長月の夢喰い(獏)・1
BL観潮楼秋企画【長月の夢喰い(獏)・1】
獏(ばく):体は熊、鼻は象、目は犀、尾は牛、脚は虎にそれぞれ似ているとされるが、その昔に神が動物を創造した際に、余った半端物を用いて獏を創造したためと言われている。
人の悪夢を喰う。
<前回までのあらすじ>
勘定吟味役の父親が、背後からの刀傷で憤死するという不名誉な出来事から、早6年の時が過ぎた。
武士にあるまじき死とそしりを受け、お家はあえなく断絶となり、幼い兄弟達は行方知れずになっていた。
今は、瀬良家縁の菩提寺に、髪を下ろした妻女が粗末な庵を開いて菩提を弔って居ると言う。
兄弟の所在を聞いても尼は口をつぐみ、父の死に際してまだ前髪の兄が、弟達の手を引いて城代家老にお家存続を涙ながらに言上した話も、ただの孝行ものの哀れな美談で終っていた。
当時、誰も彼等の力になるものは無く、行方不明の兄弟を思いやる家中の者も居なかった。
たまに見目良い兄弟が、生きていればどのように凛々しく美々しい若者になっていただろうかと、女共の口に上るくらいのことである。
悲しみのあまり故郷を出奔したとも、遠縁を頼り西国に行ったとも言われていた。
だが実は、残された遺書によって、父の死が仕組まれたものと知った彼等は密かに仇を討っていた。
兄弟は今は、芝居小屋に身をよせ弥一郎は、座付き作家、笹目は、当代一の花形女形、月華は子役となっている。
*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*
兄弟達の最後の仇敵、城代家老、坂崎采女(さかざきうねめ)は胸騒ぎを覚えていた。
悪事の仲間、回船問屋と勘定奉行の突然の死が、腑に落ちなかった。
6年も前のことだが、勘定吟味役の瀬良忠行に抜け荷の証拠を突きつけられ、仲間に引き込もうとして失敗した。
折に触れ、その記憶に悩まされている。
「このようなこと、許されぬ。」
「待てっ。忠行、そのほう、この坂崎がどうなっても良いのかっ。」
止めようとする坂崎に、兄弟達の父、正義感の強い瀬良忠行は涙ながらに腕を振り払った。
「我が身に変えても、殿への背信(裏切り)、言上つかまつるっ!」
裏帳簿を握って雨の中を駆け出した瀬良忠行に、仕方なく城代は手練(だ)れの追っ手を差し向け亡き者とした。
一度、悪事に手を染めたものには、真白い心根が眩しく、いっそ踏みにじってやろうと思うのが人の常だ。
染まらぬゆえ、心根の清らかな瀬良をやむなく斬った。
舌の回らぬ幼い頃より「うねめさまぁ」と、慕って来る忠行が、いつしか念友となったのも当然だったかもしれない。
その忠行を、断腸の思いで切り捨てた。
我が身の保身のために、犠牲にした。
道端の溝に倒れこんだ美丈夫の瀬良が、背後から一刃、切りつけられていたのにはそんな訳があった。
正面から一人が身体をきつく羽交い絞めにし、背後から一刀両断、袈裟懸けにしたと始末した家中のものに聞いた。
刀を抜くことも無く、不名誉にも逃げ傷を負って、瀬良は、「あな、口惜しや・・・采女どの」と呻いてこと切れたそうだ。
「いずれ仔細を知れば、仇を討ちに来るやも知れぬ。」
小心者は、口々に怯えた。
平和な日々に、仇討などするものが有るものか・・・そういって笑って回船問屋と勘定奉行を安心させた城代家老であった。
その遺骸は、溝に放置され一夜雨に打たれた挙句、武士にあるまじき傷での死として、不幸にも埋葬前に高札の元で3日間晒された。
その裁可も、自分が下した。
聞くところによると、長兄の弥一郎は、埋葬許可が下りるまでの三日間、父の遺体の傍に薄い敷物を敷き共に過ごしたそうだ。
きりりと頭をあげ、握り飯と香の物だけを食し、きちんと正座する姿はさすがに武士の子だったと記録に残る。
夏の盛りに父の遺体は傷むのも早かった。
両眼に蝿がたかり蛆がわき始めた4日目に、母にも伝えず弟達の手を引いて、思いつめた目をして弥一郎は、城代家老の眼前に手をついた。
いよいよ、仇討最終章になります。
彼等の落ち行く先に、救いは有るのか。仇は討てるのか。大願は成就となるのか。
入れなければいけないことが、山積みです。ど~~~~んっ!
ぴんくのぞうさんとは、ちょっと違った雰囲気になると思います。
時代物は、普段とかけ離れていますのでわからないことがありましたら、ちょっぴり調べた分今だけ期間限定で詳しくなっていると思いますので、がんがん聞いてやってください。此花、喜びます。
時代物、書けて嬉しいです。pioさまの超絶美麗絵がたんとありますので、嬉しいのです。わ~いっ!(^▽^)ノ☆ 此花
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こちらで使用させていただいている美麗挿絵(イラスト)は、BL観潮楼さま・秋企画参加のみのフリー絵です、それ以外の持ち出しは厳禁となっております。著作権は各絵師様に所属します。
(pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの和風綺麗お子さま達です~~!時代物好きなので嬉しいです。
獏(ばく):体は熊、鼻は象、目は犀、尾は牛、脚は虎にそれぞれ似ているとされるが、その昔に神が動物を創造した際に、余った半端物を用いて獏を創造したためと言われている。
人の悪夢を喰う。
<前回までのあらすじ>
勘定吟味役の父親が、背後からの刀傷で憤死するという不名誉な出来事から、早6年の時が過ぎた。
武士にあるまじき死とそしりを受け、お家はあえなく断絶となり、幼い兄弟達は行方知れずになっていた。
今は、瀬良家縁の菩提寺に、髪を下ろした妻女が粗末な庵を開いて菩提を弔って居ると言う。
兄弟の所在を聞いても尼は口をつぐみ、父の死に際してまだ前髪の兄が、弟達の手を引いて城代家老にお家存続を涙ながらに言上した話も、ただの孝行ものの哀れな美談で終っていた。
当時、誰も彼等の力になるものは無く、行方不明の兄弟を思いやる家中の者も居なかった。
たまに見目良い兄弟が、生きていればどのように凛々しく美々しい若者になっていただろうかと、女共の口に上るくらいのことである。
悲しみのあまり故郷を出奔したとも、遠縁を頼り西国に行ったとも言われていた。
だが実は、残された遺書によって、父の死が仕組まれたものと知った彼等は密かに仇を討っていた。
兄弟は今は、芝居小屋に身をよせ弥一郎は、座付き作家、笹目は、当代一の花形女形、月華は子役となっている。
*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*――-――*
兄弟達の最後の仇敵、城代家老、坂崎采女(さかざきうねめ)は胸騒ぎを覚えていた。
悪事の仲間、回船問屋と勘定奉行の突然の死が、腑に落ちなかった。
6年も前のことだが、勘定吟味役の瀬良忠行に抜け荷の証拠を突きつけられ、仲間に引き込もうとして失敗した。
折に触れ、その記憶に悩まされている。
「このようなこと、許されぬ。」
「待てっ。忠行、そのほう、この坂崎がどうなっても良いのかっ。」
止めようとする坂崎に、兄弟達の父、正義感の強い瀬良忠行は涙ながらに腕を振り払った。
「我が身に変えても、殿への背信(裏切り)、言上つかまつるっ!」
裏帳簿を握って雨の中を駆け出した瀬良忠行に、仕方なく城代は手練(だ)れの追っ手を差し向け亡き者とした。
一度、悪事に手を染めたものには、真白い心根が眩しく、いっそ踏みにじってやろうと思うのが人の常だ。
染まらぬゆえ、心根の清らかな瀬良をやむなく斬った。
舌の回らぬ幼い頃より「うねめさまぁ」と、慕って来る忠行が、いつしか念友となったのも当然だったかもしれない。
その忠行を、断腸の思いで切り捨てた。
我が身の保身のために、犠牲にした。
道端の溝に倒れこんだ美丈夫の瀬良が、背後から一刃、切りつけられていたのにはそんな訳があった。
正面から一人が身体をきつく羽交い絞めにし、背後から一刀両断、袈裟懸けにしたと始末した家中のものに聞いた。
刀を抜くことも無く、不名誉にも逃げ傷を負って、瀬良は、「あな、口惜しや・・・采女どの」と呻いてこと切れたそうだ。
「いずれ仔細を知れば、仇を討ちに来るやも知れぬ。」
小心者は、口々に怯えた。
平和な日々に、仇討などするものが有るものか・・・そういって笑って回船問屋と勘定奉行を安心させた城代家老であった。
その遺骸は、溝に放置され一夜雨に打たれた挙句、武士にあるまじき傷での死として、不幸にも埋葬前に高札の元で3日間晒された。
その裁可も、自分が下した。
聞くところによると、長兄の弥一郎は、埋葬許可が下りるまでの三日間、父の遺体の傍に薄い敷物を敷き共に過ごしたそうだ。
きりりと頭をあげ、握り飯と香の物だけを食し、きちんと正座する姿はさすがに武士の子だったと記録に残る。
夏の盛りに父の遺体は傷むのも早かった。
両眼に蝿がたかり蛆がわき始めた4日目に、母にも伝えず弟達の手を引いて、思いつめた目をして弥一郎は、城代家老の眼前に手をついた。
いよいよ、仇討最終章になります。
彼等の落ち行く先に、救いは有るのか。仇は討てるのか。大願は成就となるのか。
入れなければいけないことが、山積みです。ど~~~~んっ!
ぴんくのぞうさんとは、ちょっと違った雰囲気になると思います。
時代物は、普段とかけ離れていますのでわからないことがありましたら、ちょっぴり調べた分今だけ期間限定で詳しくなっていると思いますので、がんがん聞いてやってください。此花、喜びます。
時代物、書けて嬉しいです。pioさまの超絶美麗絵がたんとありますので、嬉しいのです。わ~いっ!(^▽^)ノ☆ 此花
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(pioさま鼻血ぷぷっの美麗イラストお借りいたしました。ありがとうございました。きゅんきゅんの和風綺麗お子さま達です~~!時代物好きなので嬉しいです。
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