だった。
「まだ、養子の件もそのままだし。」
「なんなら、みぃは義務教育の間、施設に預けてもいいと思ってるんすよ、俺は。」
仕事の合間に、様子を伺ったりはできるからと、成瀬は俺の心配もしたようだ。
「一緒に暮らせるさ。
みぃくんと俺は、愛する者を失くした者同士なんだから。」
「手術で入院する間だけ、施設の世話になると思うが、一月くらいのことだと思う。」
久し振りに、成瀬の吸う煙草に手を伸ばした。
「兄貴の仕事を手伝うんだ。きちんと働いて、みぃくんはちゃんと育てるから。」
火をつけながら、成瀬は妙に意味深な発言をした。
「あと何年か経っても、みぃのこと松原さんがそう思ってくれてるといいんだけど・・・ね。」
「あと何年かって?、それどういう意味?」
成瀬は、それに関してはもう何も言わず、謎か預言のような言葉を残して立ち上がった。
今にして思えば、何かそのときに予期していたのだろうと思うが、当時の俺は何も気が付いていなかった。
骨が焼きあがるまで、俺達は待合室で酒を飲んでいた。
細いすねをむき出しにした、半ズボンのみぃくんが階下の駐車場で、母親の荼毘に付す煙の影を踏んでいた。
ゆらゆらと揺れる、煙の影は陽がかげると見えなくなって、みぃくんは探すようにこちらを見上げた。
「・・・ふっ、ふぇっん・・・」
みぃくんは猫の子が鳴くように、しゃくりあげた。
たった一人の身内においてゆかれる切なさと、不安に包まれてしまったのだろうか。
「おいで、みぃ!」
成瀬が大声でみぃくんを呼んだ。
長く一緒に居たせいだろうか。
成瀬はみぃくんの扱いがとても上手い。
落としどころをつかんでいるような気さえする。
「ほら、みぃ。悲しくなったら、これを見てみな。」
沢口祥子の遺した化粧道具の中から、持って来たコンパクトだけを取り出して、成瀬はみぃくんに与えた。
「ほら、ここに写ったみぃの目、ママによく似てるだろ。」
「うん・・・」
「みぃが笑うと、鏡の中でママが笑ったみたいだろ?」
「うん。」
鏡の中の自分に笑いかけ、みぃくんはそのまま俺に笑顔を向けた。
成瀬の意味深発言が、すべてだったりします。
お読みいただきありがとうございます。
パソコンスキルがないと、fc2ブログは難解なことがいっぱいです。
あれこれがんばり中・・・
R指定は短編で練習かな、未だ付きそうにないです。うう・・・此花
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