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小説・凍える月(オンナノコニナリタイ)・24 

「あのね、みぃくんは、サッカーとかしたことある?」

「さっかぁ・・・?」

どうやら、みぃが困ってしまったので助け舟を出した。

「翔。みぃくんはね、お母さんが重い病気でね、サッカーも他の運動も出来なかったんだよ。」

「ふぅん。みぃくん、苦労したんだ。」

「今度、ゆっくり来た時に、教えてやってくれないか。」

「いいよっ!ちょっと待ってて、みぃくん。」

翔は、走って自分の部屋からボールを持って来た。

「これ、みぃくんにあげるよ。朱里兄ちゃんに貰って、おなじやつが二個あるから。」

「毎日、キックして練習すると、すぐに上手になるよ。」

みぃは、おずおずと大きなボールを受け取り、俺の顔を見上げた。
ずっと大人の世界にいたみぃは、どうやら年の近い男の子と、こんな会話をしたこともなかったようで、返事に困っていたらしかった。

「あの。あの・・・ぼーる、ありがと・・・」

それでも消え入りそうな声で、何とか礼が言えたので俺もほっとした。
たぶん、助けを借りずに礼が言えたみぃは、俺よりももっと誇らしげな気分だったのだと思う。

「また、遊ぼうね。」

「うん。」

翔が人懐こい子どもで、救われた気分だった。
あの兄貴の子供にしては、本当に気が利いている。
みぃと手をつないで、気持も軽く家路についた。
見上げれば凍った弓張り月は、南にある。
今頃、兄夫婦は俺たちを肴にして話を弾ませているだろう。

「叔父さんー!」

聞き覚えのある声に振り向けば、洸が息を切らせて自転車で追ってきた。

「忘れ物っ!・・・みぃくんの靴、片方だけ玄関に落ちてたよ。」

一方の靴しか履いていない、みぃの足元を見て俺は苦笑した。

「気が付かなかったなぁ。みぃくん、脱げちゃったのか?」

「うん。いっこ、脱げた。」

王子さまが跪いて悪戦苦闘しながら、お姫さまに硝子の靴をはかせていた。

「あれ?」

「叔父さん、この靴さ、両方とも右足用じゃない?」

片一方の足だけで合わせて、急ぎで買った靴は両方とも右足だったらしい。
同じ方向の靴を履いた、みぃの足元を見て洸が笑った。

「これじゃ、歩けないよなぁ。」

「叔父さん、この子小さいんだからさ、ちゃんと面倒見てやんなよ。」

ごもっともだ。
確かに洸は兄貴として、優秀な方だと思う。
両親が多忙なときなど、弟二人の面倒は、洸の役目だった。



洸兄ちゃんみたいなお兄ちゃんがいたら、いいよね。
いつもお姉ちゃんだからといわれ続けてたから、こんなお兄ちゃんが欲しかったなあ。此花
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