夢見るアンドロイドAU 12
その後、厚一郎は高い熱を出し、大学病院の寝台に逆戻りしていた。
音羽とあっくんは、別れて以来互いに連絡を取らず、そのままになっていた。
苦虫をかみつぶしたような表情で、冷ややかに主治医の顔をした音羽が患者の脈を取る。今日、やっと退院することに決まった。
「……何をしたかは思いっきり想像がついていたけど、病院のベッド数には限りがあるし、不摂生の後始末をこんな風に持ち込まないで欲しいものだね。セクスはまだ禁止だと、きっぱり言ったはずだし、もし今度こんな状態で病院に来ても、入院はさせないから。」
視線を寄越すことなく、患者の診察をしながら音羽の言葉は氷のように冷たかった。
「傷口に塩を塗るような言い方は止めてくれ。心から反省してるんだから。これからは、戒律の厳しい聖職者のように過ごすと約束するよ。」
「反省するなら、もっと早くにすべきだったね。ただでさえ体力が落ちているって言うのに。……で……あっくんは、どうしてる?」
ぶっきらぼうな音羽の物言いに、美貌の厚一郎が思わず破顔した。気になって仕方がないのを我慢してさりげなく聞こうとしているのが笑える。傍にいたルシガが、正直に答えた。
「あれから毎日、音羽に捨てられる、自分は淫乱で不貞だからもうお終いだって、ずっとぴぃぴぃ泣いていたよ。可哀そうにね。今頃、ひよこの瞳は半分溶けかかっているんじゃないかな。今は、仕事が忙しくてひよこはフランスなんだ。もうすぐマルセル・ガシアンのショーがある。」
「フランスなのか、あっくん……。マルセル・ガシアンと一緒なのか。」
「マルセル・ガシアンが気になるのか?あいつは、厚志の単なるビジネスパートナーだぞ。昔から知っているが、デザイナーとモデルとしての付き合いだ。ひよこがそういったはずだが。二人とも、今頃パリでショーの準備に追われているよ。パリで行われるショーには厚志も出るから、体調さえよかったら厚一郎と行こうと話をしていたんだ。」
「音羽、ひよこはいつだって、君に正直だったはずだ。手術前に綺麗な身体を見てもらいたいと、日本に行くほど特別な想いを寄せた相手は、真実、君だけしかいない。厚志は君にそう言わなかったか?」
「言わない……いや、言ったのかもしれないが、いろいろな出来事が多すぎて聞き逃したのかもしれないな……。何しろ、あっくんと居るととんでもないことばかり起きて、毎日が賑やかなイベントのようだったんだ。」
『音羽……行かないで。愛してるって言って。』
……あっくんと、最後に交わした言葉が音羽の脳裏に木霊した。
そうだ、あっくんは、いつだってひたむきに音羽だけを見つめていた。勝手に誤解して傷付けたのは、自分の方だ。
東京の家に、アンドロイドAUが送られてきてからどれだけの時間が経つのだろう。音羽のぎこちない愛撫にアンドロイドAUは震え白い精を零した。音羽もありえないぱんつを穿いた可愛いアンドロイド……あっくんに会いたかった。
でも……と、音羽の眉間に、深い縦じわが刻まれた。
「住む世界が違いすぎる……と思う。俺は、あっくんのことを何も知らなかったし、知ろうともしなかった。八角眼鏡の知ってるあっくんのスリーサイズさえ、俺は知らない。あっくんが有名人だと知って、驚いた位だ。互いにリンクする部分が少なくて、うまくいくはずがない。華やかな世界にいるあっくんには、おれはきっとひどく退屈な人間だと思うから……。」
「先生……。腕のいい医者のくせに、あんたは思い切り卑屈なんだな。むしろ俺は、マルセル・ガシアンの知らないひよこのことを、先生は知っていると思っていたよ。そういう臆病さは、決して美徳じゃないと思うぜ。一度くらい、自分で欲しいものを欲しいと言ってみろよ。名声を失うのが怖いのか?刷り込み済みのひよこは、たとえ相手がぬいぐるみでも一度信じた奴を慕うんだろう?日本では、生物の授業で習わなかったか?」
音羽は言葉をなくし、厚一郎とルシガを見つめていた。海外留学もしたし、外国人の友人たちとも懇意にしている。それなのに、今や夢さえ英語で見る音羽は、いつまでたってもシャイで奥手な恋愛下手の日本人のままだった。
何しろ音羽は、厚一郎が日本にいた頃、その美貌に怖気て一言も口を聞けなかった位シャイだった。いじめられっこのほわほわ頭のあっくんを励ましながら、目の端っこでゴージャスな恋人たちを眺めながら挨拶も交わせなかった臆病者だ。
「……あっくんに、会いたい。……あっくんを、誰にも渡したくない。」
拳を震わせて振り絞るように告げた音羽の言葉に、恋人たちは思わず抱きあった。
( *`ω´) ルシガ:「音羽って面倒くさい奴だな。日本人はみんなこんなやつばかりなのか?厚一郎。」
(・ω・`*) 厚一郎:「そんなはずないと思うんだけどな。みんな意外に積極的だったし、それなりにテクだって……あわわ……。」
Σ( ̄口 ̄*) ルシガ:「厚一郎……?」
(〃▽〃)厚一郎:「ち、ちっさいことは、気にするな……?」
( *`ω´) ルシガ:「むぅ~~~」
ハピエンまっしぐらの、雰囲気になってきました。(*⌒▽⌒*)♪
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音羽とあっくんは、別れて以来互いに連絡を取らず、そのままになっていた。
苦虫をかみつぶしたような表情で、冷ややかに主治医の顔をした音羽が患者の脈を取る。今日、やっと退院することに決まった。
「……何をしたかは思いっきり想像がついていたけど、病院のベッド数には限りがあるし、不摂生の後始末をこんな風に持ち込まないで欲しいものだね。セクスはまだ禁止だと、きっぱり言ったはずだし、もし今度こんな状態で病院に来ても、入院はさせないから。」
視線を寄越すことなく、患者の診察をしながら音羽の言葉は氷のように冷たかった。
「傷口に塩を塗るような言い方は止めてくれ。心から反省してるんだから。これからは、戒律の厳しい聖職者のように過ごすと約束するよ。」
「反省するなら、もっと早くにすべきだったね。ただでさえ体力が落ちているって言うのに。……で……あっくんは、どうしてる?」
ぶっきらぼうな音羽の物言いに、美貌の厚一郎が思わず破顔した。気になって仕方がないのを我慢してさりげなく聞こうとしているのが笑える。傍にいたルシガが、正直に答えた。
「あれから毎日、音羽に捨てられる、自分は淫乱で不貞だからもうお終いだって、ずっとぴぃぴぃ泣いていたよ。可哀そうにね。今頃、ひよこの瞳は半分溶けかかっているんじゃないかな。今は、仕事が忙しくてひよこはフランスなんだ。もうすぐマルセル・ガシアンのショーがある。」
「フランスなのか、あっくん……。マルセル・ガシアンと一緒なのか。」
「マルセル・ガシアンが気になるのか?あいつは、厚志の単なるビジネスパートナーだぞ。昔から知っているが、デザイナーとモデルとしての付き合いだ。ひよこがそういったはずだが。二人とも、今頃パリでショーの準備に追われているよ。パリで行われるショーには厚志も出るから、体調さえよかったら厚一郎と行こうと話をしていたんだ。」
「音羽、ひよこはいつだって、君に正直だったはずだ。手術前に綺麗な身体を見てもらいたいと、日本に行くほど特別な想いを寄せた相手は、真実、君だけしかいない。厚志は君にそう言わなかったか?」
「言わない……いや、言ったのかもしれないが、いろいろな出来事が多すぎて聞き逃したのかもしれないな……。何しろ、あっくんと居るととんでもないことばかり起きて、毎日が賑やかなイベントのようだったんだ。」
『音羽……行かないで。愛してるって言って。』
……あっくんと、最後に交わした言葉が音羽の脳裏に木霊した。
そうだ、あっくんは、いつだってひたむきに音羽だけを見つめていた。勝手に誤解して傷付けたのは、自分の方だ。
東京の家に、アンドロイドAUが送られてきてからどれだけの時間が経つのだろう。音羽のぎこちない愛撫にアンドロイドAUは震え白い精を零した。音羽もありえないぱんつを穿いた可愛いアンドロイド……あっくんに会いたかった。
でも……と、音羽の眉間に、深い縦じわが刻まれた。
「住む世界が違いすぎる……と思う。俺は、あっくんのことを何も知らなかったし、知ろうともしなかった。八角眼鏡の知ってるあっくんのスリーサイズさえ、俺は知らない。あっくんが有名人だと知って、驚いた位だ。互いにリンクする部分が少なくて、うまくいくはずがない。華やかな世界にいるあっくんには、おれはきっとひどく退屈な人間だと思うから……。」
「先生……。腕のいい医者のくせに、あんたは思い切り卑屈なんだな。むしろ俺は、マルセル・ガシアンの知らないひよこのことを、先生は知っていると思っていたよ。そういう臆病さは、決して美徳じゃないと思うぜ。一度くらい、自分で欲しいものを欲しいと言ってみろよ。名声を失うのが怖いのか?刷り込み済みのひよこは、たとえ相手がぬいぐるみでも一度信じた奴を慕うんだろう?日本では、生物の授業で習わなかったか?」
音羽は言葉をなくし、厚一郎とルシガを見つめていた。海外留学もしたし、外国人の友人たちとも懇意にしている。それなのに、今や夢さえ英語で見る音羽は、いつまでたってもシャイで奥手な恋愛下手の日本人のままだった。
何しろ音羽は、厚一郎が日本にいた頃、その美貌に怖気て一言も口を聞けなかった位シャイだった。いじめられっこのほわほわ頭のあっくんを励ましながら、目の端っこでゴージャスな恋人たちを眺めながら挨拶も交わせなかった臆病者だ。
「……あっくんに、会いたい。……あっくんを、誰にも渡したくない。」
拳を震わせて振り絞るように告げた音羽の言葉に、恋人たちは思わず抱きあった。
( *`ω´) ルシガ:「音羽って面倒くさい奴だな。日本人はみんなこんなやつばかりなのか?厚一郎。」
(・ω・`*) 厚一郎:「そんなはずないと思うんだけどな。みんな意外に積極的だったし、それなりにテクだって……あわわ……。」
Σ( ̄口 ̄*) ルシガ:「厚一郎……?」
(〃▽〃)厚一郎:「ち、ちっさいことは、気にするな……?」
( *`ω´) ルシガ:「むぅ~~~」
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