番外編 夢見るアンドロイドAUの日常 と「あとがき」
「……あっくん、ちょっと聞きたいんだけどね。このティーポットの紅茶ね、どこのを使った?」
「う~ん?いつものを切らしてしまっていたから、残り物のティーバックを使ったの。古かった?」
「いや……古いんじゃなくて、ちょっと用途が違うと言うか……。」
ひらひらとしたスケスケネグリに、ありえないぱんつを穿いたあっくんが、可愛らしい仕草で首をかしげる。目のやり場に困るが、音羽は大分慣れた。
ユニセクスな顔をしているが、あっくんはれっきとした男の子で、朝勃ちしてたりもする……は、置いておいて。
「……?冷蔵庫の奥のタッパーの中に……あ。これ、不思議な匂いがする。ハーブ茶だったのかな?」
「いや、たぶん味噌汁用の鰹だしパックかと……。」
「音羽……。あっくん、もしかして間違った……?」
一瞬、あっくんが身を固くして、身じろいだ。みるみるうちに、綺麗な緑の瞳が濡れて溢れそうになる。毎度の事ながら音羽は慌てた。
「あ……いや、たまには味噌スープが飲みたいな~って思っていたからさ。あっくんにテレパシーで通じたのかなと思って嬉しかったんだよ。」
「音羽~~。あっくんも、味噌スープを作ろうと思ったの。」←
「そうだろう?そうだと思ったんだよ。でも、できればカップじゃなくて、お鍋で作ろうあっくん。」
「は~い。」
あっくんと音羽の毎日は、こんな風に甘かった。
ファッションショーの様子が全米で流れて、、度胆を抜かれた音羽とあっくんのラブシーンは、一応デザイナー、マルセル・ガシアンの演出という事になっている。だが、実際は二人は恋人同士だと関係者はみんな知っている。
やっと、元のさやに納まったあっくんと音羽は、アメリカで家を借り甘い生活を楽しんでいた。
味噌を出汁で溶いただけの味噌スープと、トーストで食事を済ませ、音羽は出勤した。
音羽の為にあっくんは、毎日時間の許す限り愛妻弁当を作る気満々だったが、それは数日であえなく挫折した。
あっくんの作るお弁当は、どう見ても生ごみにしか見えなかったので、共に昼食をとる医者仲間が必死で止めたのだ。
「秋月先生。医者が、腹を壊しちゃ笑いばなしにもならん。内科医として、それは捨てた方が良いと思う。見た目より何より、既に匂いがおかしい。」
「いくら愛してたって、命がけでこの生ごみ……弁当を食うなんて勇気あるなぁ。」
「秋月先生。それは、ある意味、日本の自己犠牲であるところの武士道、ハラキリなのか?」
「まさか…。」
誰の目も笑っていないほど、あっくんのお弁当は食べ物としてありえなかった。
*****
そんな紆余曲折の後、音羽はその夜遅く帰宅した。
あっくんは、しょんぼりと電気もつけずソファで涙ぐんでいた。
「ただいま、あっくん。明日のお弁当の事なんだけど……。」
「お弁当……?」
「え、え~と……、明日は何が入るのかなぁ……と、思って。」
「……音羽……。もう、お弁当は作れません。今日、お弁当の残り物を持って、お兄ちゃんの所に差し入れに行ったら、あっくんのお弁当は、音羽に持たせちゃ駄目だよって言われたの。」
「そうか。それで、涙が出たの?」(ありがとう、厚一郎)
「うん……。ルシガがね……、こんなもの食わせて厚一郎を殺す気かって……あっくんは、喜んでもらおうと思ったのに……え~ん……怒られた~。」
「よしよし。あっくんが一生懸命なのは、おれはちゃんとわかっているよ。」
「え~ん…、やっぱり、あっくんには音羽だけだ~。」
実の所、兄の闘病以来、家族の目は常に厚一郎に向けられ、あっくんはいつも一人お留守番だった。
子どものころに、親や誰かに習うべきことを何も知らずに大きくなってしまったあっくんが、できないことが多いのも仕方がないのかもしれない。
恋をしたひよこのあっくんは、いつも音羽だけを見ている。
ほわほわ頭のみにくいあひるの子は、見違えるように美しい白い羽根を広げて音羽の胸に舞い降りた。
「愛してる、あっくん。」
「音羽……。」
繰り返される言葉に、毎日震えながら再起動する。
アンドロイドAU……上田厚志は、生涯ただ一つの恋の勝者になり花の笑みを浮かべた。
携帯のCMでアンドロイドというフレーズが流れるたび、アンドロイドか~とぼんやり眺めていました。
アンドロイドの名前がAUなのか~、そうすると、名前が先だよな~と思ってあつしうえだの名前が浮かびました。
見た目はアンドロイドのように人間離れしていて、中身はずっとただ一人を愛している男の子を書きたいと思いました。金髪碧眼のあっくんに、はちみつ文庫のねむりこひめさまがこんなイメージなのと挿絵を描いて送って下さり、此花の中であっくんのイメージが広がってゆきました。
自分がちまちまと描いていたあっくんよりも、伸びやかで可愛らしいあっくんの姿を見るたび、にまにましてしまいました。拙いお話に、素敵な挿絵を描いていただきありがとうございました。
長らくお読みいただき、ありがとうございます。
又、新しいお話しでお目にかかれたらと思います。明るい話を書いていたら、反動でしょうか、うんと暗い話を書きたくなってしまいました。
拙作「約束」の中に出てくる主人公の祖父と、青い目の主人公を夜ごと蹂躙した精神破綻する前の友人との淡い友情の話を書こうと思います。
暗い話なのですが、此花のブログ二周年(BLは一周年と半年)記念には、大好きな明治か幕末がいいかなと思っていたのでそうすることに決めました。
HPも立ち上げて、やっとご案内できる体裁になりました。
新連載前にお知らせできると思います。どうぞよろしくお願いします。(`・ω・´)
拍手もポチもありがとうございます。
感想、コメントもお待ちしております。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。 此花咲耶
- 関連記事
-
- 番外編 夢見るアンドロイドAUの日常 と「あとがき」 (2011/10/25)
- 夢見るアンドロイドAU 14 【最終話】 (2011/10/24)
- 夢見るアンドロイドAU 13 (2011/10/23)
- 夢見るアンドロイドAU 12 (2011/10/22)
- 夢見るアンドロイドAU 11 (2011/10/21)
- 夢見るアンドロイドAU 10 (2011/10/20)
- 夢見るアンドロイドAU 9 (2011/10/19)
- 夢見るアンドロイドAU 8 (2011/10/18)
- 夢見るアンドロイドAU 7 (2011/10/17)
- 夢見るアンドロイドAU 6 (2011/10/16)
- 夢見るアンドロイドAU 5 (2011/10/15)
- 夢見るアンドロイドAU 4 (2011/10/14)
- 夢見るアンドロイドAU 3 (2011/10/13)
- 夢見るアンドロイドAU 2 (2011/10/12)
- 夢見るアンドロイドAU 1 (2011/10/11)