月影の鵺・6(最終話)
BL観潮楼秋企画【月影の鵺・6 最終話】
鵺(ぬえ):暗い森の中にすみ、夜、ヒーヒョーと笛を吹くような寂しい声で鳴く。
または、伝説上の妖力をもったばけもの。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎、正体ははっきりとはしない。
<前回までのあらすじ>
勘定吟味役の父親が、背後からの刀傷で憤死するという不名誉な出来事から、早6年の時が過ぎた。
武士にあるまじき死とそしりを受け、お家はあえなく断絶となり、幼い兄弟達は行方知れずになっていた。
今は、瀬良家縁の菩提寺に、髪を下ろした妻女が粗末な庵を開いて菩提を弔って居ると言う。
兄弟の所在を聞いても尼は口をつぐみ、父の死に際してまだ前髪の兄が、弟達の手を引いて城代家老にお家存続を涙ながらに言上した話も、ただの孝行ものの哀れな美談で終っていた。
当時、誰も彼等の力になるものは無く、行方不明の兄弟を思いやる家中の者も居なかった。
たまに見目良い兄弟が、生きていればどのように凛々しく美々しい若者になっていただろうかと、女共の口に上るくらいのことである。
悲しみのあまり故郷を出奔したとも、遠縁を頼り西国に行ったとも言われていた。
だが実は、残された遺書によって、父の死が仕組まれたものと知った彼等は密かに仇を討っていた。
*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*
夕暮れの町外れは、既にもう人通りもなかった。
月華とやら・・・と、手を引く勘定奉行が声を掛けた。
「そちの兄上は、類希なる上品(じょうぼん)じゃのう。」※上品上生(じょうぼんじょうしょう)の略
「じょう、ぼ・・・?」
「良い良い、分からなくてもよいのじゃ。そら。」
ひょいと月華の身体を軽々と抱え上げ、肩車をした勘定奉行に月華はきゃあっと声を上げた。
「お空が近うなった気がいたします。」
「昔、今はない父上に、こうして肩車をしていただきました。」
子どもらしく明るく声を上げる月華に、先ほどまで兄に、散々無体を仕掛けていた我が身をふと恥じた。
「明日には・・・明日が無理でも近い内に、きっと兄上を帰して進ぜる。月華殿は泣かずに待てるかな?」
「あい。月華は兄上がたいそう好きですから、戻られるまでいい子でお待ちします。」
「そうか・・・そうか、愛いの・・・う?・・・」
言い終わらぬうちに、肩車の影がぐらりとかしいで、月華が肩からぽんと飛び降りた。
「・・・ですから、お奉行さま。早く笹目あにうえをお返しくださいね。」
にっこりと微笑む月華の小さな手には、夕陽にきらめくものがある。
ぱたぱたと家路を急ぐ月華の後で、人が死んでいると金きり声が上がった。
その声にばらばらと人が集まり、番所に担ぎ込まれる奉行の身体に何の不審もない。
上の兄が、息も絶え絶えな笹目を引き取りに、奉行所へと訪れた。
「ご雑作をお掛けいたしました。花形役者をお返しいただき、お礼の言葉もございませぬ。」
「そのほうは?」
「座付き作家の滝沢弥琴(たきざわやきん)と申します。以後、お見知りおきくださいますように。」
「こちらの調べが、多少荒っぽくなりすぎて可哀想に目が空ろになって居るようだの。気付け薬を進ぜるから、もって行くように。」
有りがたく深々と頭を下げて、是非とも舞台をご覧になってくださいと頭を下げ、座付き作家は引き馬に役者を乗せて家路を急いだ。
「大丈夫か、笹目。」
「何のこれしき・・・。いささか、随喜に堪えた。あの、好き者が図に乗りおって・・・」
意識が朦朧とする笹目に、気付け薬を飲ませた兄は後孔をまさぐった。
散々に、いたぶられたそこは熱を持ち、溜まった精で潤んでいた。
「笹目、おいで。鎮めてやろう。」
「これでは、立ってもいられまい?」
くっ・・・と、喉の奥で押しつぶした嗚咽が漏れた。
兄は道をはずれ、草陰に馬を寄せた。
「月華が、勘定奉行の始末をした。」
「兄・・・上・・、今宵の笹目は、正気でいられませぬ。散々に、・・・使われましてございまする。」
「淫具・・・か?」
「は・・・。」
大きく喘いで、義弟が俯くと、思わぬ涙がはらはらと零れ落ちた。
「このような思いまでして・・・我が身を虫けらのように地に落としてまで、親の仇を討たねばならぬとは・・・。」
「まこと、武士道とは・・・救いのない魔道にございます。」
「元より報われぬ、残酷なものじゃ。」
「せめて、この兄が清めてやろう・・・泣くな、笹目。」
「あ、あにう・・・え。」
幼い子どものように取りすがって、清冽な美貌が兄の袂を濡らした。
暗い森の奥で、鵺がヒョーオと笛を吹くような寂しい声で鳴く。
月影に隠れ愛おしい義弟を抱いた、人の世の化け物が呟いた。
「やっと、二人。」
我が身の切なさに、とうとう笹目兄上は泣いてしまいました。
矜持を持って、父の仇を討つ息子達にこの仕打ちは辛いです。がんばれ~、綺麗な笹目にいさま。
此花は、全力で笹目にいさまをお慕いしています。←くそ~、だから、こんな目に遭ったのか~・・・by-笹目。
お読みいただきありがとうございます。拍手もポチもありがとうございます。
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
(pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの和風綺麗お子さま達です~~!時代物好きなので嬉しいです。
<あとがき>
女形の初代といわれております、「吉沢あやめ」と座付き作家は、「滝沢馬琴」の名前をインスパイアでリスペクトでオマージュですっ。←素直に、パクったといいましょう。
今回も、後を引くような終わり方をしてしまいました。
人を殺めた人は、それがどんな理由でも同じ目に遭わなければなりません。美貌の兄弟が本懐を遂げた後どんな最期を迎えるのか・・・脳内ではできてるのですが、余りに嗜虐的要素が強いので、少ない脳みそ振り絞って考えます。ここまでお読みいただきありがとうございました。思いつく限りの感謝を込めて、後がきに代えます。
ご感想などいただけましたら、狂喜乱舞いたします。 此花
鵺(ぬえ):暗い森の中にすみ、夜、ヒーヒョーと笛を吹くような寂しい声で鳴く。
または、伝説上の妖力をもったばけもの。頭は猿、胴は狸、尾は蛇、手足は虎、正体ははっきりとはしない。
<前回までのあらすじ>
勘定吟味役の父親が、背後からの刀傷で憤死するという不名誉な出来事から、早6年の時が過ぎた。
武士にあるまじき死とそしりを受け、お家はあえなく断絶となり、幼い兄弟達は行方知れずになっていた。
今は、瀬良家縁の菩提寺に、髪を下ろした妻女が粗末な庵を開いて菩提を弔って居ると言う。
兄弟の所在を聞いても尼は口をつぐみ、父の死に際してまだ前髪の兄が、弟達の手を引いて城代家老にお家存続を涙ながらに言上した話も、ただの孝行ものの哀れな美談で終っていた。
当時、誰も彼等の力になるものは無く、行方不明の兄弟を思いやる家中の者も居なかった。
たまに見目良い兄弟が、生きていればどのように凛々しく美々しい若者になっていただろうかと、女共の口に上るくらいのことである。
悲しみのあまり故郷を出奔したとも、遠縁を頼り西国に行ったとも言われていた。
だが実は、残された遺書によって、父の死が仕組まれたものと知った彼等は密かに仇を討っていた。
*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*
夕暮れの町外れは、既にもう人通りもなかった。
月華とやら・・・と、手を引く勘定奉行が声を掛けた。
「そちの兄上は、類希なる上品(じょうぼん)じゃのう。」※上品上生(じょうぼんじょうしょう)の略
「じょう、ぼ・・・?」
「良い良い、分からなくてもよいのじゃ。そら。」
ひょいと月華の身体を軽々と抱え上げ、肩車をした勘定奉行に月華はきゃあっと声を上げた。
「お空が近うなった気がいたします。」
「昔、今はない父上に、こうして肩車をしていただきました。」
子どもらしく明るく声を上げる月華に、先ほどまで兄に、散々無体を仕掛けていた我が身をふと恥じた。
「明日には・・・明日が無理でも近い内に、きっと兄上を帰して進ぜる。月華殿は泣かずに待てるかな?」
「あい。月華は兄上がたいそう好きですから、戻られるまでいい子でお待ちします。」
「そうか・・・そうか、愛いの・・・う?・・・」
言い終わらぬうちに、肩車の影がぐらりとかしいで、月華が肩からぽんと飛び降りた。
「・・・ですから、お奉行さま。早く笹目あにうえをお返しくださいね。」
にっこりと微笑む月華の小さな手には、夕陽にきらめくものがある。
ぱたぱたと家路を急ぐ月華の後で、人が死んでいると金きり声が上がった。
その声にばらばらと人が集まり、番所に担ぎ込まれる奉行の身体に何の不審もない。
上の兄が、息も絶え絶えな笹目を引き取りに、奉行所へと訪れた。
「ご雑作をお掛けいたしました。花形役者をお返しいただき、お礼の言葉もございませぬ。」
「そのほうは?」
「座付き作家の滝沢弥琴(たきざわやきん)と申します。以後、お見知りおきくださいますように。」
「こちらの調べが、多少荒っぽくなりすぎて可哀想に目が空ろになって居るようだの。気付け薬を進ぜるから、もって行くように。」
有りがたく深々と頭を下げて、是非とも舞台をご覧になってくださいと頭を下げ、座付き作家は引き馬に役者を乗せて家路を急いだ。
「大丈夫か、笹目。」
「何のこれしき・・・。いささか、随喜に堪えた。あの、好き者が図に乗りおって・・・」
意識が朦朧とする笹目に、気付け薬を飲ませた兄は後孔をまさぐった。
散々に、いたぶられたそこは熱を持ち、溜まった精で潤んでいた。
「笹目、おいで。鎮めてやろう。」
「これでは、立ってもいられまい?」
くっ・・・と、喉の奥で押しつぶした嗚咽が漏れた。
兄は道をはずれ、草陰に馬を寄せた。
「月華が、勘定奉行の始末をした。」
「兄・・・上・・、今宵の笹目は、正気でいられませぬ。散々に、・・・使われましてございまする。」
「淫具・・・か?」
「は・・・。」
大きく喘いで、義弟が俯くと、思わぬ涙がはらはらと零れ落ちた。
「このような思いまでして・・・我が身を虫けらのように地に落としてまで、親の仇を討たねばならぬとは・・・。」
「まこと、武士道とは・・・救いのない魔道にございます。」
「元より報われぬ、残酷なものじゃ。」
「せめて、この兄が清めてやろう・・・泣くな、笹目。」
「あ、あにう・・・え。」
幼い子どものように取りすがって、清冽な美貌が兄の袂を濡らした。
暗い森の奥で、鵺がヒョーオと笛を吹くような寂しい声で鳴く。
月影に隠れ愛おしい義弟を抱いた、人の世の化け物が呟いた。
「やっと、二人。」
我が身の切なさに、とうとう笹目兄上は泣いてしまいました。
矜持を持って、父の仇を討つ息子達にこの仕打ちは辛いです。がんばれ~、綺麗な笹目にいさま。
此花は、全力で笹目にいさまをお慕いしています。←くそ~、だから、こんな目に遭ったのか~・・・by-笹目。
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女形の初代といわれております、「吉沢あやめ」と座付き作家は、「滝沢馬琴」の名前をインスパイアでリスペクトでオマージュですっ。←素直に、パクったといいましょう。
今回も、後を引くような終わり方をしてしまいました。
人を殺めた人は、それがどんな理由でも同じ目に遭わなければなりません。美貌の兄弟が本懐を遂げた後どんな最期を迎えるのか・・・脳内ではできてるのですが、余りに嗜虐的要素が強いので、少ない脳みそ振り絞って考えます。ここまでお読みいただきありがとうございました。思いつく限りの感謝を込めて、後がきに代えます。
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