もう1つの【一輪花】
「里の野山に此花咲くや」一周年記念
「千尋悪い、あと1時間くらい時間潰してくれないか?」
光輝からの電話を切った後、千尋はブラブラと街を歩いた。
あまり目的なくふらついた事が無かった千尋は直ぐに時間を持て余し
目についたカフェに入る事にした。
歩道沿いにある綺麗なカフェテラスに決め
その店の所在を光輝にメールした。
千尋が入り口に差し掛かった時に、
自分よりも前で店内に入ろうか迷っていた少年がいた。
「入らないの?」千尋の問い掛けに驚いたように振り向いた顔を見て
「あ、ごめんなさい、男の子かと思って・・・」
千尋の目に映ったのは、少年ではなく少女だった。
「ううん・・僕オンナノコみたいって言われるけど男だよ」
「あっ、重ね重ねごめん・・・」
「えっと?お兄さん?」
その聞き方が可笑しくて千尋はくすっと笑いながら、「お兄さんだよ」と答えた。
「で、入らないの?」
「うん・・僕・・従兄弟のお兄ちゃんと
待ち合わせしてるんだけど、まだ来てないみたい」
「君も?僕もそうだよ、折角だから中で一緒に待たない?」
千尋の提案にその少年はぱあっと顔を輝かせ頷いた。
ひとつのテーブルに腰を下ろし、それぞれオーダーした後に
二人顔を見合わせてくすっと笑った。
「君、中学生?」
「違うよ、小さいけど高校生・・・」
「あ、さっきから僕は失礼な事ばかり言ってるね」
ふっと笑う顔を海広はじっと見つめていた。
従兄弟のお兄ちゃん達は格好いいけど、このお兄さん凄く綺麗・・
僕こんなに綺麗な大人の男の人見たの初めて・・
「僕、従兄弟の洸兄ちゃんと待ち合わせしてるんだ・・」
見つめていたのが照れくさくなって、聞かれもしない事を海広は喋った。
「洸兄ちゃん?そう・・僕の待ち人も・・似た名前だ」
「ふうん・・あ、僕、海広って言います、皆みぃちゃんとか呼ぶけど」
「みひろ?僕は千尋だよ、僕たちも似てるね」
千尋がそう言って笑うと、又その少年・・いや、みぃちゃんは
花が咲いたように笑った。
「みぃちゃんって可愛いね・・あ、又失礼な事言ったかな?」
「ううん・・僕可愛いって言われるの好きだよ」
「そう、良かった・・本当に可愛いね」
千尋には兄弟がいない、こんな可愛い弟がいたら楽しいだろうなと思った。
どのくらい喋っていたのだろう、さっきまで花が咲いたように笑っていた
海広の笑顔が引き攣ったようになった。
千尋も背後に剣呑なオーラを感じ、
振り向くと明るいカフェに似つかわしくない
黒いオーラを纏った光輝が立ち、その後ろに仁がオロオロして立っていた。
「あ、光輝」
「はあん?俺がちょっと遅くなっただけでもう浮気かぁ?」
「はあ?どうして浮気・・・この子?まだ高校生だよ」
「高校生だろうが幼稚園児だろうが俺には関係無い、
お前の前に座ってるだけで面白く無いんだよ」
海広の方を向くと、怯えた顔で目をまん丸にしていた。
そんな姿も可愛いと思ってしまった千尋だったが
「おじさん!千尋お兄さんを苛めないで!」
突然の訴えに千尋も光輝も目を白黒させた。
「あの・・みぃちゃん・・別に苛められてる訳じゃないから、心配しないで」
元気良く光輝を攻めたかと思うと、もう今にも泣きそうな顔になっていた。
千尋は光輝が小父さんと呼ばれて、
余計に頭に来るのではないかと、ちょとだけ不安になった。
仕方ない奥の手を使うしかない・・・
「光輝、ちょっと耳貸して!」
「何だ!」
「いいから」
光輝の後ろで仁が千尋が一歩も引かない事に感心しながらも
やはり事の成り行きを不安気に見守っていた。
『何かあったら俺が間に入って殴られればいいんだ!』
仕事のトラブルで遅くなった上に千尋が知らない少年と
楽しそうに話している顔を見てプチッと切れたらしい
若頭の気持ちも判らなくは無かったが
仁から見ても、千尋の目の前に座っている可愛い少年は、
そういう対象では無いことくらい直ぐ判る。
だが、千尋に耳元で何か囁かれた後の光輝はご満悦そうに口角を上げていた。
「仁、車で待ってるぞ、来い!」
おろおろしてる間に話は付いたらしく、
さっさと店を出て行く若頭の後を慌てて追った。
「ごめんね、みぃちゃん・・怖かった?」
「千尋お兄さん、格好いい・・・」
海広は千尋が怖そうな小父さんに何を言ったのかは判らないが、
それだけでその人が大人しく店から出て行ったのだ、
凄い!と思っても仕方ない。
「千尋お兄さん、あの小父さんに何って言ったの」
気になって海広が聞いてみたが
「内緒」と千尋は妖しく笑った。
その笑顔を見てまた海広は「綺麗・・・」と思ってしまう。
だけど海広は千尋の耳たぶが赤くなっている事に気付かなかった。
「みぃちゃん、僕はもう行くけど、一人で大丈夫?」
丁度その時海広の携帯がメールを受信した。
そのメールを確認すると、嬉しそうな顔の海広が
「洸兄ちゃん、あと5分で着くって」と教えてくれた。
「そうか良かったね、じゃ僕は行くね」
そう言って遠慮する海広の伝票も一緒に掴んで店を出て行った。
ガラス越しに手を振る千尋お兄さんに、海広も中から手を振った。
一人で待ってたら退屈な時間を初めて逢った綺麗なお兄さんと
話が出来て海広はとても嬉しかった。
「う~ん・・・本当に何って言ったんだろう?」
どうしても千尋が光輝に囁いた言葉が気になる海広だった・・・
もし怖い人を退治するオマジナイがあるのなら教えて欲しかったのに。
一生に一度のちょっとした神様の悪戯で逢えた人かもしれない、
いつか又偶然にでも逢う事があるかもしれない・・
それは海広にも千尋にも判らなかった。
『こういうのを袖振り合うも他生の縁って言うんだよね』
海広はガラス窓の向こうに走って来る洸兄ちゃんを見つけて
その顔に又花を咲かせるように微笑んだ。
おわり
詩:けいったん SS:kikyou イラスト:pio
pioさま kikyouさま けいったんさま
ありがとうございました。
もう、パソ前で泣き濡れて、本日篠突く雨に心地よく打ちのめされています。
ああ・・・・なんて綺麗な絵なんでしょう。なんて、流麗な文章なんでしょう。
拙作の「みぃくん」こんな綺麗なお子さんだったのかと思うと、読み手側にも伝わるものが違ってくると思います。
そして、美麗絵に合った何て素敵なお話なのでしょう。
感動の落涙で言葉もなく、ひたすら頭を垂れるばかりです・・・。
今はひたすら「感謝」の二文字です。本当に、ありがとうございました。←そういえば、昨日二文字だと「緊縛」だの「木馬」だの言いましたけどこんなうっとりの「ss」だったのですね・・・゚・。(。/□\。)。・゚ウワーーーン!!!! 嬉し過ぎて、お礼の言葉も見つからないです。本当はssと言う単語も思いついてはいたのですが、あまりに図々しくて文字にはできませんでした。
kikyouさまの数ある作品の中で、一番大好きな「ぼくの背に口付けを」の千尋くんと拙作「凍月」のみぃくんのコラボだなんて。・゚・。(。/□\。)。・゚ウワーーーン!!!!幸せすぎて、もう、どうしていいかわかりません。
この僻地に飾るには、余りにも勿体無いのでどうぞお二人の場所にも「里の野山に此花咲くや」一周年記念 の一文を外して掲載して欲しいです。独り占めするには勿体無さ過ぎます。
ネット上でのささやかなやり取りで、こんなに大きな贈り物をいただきました。
お返しする術を持たないわたしには、一周年にお寄せくださったこの宝ものは、ささやかながらも拙い文章をつづり続けてゆくのが精一杯のお返しになるのだろうと思います。
嬉しくて泣いたなんて経験は数少ないですが、開いてみた時、背筋に震えが来るほどの衝撃と感動でした。
御三方にめぐり会えた多くの偶然の中のたった一つの必然と、月が震うほどの奇跡に感謝の言葉もございません。
本当にありがとうございました。
言葉は曖昧で、わたしの語れる言の葉はとても数が少なくて、もどかしいばかりです。
一言で言うなら、「大好きっ!」 此花咲耶
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