鏡の中の眠れるヘルマプロデュートス 5
つくづく考えが甘かったと、陽太は思う。
早く事件を公にし、警察に足を運び、法に照らすべきだった。
思えば最初から全て間違いだらけだった。
やがて、ポストを開けずとも、督促状が何通も溢れるように入るようになっていた。
返済期日を知らせる葉書の束を握り締める陽太の実家は、田舎の旧家で資産も多い。だが、学生だからと言って、遊ぶ金を惜しみなく与えるような愚かな親ではなかった。
正当な理由があれば納得して、ぽんと出してくれただろうが、大学で出来た同性の恋人の為の後始末の金を貸してくれとは言えなかった。
「くっそ……!これだけ働いても、まだ足りないのかよっ。」
陽太は奥歯をぎりと噛み締めた。
金を借りるにしても、ほんの少し冷静になれば、市役所の福祉課に行くとか、学生生協で借りるとか、いくらでも無理なく金を借りる方法はあったはずだ。何より警察に相談すべきだった。
余りに痛々しくやつれた鏡弥の姿に、すっかり動転してしまったのだろうと思う。鏡弥の包帯だらけの姿に、冷静な判断力が飛び庇護欲だけが湧いた。
細い声で詫びながら泣きぬれる鏡弥と、車椅子を取り囲む黒服の連中の姿を見た途端、陽太の理性は飛び、思考は停止していた。
「許して下さい……。お願いします。退院したら……少しずつでもちゃんと返しますから……。」
「あんたの代わりに、同級生の兄ちゃんが死ぬほど頑張って働いてるよ。あんたは、ゆっくり養生しなってさ。いい友達を持って、幸せなこったなぁ。」
「陽太が……?」
鏡弥は陽太を見つめ、涙ぐんだ。
「鏡弥には、関係ない。金は事務所に送るから、帰ってくれ。迷惑だ。」
「陽太ぁ、ごめんね……。ごめんね。迷惑かけてごめんね。」
「じゃな。可愛い面を拝みに来ただけだ。」
金融会社の男たちの前で鏡弥が涙を零せば、陽太は自分の庇護が無くなれば鏡弥はどうなるんだろうと自惚(うぬぼ)れた。伸ばしてくる細い指を、強く握り締めた。
鏡弥を救えるのは、今や世界中で自分ただ一人だけだと思った。
ぎゅっと抱きしめて深いキスを贈ると、鏡弥は腕の中で身悶えて甘い息を吐いた。
「好き。陽太が、好き。陽太だけ……。」
鏡弥以外、何も見えなくなっていた。
*****
繰り返す借金は、連れて行かれたローン会社が変わる度、署名をするたびに膨れ上がってゆき、いつしか金銭感覚は麻痺して行く。陽太が渋ると、相手は必ず鏡弥の事を口にした。
「なぁ、あの可愛らしい子猫を手放しちまえよ。その方が、あんたもいい加減楽になるぜ。悪いようにはしないからさ。」
「鏡弥は渡しません。」
「全く、諦めの悪い兄ちゃんだな。」
いつか脳裏の片隅に有った大学の事も忘れ、昼も夜もバイトに明け暮れたが、所詮は焼け石に水だった。
そしてある日、陽太は追加の融資を申し込み、その場にいた店長という男に最後通牒を突きつけられた。
「上限ですわ。都築さん、これ以上の借金は、まともなところでは無理ですな。」
「ちょいと、別室で相談しましょうか。うちも、金貸しを慈善事業でやってるわけじゃないんでね。」
陽太はまるで他人事のように、聞いていた。
とうとうここまで来てしまったかと内心思っていたが、何の感慨もない。もしかすると、臓器売買を要求されたり、親のところまでも借金取りが行ったりするのかとぼんやりとした頭で考えた。正直、こんなことになると思っていなかった。
あれほど働いて金を作ったと言うのに、あの金はいったいどこへ消えたんだろう……。思考力も薄れていた。
「鏡弥……。」
朦朧としたまま、いつしか足は大学へと向かった。今は鏡弥に会って笑顔を向ける自信がなかった。
面倒な輩も、校内迄は入って来ることはない。今は講義にさえ出なくなった大学構内に来ている時だけが、束の間の安息だった。
短期間の内に、げっそりとやつれた陽太は深いため息を吐いた。
(´・ω・`)鏡弥:「 どんどん泥沼に……救いはあるのかな。」
「すまぬ~。ないかも……」ナデナデ(o・_・)ノ”(´・ω・`)
(*⌒▽⌒*)♪このちん、いろいろな作品が書きたいので、ごめんねっ!←居直った。
ちょびっとだけ、ある意味、これも救いと言えるような結末かもしれません。此花咲耶
■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
早く事件を公にし、警察に足を運び、法に照らすべきだった。
思えば最初から全て間違いだらけだった。
やがて、ポストを開けずとも、督促状が何通も溢れるように入るようになっていた。
返済期日を知らせる葉書の束を握り締める陽太の実家は、田舎の旧家で資産も多い。だが、学生だからと言って、遊ぶ金を惜しみなく与えるような愚かな親ではなかった。
正当な理由があれば納得して、ぽんと出してくれただろうが、大学で出来た同性の恋人の為の後始末の金を貸してくれとは言えなかった。
「くっそ……!これだけ働いても、まだ足りないのかよっ。」
陽太は奥歯をぎりと噛み締めた。
金を借りるにしても、ほんの少し冷静になれば、市役所の福祉課に行くとか、学生生協で借りるとか、いくらでも無理なく金を借りる方法はあったはずだ。何より警察に相談すべきだった。
余りに痛々しくやつれた鏡弥の姿に、すっかり動転してしまったのだろうと思う。鏡弥の包帯だらけの姿に、冷静な判断力が飛び庇護欲だけが湧いた。
細い声で詫びながら泣きぬれる鏡弥と、車椅子を取り囲む黒服の連中の姿を見た途端、陽太の理性は飛び、思考は停止していた。
「許して下さい……。お願いします。退院したら……少しずつでもちゃんと返しますから……。」
「あんたの代わりに、同級生の兄ちゃんが死ぬほど頑張って働いてるよ。あんたは、ゆっくり養生しなってさ。いい友達を持って、幸せなこったなぁ。」
「陽太が……?」
鏡弥は陽太を見つめ、涙ぐんだ。
「鏡弥には、関係ない。金は事務所に送るから、帰ってくれ。迷惑だ。」
「陽太ぁ、ごめんね……。ごめんね。迷惑かけてごめんね。」
「じゃな。可愛い面を拝みに来ただけだ。」
金融会社の男たちの前で鏡弥が涙を零せば、陽太は自分の庇護が無くなれば鏡弥はどうなるんだろうと自惚(うぬぼ)れた。伸ばしてくる細い指を、強く握り締めた。
鏡弥を救えるのは、今や世界中で自分ただ一人だけだと思った。
ぎゅっと抱きしめて深いキスを贈ると、鏡弥は腕の中で身悶えて甘い息を吐いた。
「好き。陽太が、好き。陽太だけ……。」
鏡弥以外、何も見えなくなっていた。
*****
繰り返す借金は、連れて行かれたローン会社が変わる度、署名をするたびに膨れ上がってゆき、いつしか金銭感覚は麻痺して行く。陽太が渋ると、相手は必ず鏡弥の事を口にした。
「なぁ、あの可愛らしい子猫を手放しちまえよ。その方が、あんたもいい加減楽になるぜ。悪いようにはしないからさ。」
「鏡弥は渡しません。」
「全く、諦めの悪い兄ちゃんだな。」
いつか脳裏の片隅に有った大学の事も忘れ、昼も夜もバイトに明け暮れたが、所詮は焼け石に水だった。
そしてある日、陽太は追加の融資を申し込み、その場にいた店長という男に最後通牒を突きつけられた。
「上限ですわ。都築さん、これ以上の借金は、まともなところでは無理ですな。」
「ちょいと、別室で相談しましょうか。うちも、金貸しを慈善事業でやってるわけじゃないんでね。」
陽太はまるで他人事のように、聞いていた。
とうとうここまで来てしまったかと内心思っていたが、何の感慨もない。もしかすると、臓器売買を要求されたり、親のところまでも借金取りが行ったりするのかとぼんやりとした頭で考えた。正直、こんなことになると思っていなかった。
あれほど働いて金を作ったと言うのに、あの金はいったいどこへ消えたんだろう……。思考力も薄れていた。
「鏡弥……。」
朦朧としたまま、いつしか足は大学へと向かった。今は鏡弥に会って笑顔を向ける自信がなかった。
面倒な輩も、校内迄は入って来ることはない。今は講義にさえ出なくなった大学構内に来ている時だけが、束の間の安息だった。
短期間の内に、げっそりとやつれた陽太は深いため息を吐いた。
(´・ω・`)鏡弥:「 どんどん泥沼に……救いはあるのかな。」
「すまぬ~。ないかも……」ナデナデ(o・_・)ノ”(´・ω・`)
(*⌒▽⌒*)♪このちん、いろいろな作品が書きたいので、ごめんねっ!←居直った。
ちょびっとだけ、ある意味、これも救いと言えるような結末かもしれません。此花咲耶
■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
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