夢見るアンドロイドＡＵ １３
「やっと、へそまがりが本心を言ったな。音羽。実はこれを、ひよこから預かっていたんだ。もし、音羽が自分の事を聞いたら、これを渡してほしいと言っていた。」
「……なんだ？チケット？」
そこに置かれたのは、パリ行きの航空チケットとマルセル・ガシアンのパリで行われるショーの特別席の招待状だった。
いつ出そうかと思って居たが、良かった…と、二人は笑う。音羽の本心を聞けなかったら、渡さずにおこうと思って居たと、兄の厚一郎は美しい顔で柔らかく笑った。
音羽は肯き、無理を重ね時間を作ると、やがて機上の人になった。
「あの堅物が、本気でひよこを失いたくないと口にするとは思わなかったな。厚一郎。ひよこはあいつと一緒に居て、幸せになれると思うか？」
「厚志が幸せになるというよりも……少なくとも、音羽は今よりは幸せになるだろうね。案外、似合いの二人になるんじゃないかな。ルシガ……きみとぼくのように……。」
薄いカーテンの向こうの影が重なり……やがて、一つになった……
……けど、身体はつなげちゃだめだぞ。
＊＊＊＊＊
ロワシー＝シャルル・ド・ゴール国際空港の第２ターミナルから、シェラトンホテルは近い。音羽は時間に追われながら、荷物を放り込むとパリの中心にあるマルセル・ガシアンのショー会場に向けて急いだ。
もう後戻りはできない。覚悟を決めた音羽は深呼吸をし、ぱんと強く自分の顔を張った。
「せいっ！」
周囲が驚いて足を止め、音羽を眺めた。
気合を入れなければ、マルセル・ガシアンの腕からあっくんを取り戻す勇気が萎えてしまいそうだった。
とにかく二人に会わなければ何も始まらない。ファッション界など、音羽にとっては未知の世界だが、それでもこれまで音羽を追い続けてきてくれたあっくんのことを思って気持ちを奮い立たせた。
あっくんに対して、自分は本当に傲慢だったと思う。独りよがりで思い込みが激しいのは自覚していたし、いつも、あっくんを泣かせてばかりだったなと思う。
「あなたなんて知らないって言われたら、どうしよう……。」
「もう、嫌いだっていうかもしれないな～……。」
考えればどんどん、気持ちが悪い方に流れてゆく。
ショーの会場に着いてみれば、すでに始まっているらしく入り口の教会の薔薇窓を模した豪奢なステンドグラスが目を引いた。
「マルセル・ガシアン」オートクチュールと書かれたポスターには、美貌のヴィーナスが微笑んでいた。
「あっくん……ここで間違いない。もうすぐ会える。」
「あ。失礼ですが、お客様。招待状はお持ちでしょうか？」
黒服が走ってきて、奥へ入ろうとする音羽を見咎めた。
音羽はオートクチュールとプレタポルテの意味も分かっていない。どれもただのファッションイベントだと思って居る。
恐ろしくセレブな連中が、その場で次々と一点物の洋服を見定めるイベントだと知っていたなら、もう少しきちんとしていたのだろうが、さすがに旅行でくたびれたスーツは入り口でドレスコードに引っかかったらしい。
入り口で呼び止められ、数分の後、英語の分かる誰かがやってきて音羽を別室に案内した。
「大変申し訳ございません。一部のショーの幕間が４分しかございません。お客様のスーツですと御招待客の中で悪目立ちしますので、急ぎこちらとお召し換えになってください。お帰りの際には、ご返却させていただきますので。」
「つまり、これを着ないと中に入れないという事だな。」
「そういう事になります。オートクチュールにお越しになるのは、世界中のセレブリティと各界の著名人ばかりです。それから世界中のマスメディア……」
「良いから！それを着替える場所に案内しろ。御託を聞きに来たわけじゃない。」
肩をすくめた黒服が、すぐ傍の小さな部屋に音羽を案内した。
(｀・ω・´)音羽：「あっくん、来たよ！」
(〃ー〃) あっくん：「早く、逢いたいな～～～。」
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
「……なんだ？チケット？」
そこに置かれたのは、パリ行きの航空チケットとマルセル・ガシアンのパリで行われるショーの特別席の招待状だった。
いつ出そうかと思って居たが、良かった…と、二人は笑う。音羽の本心を聞けなかったら、渡さずにおこうと思って居たと、兄の厚一郎は美しい顔で柔らかく笑った。
音羽は肯き、無理を重ね時間を作ると、やがて機上の人になった。
「あの堅物が、本気でひよこを失いたくないと口にするとは思わなかったな。厚一郎。ひよこはあいつと一緒に居て、幸せになれると思うか？」
「厚志が幸せになるというよりも……少なくとも、音羽は今よりは幸せになるだろうね。案外、似合いの二人になるんじゃないかな。ルシガ……きみとぼくのように……。」
薄いカーテンの向こうの影が重なり……やがて、一つになった……
……けど、身体はつなげちゃだめだぞ。
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ロワシー＝シャルル・ド・ゴール国際空港の第２ターミナルから、シェラトンホテルは近い。音羽は時間に追われながら、荷物を放り込むとパリの中心にあるマルセル・ガシアンのショー会場に向けて急いだ。
もう後戻りはできない。覚悟を決めた音羽は深呼吸をし、ぱんと強く自分の顔を張った。
「せいっ！」
周囲が驚いて足を止め、音羽を眺めた。
気合を入れなければ、マルセル・ガシアンの腕からあっくんを取り戻す勇気が萎えてしまいそうだった。
とにかく二人に会わなければ何も始まらない。ファッション界など、音羽にとっては未知の世界だが、それでもこれまで音羽を追い続けてきてくれたあっくんのことを思って気持ちを奮い立たせた。
あっくんに対して、自分は本当に傲慢だったと思う。独りよがりで思い込みが激しいのは自覚していたし、いつも、あっくんを泣かせてばかりだったなと思う。
「あなたなんて知らないって言われたら、どうしよう……。」
「もう、嫌いだっていうかもしれないな～……。」
考えればどんどん、気持ちが悪い方に流れてゆく。
ショーの会場に着いてみれば、すでに始まっているらしく入り口の教会の薔薇窓を模した豪奢なステンドグラスが目を引いた。
「マルセル・ガシアン」オートクチュールと書かれたポスターには、美貌のヴィーナスが微笑んでいた。
「あっくん……ここで間違いない。もうすぐ会える。」
「あ。失礼ですが、お客様。招待状はお持ちでしょうか？」
黒服が走ってきて、奥へ入ろうとする音羽を見咎めた。
音羽はオートクチュールとプレタポルテの意味も分かっていない。どれもただのファッションイベントだと思って居る。
恐ろしくセレブな連中が、その場で次々と一点物の洋服を見定めるイベントだと知っていたなら、もう少しきちんとしていたのだろうが、さすがに旅行でくたびれたスーツは入り口でドレスコードに引っかかったらしい。
入り口で呼び止められ、数分の後、英語の分かる誰かがやってきて音羽を別室に案内した。
「大変申し訳ございません。一部のショーの幕間が４分しかございません。お客様のスーツですと御招待客の中で悪目立ちしますので、急ぎこちらとお召し換えになってください。お帰りの際には、ご返却させていただきますので。」
「つまり、これを着ないと中に入れないという事だな。」
「そういう事になります。オートクチュールにお越しになるのは、世界中のセレブリティと各界の著名人ばかりです。それから世界中のマスメディア……」
「良いから！それを着替える場所に案内しろ。御託を聞きに来たわけじゃない。」
肩をすくめた黒服が、すぐ傍の小さな部屋に音羽を案内した。
(｀・ω・´)音羽：「あっくん、来たよ！」
(〃ー〃) あっくん：「早く、逢いたいな～～～。」
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