夢見るアンドロイドＡＵ １
生体間肝移植手術が成功に終わり、ドナーのあっくんは無事に音羽の元に帰ってきた。
レシピエントの兄、厚一郎も予断は許さないが、恋人ルシガの献身的な看病を受け、日々少しずつ快方に向かっている。一番厄介な、免疫性の合併症の発症も、今は抑えられていた。
退院後、あっくんは病院の近くに住まいを移し、音羽と一緒に住んでいた。
今はまだ、自宅安静が必要だったので、音羽は恋人兼主治医として一緒に居ることにした。
これまで浮いた話の無かった音羽は、アンドロイドＡＵと暮らしたとき以来の、誰かとの同居を楽しんでいた。日中、音羽が仕事に出かけるときはハウスキーパーが仕事をする。
それは平和な暮らしを維持するために音羽が言い出したことだった。何しろ、あっくんは壊滅的に家事ができないし（最愛アンドロイドＡＵ参照）音羽は大学病院での仕事が山ほどあった。
元々、興味が仕事にしかなかったのもあって、音羽は世間一般の事には極めて疎い。……とはいうものの、今の音羽はファッション雑誌を眺めながら、ため息を吐いていた。
手にした華やかなゴシップを扱う週刊誌の表紙を、あっくんが飾っている。人気モデルのＡＴＵＳＨＩが、モデル生命を投げ打って重い病気の兄の為にドナーになったことは、テレビでも大きな話題になっていた。
どうやらモデルのあっくんは、音羽には想像も付かないほど有名人のようだ。あっくんが引退するかどうか、今後の進退は賭けの対象にすらなっているらしい。
「あっくん……これにも載ってる。すごいな……。ＡＴＵＳＨＩは今後どうするのか……だって。」
「ん～？なぁに？」
畑が違うと言えばそれまでなのだろうが、音羽の感覚は多少ずれている。
勿論、傍にいるあっくんを綺麗だと思うが、いつまでたってもほわほわ頭のひよこのあっくんのイメージをどこかで引きずっている。音羽はスーパーモデルのあっくんを、対等ではなくいつまでも小さな子供のように扱っていた。
トップモデルのＡＴＵＳＨＩこと上田厚志……あっくんが、男性モデルでありながらウエディングドレスも着こなす稀なユニセクスモデルだと、音羽は知っても今一つ理解できないでいる。
ちょっと検索すると、動画もバンバン出てきてあっくんは女性モデルとして妖艶な流し目を寄越し、男性モデルとして薄い筋肉の乗った胸をはだけて、豊満な胸を揺らす女性の肩を抱いていた。その変貌にも驚いてしまう。いそいそと動画を保存する音羽を見て、あっくんは嬉しそうだった。
「ねぇ、音羽。落としたそれ、どうするの？」
「病院に持って行って、休憩時間に見るんだよ。本当は自慢したいけど、こっそりとね。これなんか男にも女にも見えるね。すごく魅力的だ、あっくん。」
「そう……？見た目だけだよ。中身は音羽を大好きな、小さなひよこの「あっくん」のままだよ。音羽、大好き。マーキングしちゃおう。」
あっくんは、すりすりと頬を寄せた。
見上げる可愛いあっくんに向かって、音羽もそっと優しく触れた。ただ、その後音羽は、何気なく不用意に言ってはならない言葉を口にし、あっくんの地雷を踏んだ。
「あっくん。」
「ん？なぁに？」
「あっくんは、どこかで整形でもしたのか？」
あっくんは、見る見るうちに蒼白になった。
「……え……？音羽……。今、なんて言ったの？」
「あ……。いや、余りに変わってしまったなと思って……ごめん。」
日本を離れて以来、音羽は知らないが、あのみっともなかったひよこ頭が、簡単にデザイナーが奪い合うようなモデルになれるわけがない。
音羽は、あっくんの血のにじむような努力を、何もわかっていなかった。
その日、あっくんは、身の回りの物だけをまとめ、音羽の前から姿を消した。
「お～、まい、がっ！」
どこがアンドロイド……？
（〃▽〃）ち、ちっさいことは気にするな！
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
レシピエントの兄、厚一郎も予断は許さないが、恋人ルシガの献身的な看病を受け、日々少しずつ快方に向かっている。一番厄介な、免疫性の合併症の発症も、今は抑えられていた。
退院後、あっくんは病院の近くに住まいを移し、音羽と一緒に住んでいた。
今はまだ、自宅安静が必要だったので、音羽は恋人兼主治医として一緒に居ることにした。
これまで浮いた話の無かった音羽は、アンドロイドＡＵと暮らしたとき以来の、誰かとの同居を楽しんでいた。日中、音羽が仕事に出かけるときはハウスキーパーが仕事をする。
それは平和な暮らしを維持するために音羽が言い出したことだった。何しろ、あっくんは壊滅的に家事ができないし（最愛アンドロイドＡＵ参照）音羽は大学病院での仕事が山ほどあった。
元々、興味が仕事にしかなかったのもあって、音羽は世間一般の事には極めて疎い。……とはいうものの、今の音羽はファッション雑誌を眺めながら、ため息を吐いていた。
手にした華やかなゴシップを扱う週刊誌の表紙を、あっくんが飾っている。人気モデルのＡＴＵＳＨＩが、モデル生命を投げ打って重い病気の兄の為にドナーになったことは、テレビでも大きな話題になっていた。
どうやらモデルのあっくんは、音羽には想像も付かないほど有名人のようだ。あっくんが引退するかどうか、今後の進退は賭けの対象にすらなっているらしい。
「あっくん……これにも載ってる。すごいな……。ＡＴＵＳＨＩは今後どうするのか……だって。」
「ん～？なぁに？」
畑が違うと言えばそれまでなのだろうが、音羽の感覚は多少ずれている。
勿論、傍にいるあっくんを綺麗だと思うが、いつまでたってもほわほわ頭のひよこのあっくんのイメージをどこかで引きずっている。音羽はスーパーモデルのあっくんを、対等ではなくいつまでも小さな子供のように扱っていた。
トップモデルのＡＴＵＳＨＩこと上田厚志……あっくんが、男性モデルでありながらウエディングドレスも着こなす稀なユニセクスモデルだと、音羽は知っても今一つ理解できないでいる。
ちょっと検索すると、動画もバンバン出てきてあっくんは女性モデルとして妖艶な流し目を寄越し、男性モデルとして薄い筋肉の乗った胸をはだけて、豊満な胸を揺らす女性の肩を抱いていた。その変貌にも驚いてしまう。いそいそと動画を保存する音羽を見て、あっくんは嬉しそうだった。
「ねぇ、音羽。落としたそれ、どうするの？」
「病院に持って行って、休憩時間に見るんだよ。本当は自慢したいけど、こっそりとね。これなんか男にも女にも見えるね。すごく魅力的だ、あっくん。」
「そう……？見た目だけだよ。中身は音羽を大好きな、小さなひよこの「あっくん」のままだよ。音羽、大好き。マーキングしちゃおう。」
あっくんは、すりすりと頬を寄せた。
見上げる可愛いあっくんに向かって、音羽もそっと優しく触れた。ただ、その後音羽は、何気なく不用意に言ってはならない言葉を口にし、あっくんの地雷を踏んだ。
「あっくん。」
「ん？なぁに？」
「あっくんは、どこかで整形でもしたのか？」
あっくんは、見る見るうちに蒼白になった。
「……え……？音羽……。今、なんて言ったの？」
「あ……。いや、余りに変わってしまったなと思って……ごめん。」
日本を離れて以来、音羽は知らないが、あのみっともなかったひよこ頭が、簡単にデザイナーが奪い合うようなモデルになれるわけがない。
音羽は、あっくんの血のにじむような努力を、何もわかっていなかった。
その日、あっくんは、身の回りの物だけをまとめ、音羽の前から姿を消した。
「お～、まい、がっ！」
どこがアンドロイド……？
（〃▽〃）ち、ちっさいことは気にするな！
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