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長月の夢喰い(獏)・2 

BL観潮楼秋企画【長月の夢喰い(獏)・2】

獏(ばく):体は熊、鼻は象、目は犀、尾は牛、脚は虎にそれぞれ似ているとされるが、その昔に神が動物を創造した際に、余った半端物を用いて獏を創造したためと言われている。
人の悪夢を喰う。


<前回までのあらすじ>

勘定吟味役の父親が、背後からの刀傷で憤死するという不名誉な出来事から、早6年の時が過ぎた。
武士にあるまじき死とそしりを受け、お家はあえなく断絶となり、幼い兄弟達は行方知れずになっていた。
今は、瀬良家縁の菩提寺に、髪を下ろした妻女が粗末な庵を開いて菩提を弔って居ると言う。

兄弟の所在を聞いても尼は口をつぐみ、父の死に際してまだ前髪の兄が、弟達の手を引いて城代家老にお家存続を涙ながらに言上した話も、ただの孝行ものの哀れな美談で終っていた。

当時、誰も彼等の力になるものは無く、行方不明の兄弟を思いやる家中の者も居なかった。
たまに見目良い兄弟が、生きていればどのように凛々しく美々しい若者になっていただろうかと、女共の口に上るくらいのことである。
悲しみのあまり故郷を出奔したとも、遠縁を頼り西国に行ったとも言われていた。

だが実は、残された遺書によって、父の死が仕組まれたものと知った彼等は密かに仇を討っていた。
兄弟は今は、芝居小屋に身をよせ弥一郎は、座付き作家、笹目は、当代一の花形女形、月華は子役となっている。

*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*

頭を下げた瀬良の遺児は、正室の子である長男13歳の弥一郎。

稚児顔・piosama



冬の朝、子連れで門前に行き倒れていたのを、そのまま母を側室とし子を養子にした12歳の次男の笹目。
そして、最後に側室腹に生まれた末子、まだ6歳の月華であった。

小さな手を三角に行儀よくついて、静々と対面に臨んだ幼い遺児達が、そのまま育てばどれほどの青年になっただろうと今でも思う。
父に良く似た弥一郎は、自分の後を慕って念友の契りを交わしたころの忠行に瓜二つだった。
一瞬ではあったが、城代家老、坂崎采女は、その手を伸ばしかけた。
掌中の珠のように愛おしんだのに、忠行は自分を裏切ったのだと思い直した。

凛々しく涼やかな眼差しで、幼いながらにお家存続を訴え出た少年に胸を打たれ、他の家老の中には元服の後に再興を考えてやってもよいのではないか、と言う声が上がった。

「城代さま。瀬良忠行が嫡男、瀬良弥一郎にございます。」

「此度、不慮の事故で亡くなりました父の、勘定吟味役のお跡目を御ゆるしいただくべく、お願いにまかり越しましてございます。」

「ああ、あの武士にもあるまじき情けない逃げ傷を負った、勘定吟味役の瀬良の遺児か。」
「わしも若い時分より瀬良には目をかけておったが、藩にとってもあのような死は不名誉なことじゃ。」

間も無く元服という時の不幸な出来事で、手をつく弥一郎のその姿は、凛々しい顔に似合わず未だ前髪の幼い形であった。
真正面から悪しざまに冷たく罵られ、13歳の少年は悔しさに思わず唇をかんだ。
城代家老と父の間に何があったのか、知る由もなかった。

当時、家の職業は子々孫々へと、世襲するのが普通だった。
祐筆の家系は、一生祐筆、勘定方は武家でありながら、一生そろばんを弾く。
賄い方も、差料(刀)と同じように、包丁の手入れをした。
余り表には出ないが朝夕人(ちょうじゃくにん)と言う、殿様の小便を受けるだけのお役目がある。
先祖代々、ありがたく尿瓶(しとづつ)を捧げ持ち、参勤交代の折など某と名を呼ばれたら、殿の傍に寄った。

江戸の世になって戦がなくなると、新しく仕官することなど富くじで一番富を引き当てるより難しいといわれた。
一度、職を失うと家族も使用人も一族郎党、路頭に迷うに等しかった。
嫡男、瀬良弥一郎の肩に、一族の行く末が重くのしかかっていた。

「城代家老さま。どうぞ、瀬良忠行の・・・再吟味をよろしくお願い致します。」

背景なし・稚児・pioさま



声が震え、ついた手にぽろり・・・一滴が転がり落ちた。

「何卒(なにとぞ)、瀬良家のお家安泰の儀、お聞き届けくださいませ。」
「一応、話だけ聞いておこう。」

どこまでも冷ややかな、坂崎采女の声に弥一郎の背筋がこわばった。





とっても、真面目に二話続きました。話が進んでゆくごとに、エロいことに・・・いや、えらいことになってきます。
兄弟が倒す予定の城代家老は、国家老よりも格上で、お殿様が参勤交代や戦でお留守のときは実質上のトップです。
殿が参勤交代で江戸へ行くときは、江戸藩邸には江戸家老を置き、国許には城代家老、国家老がいて政を行いました。家老職は数名いたので、時々派閥争いなど起きたようです。跡目相続などで大騒ぎ。楽しそうです・・・

父上は弥一郎にそっくりと言う設定なので、挿絵も重複しております。
幼い弥一郎は、月華に似ています。父上、男前だけどあんまりな人生です。仇討は上手く行くのでしょうか。
時代物になると鬼畜上等になってしまいます。こんなに純情可憐な作者なのに。←・・・だれ?    此花

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観潮楼さま秋企画
こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの和風綺麗お子さま達です~~!
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2 Comments

此花咲耶  

NoTitle

pioさま

あらすじ完了しました。v-81パフパフ~♪
後は、つじつまあわせと、テクのない此花の(残念すぎる~)涙の陵辱場面がちょっぴり・・・なのに必死です。
時代物の素敵絵ありきで、お話ができました。皆様のお話も気になっているのですが、かぶるといけないので我慢しています。
純情可憐って・・・くそぉ・・・・あ、上品な猫がずれ落ちそうになりましたわ。いやですわ。

コメントありがとうございました、今話は、兄上が流血でがんばります。

2010/10/05 (Tue) 00:41 | REPLY |   

pio  

おニイたん…(;o;)

兄弟の健気な姿に胸うたれます。胸うたれながら鬼畜上等にワクワクしたりしてー♬
確かにこんな不条理で無情な世なら、鬼畜もまかり通る(?)のでしょうか。

純情可憐って誰のこと~?ねえ誰のこと~??

2010/10/04 (Mon) 23:12 | REPLY |   

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