一片(ひとひら)の雪が舞う夏に 8
家の中に居るのは、日本髪のまだ若い女だった。
背筋をぴんと伸ばした婦人の顔は、どこか雪男に似ている気がする。
「よろしいですか?家名に恥じぬ働きをするのです。わかりましたね。」
「はい、母上。必ず武功をあげて、お家再興の悲願、こんどこそ叶えてご覽に入れます。」
そんな会話でわかるのは、どうやらこの家は武家で、家の主人が何やらやらかして落ちぶれて処罰が下されているらしいということだ。
母親と長の別れをしているのは、しまってあった一張羅の下帯を身に付け、これから戦に赴くちっこい桃太郎みたいな、りりしい雪男の若武者姿だった。
…って、語彙(ごい)無さすぎだろ、おれ。
竹矢来(竹の格子)で家を囲まれているのは、当時の処罰の方法で、世間との関わりを許されないことらしい。どうやら、戦争になって一人でも手駒が欲しいえらいさんが、武功をあげれば許してやってもいいけど~…と、雪男の家族の前にぶらりと人参をぶら下げたのだろう。当然、家のものは目の色を変えて食い付いた。武家の対面は、可愛い息子の命よりも重いものらしい。
「よいですね。…敵の首級をあげるまで、家の敷居はまたがぬ覚悟で参るのです。」
「はい。必ずや母上のご期待に添うて御覽にいれまする。」
雪男、名前なんて言うんだ?母ちゃんの声が小さくて、聞き逃しちまった。
先が気になるので、後で聞くことにする。
そんなこんなで、たった一人の母親と別れを交わした容姿端麗の桃太郎…もとい若武者は、白い額に鋼の付いた鉢巻きを締め、鎖帷子(くさりかたびら)を着こんで勇ましく出陣した。
その姿はまだほんの小さな子供で、痛々しいような姿だった。流れてくる雪男の感情で、これが母ちゃんとも今生の別れになったと知る。
自分の身長と変わらぬような英式ミニエー銃を手に、謹慎以来久しぶりの友人たちとまとめ役の年長の少年と再会した。どうやら、雪男は年かさのこいつが好きらしい。薄紅に染めた頬で、くいいるように見つめる視線が、そいつの横顔から離れない。
めっちゃ、分かりやすいんですけど~…。聞いたことあるぞ。これが、衆道というやつなんだろうか…?
「閉門が解けたのか?」
「いいえ。わたしの手柄次第だと、城代様のお沙汰が下ったのです。やっと、皆さまと同道できます。」
「そうか。しっかりやれよ。敵陣が驚くような獅子奮迅の働きを見せてやろうな。」
「はい、源七郎さま。身を賭してお国の為に散る覚悟です。」
「無駄死にはするなよ。共に生きて笑おうぞ。」
「はい。」
あの~…何か、すごい悲劇の匂いがぷんぷんするんですけど…。このひどい地吹雪の中、薄い着物にわらで出来たカッパみたいなのを着ただけで、彼らはたぶん二度と帰れぬ戦場へ向かった。
何とかこのいじらしい、ちびの雪男を引き止めたくて、俺は手を伸ばしたが映像に届くはずもなく、年長の少年を隊長にして、行儀よく隊列を組んで進軍して行く雪男の背中を見送るしかなかった。
「なぁ…、辛いなら無理して見せなくていいんだぜ。興味はあるけどさ、人(?)の人生なんだし。」
「いや…。たぶん我はいつか誰かに、昔こんなこともあったと、事の仔細を聞いてもらいたかったのかもしれない。この時の我は、一人で抱えるには大きすぎる理不尽に疲れ果てていた。共に出陣した多くのものが、倒れ帰らぬ人となったんだ。」
理不尽…道理に合わないってことだよなぁ。
がんばれ、ちびの桃太郎!と、戦地に向かう雪男にエールを送ってやりたくなった。
ヾ(。`Д´。)ノ 三崎:「こら~~!!此花~!どこがリーマンの現代ものだ!思いっきり時代物じゃないか~!」
Σ( ̄口 ̄*) 此花:「い…いつの間にか、こんなことに…」
(*⌒▽⌒*)♪柳冬吾:「まあまあ、三崎。これから、これから。」
( *`ω´) 三崎:「む~~、先輩が言うなら我慢する~」
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
背筋をぴんと伸ばした婦人の顔は、どこか雪男に似ている気がする。
「よろしいですか?家名に恥じぬ働きをするのです。わかりましたね。」
「はい、母上。必ず武功をあげて、お家再興の悲願、こんどこそ叶えてご覽に入れます。」
そんな会話でわかるのは、どうやらこの家は武家で、家の主人が何やらやらかして落ちぶれて処罰が下されているらしいということだ。
母親と長の別れをしているのは、しまってあった一張羅の下帯を身に付け、これから戦に赴くちっこい桃太郎みたいな、りりしい雪男の若武者姿だった。
…って、語彙(ごい)無さすぎだろ、おれ。
竹矢来(竹の格子)で家を囲まれているのは、当時の処罰の方法で、世間との関わりを許されないことらしい。どうやら、戦争になって一人でも手駒が欲しいえらいさんが、武功をあげれば許してやってもいいけど~…と、雪男の家族の前にぶらりと人参をぶら下げたのだろう。当然、家のものは目の色を変えて食い付いた。武家の対面は、可愛い息子の命よりも重いものらしい。
「よいですね。…敵の首級をあげるまで、家の敷居はまたがぬ覚悟で参るのです。」
「はい。必ずや母上のご期待に添うて御覽にいれまする。」
雪男、名前なんて言うんだ?母ちゃんの声が小さくて、聞き逃しちまった。
先が気になるので、後で聞くことにする。
そんなこんなで、たった一人の母親と別れを交わした容姿端麗の桃太郎…もとい若武者は、白い額に鋼の付いた鉢巻きを締め、鎖帷子(くさりかたびら)を着こんで勇ましく出陣した。
その姿はまだほんの小さな子供で、痛々しいような姿だった。流れてくる雪男の感情で、これが母ちゃんとも今生の別れになったと知る。
自分の身長と変わらぬような英式ミニエー銃を手に、謹慎以来久しぶりの友人たちとまとめ役の年長の少年と再会した。どうやら、雪男は年かさのこいつが好きらしい。薄紅に染めた頬で、くいいるように見つめる視線が、そいつの横顔から離れない。
めっちゃ、分かりやすいんですけど~…。聞いたことあるぞ。これが、衆道というやつなんだろうか…?
「閉門が解けたのか?」
「いいえ。わたしの手柄次第だと、城代様のお沙汰が下ったのです。やっと、皆さまと同道できます。」
「そうか。しっかりやれよ。敵陣が驚くような獅子奮迅の働きを見せてやろうな。」
「はい、源七郎さま。身を賭してお国の為に散る覚悟です。」
「無駄死にはするなよ。共に生きて笑おうぞ。」
「はい。」
あの~…何か、すごい悲劇の匂いがぷんぷんするんですけど…。このひどい地吹雪の中、薄い着物にわらで出来たカッパみたいなのを着ただけで、彼らはたぶん二度と帰れぬ戦場へ向かった。
何とかこのいじらしい、ちびの雪男を引き止めたくて、俺は手を伸ばしたが映像に届くはずもなく、年長の少年を隊長にして、行儀よく隊列を組んで進軍して行く雪男の背中を見送るしかなかった。
「なぁ…、辛いなら無理して見せなくていいんだぜ。興味はあるけどさ、人(?)の人生なんだし。」
「いや…。たぶん我はいつか誰かに、昔こんなこともあったと、事の仔細を聞いてもらいたかったのかもしれない。この時の我は、一人で抱えるには大きすぎる理不尽に疲れ果てていた。共に出陣した多くのものが、倒れ帰らぬ人となったんだ。」
理不尽…道理に合わないってことだよなぁ。
がんばれ、ちびの桃太郎!と、戦地に向かう雪男にエールを送ってやりたくなった。
ヾ(。`Д´。)ノ 三崎:「こら~~!!此花~!どこがリーマンの現代ものだ!思いっきり時代物じゃないか~!」
Σ( ̄口 ̄*) 此花:「い…いつの間にか、こんなことに…」
(*⌒▽⌒*)♪柳冬吾:「まあまあ、三崎。これから、これから。」
( *`ω´) 三崎:「む~~、先輩が言うなら我慢する~」
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