夢見るアンドロイドAU 6
休憩時、やっと携帯を開きあっくんに電話を掛けようとした音羽が、着信に気が付き咆哮していた。
「ド、ドクター……?」
いつも穏やかにアルカイックスマイルを浮かべた東洋人のドクターが、黒髪の男を診察して以来ぶっ壊れていると、看護師たちが噂をしている。勿論、音羽が仕事に私情を挟みミスを犯すことなどはなかったが、元々表情の乏しい音羽の苛立ちを感じて、周囲はどこかピリピリとしていた。無表情の能面のような顔に立ち上る怒気……みたいなものは、外国人には今一つ理解できないようだ。
ルシガの送って来たものは、ご丁寧に動画だった。
音声がないのが余計に腹が立つ。音羽が想像するように、ルシガは「わざと」そうしたのだ。
大きな薔薇の花束を抱えた嬉しげなあっくんを薔薇ごと抱えた男は、当たり前のように深いキスをしていた。あっくんの着たかぶりのワンピースのような紫の部屋着の上からさわさわとあちこち触っていた。
二本目の動画が届き、内容を確認した音羽はついに切れた。
「ぅおーーーーーっっ!!午後は休診だーーーっ!!」
男はあっくんのニットの部屋着をたくし上げ、Tバックからこぼれた丸い尻を撫でまわしていた。まるで形を確かめるように、下から持ち上げるようにし、指が食い込むのが見えた。
そして、あっくんの肩越しにカメラ(音羽)に向かってそいつは、にやりと勝ち誇ったように笑って見せた。
静かな怒りをまとった音羽は、白衣を脱ぎ捨てるとオスカルとアンドレの家に向かった。
革命に向かうシトワイヤンのように。
*****
「おぉ~、ひよこの飼い主が来たぞ。」
「ルシガ、お客様?」
「ああ。厚一郎。楽しい修羅場になりそうだ。見ろよ、やっと侍のご登場だ。」
「ルシガ。大事な厚志をいじめたら許さないよ。」
「俺が苛めたいのは、厚志の気持ちをわからない音羽の方だ。ひよこじゃない。知っているだろう?厚一郎が愛する者は、おれもみんな愛しているよ。」
血相を変えて車から飛び降りる音羽の姿を眺めて、ルシガは愉しそうに笑っていた。オスカ…厚一郎との蜜月を邪魔されまくりなのだから、このくらいの楽しみはあっていいと思って居る。
恋敵の登場も知らず、ソファに掛けたマルセル・ガシアンは、膝の上にあっくんを乗せあちこち匂いを嗅いだり髪をかき混ぜたりと、やりたい放題だった。
モデルの仕事はフィッティングの時など、全身をデザイナーに預けることも多い。まして、マルセル・ガシアンに見いだされ成功したあっくんにとって彼は絶対的に信用できる一人だった。むしろありったけの信頼を寄せているだけに、周囲のだれもが気付くあっくんへの劣情の視線すら慈愛の眼差しと受け取っている。
薄いニットの上から、あっくんの前部の容をなぞるようにしていたマルセル・ガシアンのいたずらな指が止まった。
「うゎお……っ。」
扉の向こうには憤怒の表情をあからさまに浮かべた、東洋の仏像、不動明王……音羽がいた。低い声が響く。
「あっくんから手を放せ!変態デザイナー!」
「手を放せ…だと?」
「……え?……そっち……?」
怒る場所が違うんじゃないかと、そこにいた誰もが思ったがマルセル・ガシアンは、離れろと言われて腹を立てていた。どうやら変態と呼ばれるのは、何でもないらしい。
あっくんはというと、思いがけず音羽に逢えて、じわりとうれし涙を浮かべていた。
「音羽!……会いに来てくれたの?……。もう三日も逢っていなかったんだよ。あっくんは寂しくて死んでしまうかと思った。」
「こいつと、いちゃこらしてたのに寂しかったのか……?」
音羽の声は抑揚が無く、表情は硬かった。
「こいつって、マルセルの事?彼は、前にも言ったと思うけど、あっくんの専属デザイナーマルセル・ガシアンです。こちらは、秋月音羽。肝臓の手術をしてくれた先……。」
マルセルが手を上げ、あっくんの言葉を制した。
「わたしは、わたしのヴィーナスに会いに来ただけだ。ここは、お前の家でもないはずだが、訪問するのにいちいちお前の許可がいるのか?」
「音羽……どうしたの?仕事に復帰する話をしていたんだよ。それと今後の事とかね、お見舞いもいただいたし、ほらあの花束をいただいたの。……彼に、音羽からも挨拶してください。」
「あっくんの仕事と、俺の仕事は無関係だ。」
ああ、しまった。こんなことを言うつもりじゃないのにと、内なる音羽が叫ぶ。ほら、無関係なんて言ってしまったから、あっくんがすごく悲しそうな顔をしているじゃないか。
「仕事の話をするのに、あっくんは裾をたくし上げてペニスを弄らせるのか?そういう世界におれは縁がないから、理解できない。天使のような顔になったけど、あっくんはずいぶん淫乱になったんだな。」
これ以上、何も言うな!狭量なやつめ!……と、音羽の中の音羽が叫ぶ。
自分で自分を張り倒したいと思いながら、感情は暴走していた。
(´・ω・`) あっくん:「音羽……?どういうこと……?」
ヾ(。`Д´。)ノ音羽:「くそ~~、ぼけ~~、かす~~!」
ルシガ:「まあ、大人げない事。」(*´・ω・)(・ω・`*) マルセル:「ネ~、どういうつもりかしら」
( *`ω´) 音羽:「……ふんっ!」
すっかりおとなげない音羽です。
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