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鏡の中の眠れるヘルマプロデュートス 9 

阿鼻叫喚の凌辱の宴に放り込まれた生贄のように、充弥は男たちの間で、翻弄されていた。
ありえない体位で、まるで劣情を受け止めるだけの入れ物になってしまった青年を、陽太はじっと言葉も発せず見つめていた。
ひくひくと酸素を求めて喘ぐ魚のように、薄い胸が上下する。痛ましくも目の離せない光景だった。

やがて……痙攣の止まった恋人が、ぐいと半身を起こし身を捩ると、おさまっていた男の物をずるりと抜いた。

「ああっ!もう~っ。」

ぶんと頭を振って、きつい視線を向けた鏡弥に周囲が声を掛ける。

「やっと、出て来たな。待ってたぜ。充弥じゃぴーぴー泣くだけで、まともに楽しめないからな。」

「もっとやろうぜ、鏡弥。」

助けてと白い腕を伸ばして泣いていた充弥が、髪をかき上げると「ふん!」と鼻を鳴らし、のしかかっていた男を押しのけると蹴りを入れた。

「しつけぇんだよ!ああ、うっとしい。充弥はぴいぴい泣きながら内側に潜っちまうし。やりすぎだろう、あんたら。しつこいんだよ!傷付けるなって、言ってんだろっ。迷惑なんだよっ。ぼくが出てくるまで、待ってればいいだろ?」

「ははっ。充弥を引っ込ませなかったら、お前が出てこれないからな。俺等は、あんな世間を知らないガキよりも、淫乱なお前の方が良いんだ。」

「なぁ、鏡弥……おれ等は、お前の方がはるかに感度だっていいと思ってるんだぜ。」

「あんな青臭いひよこと比べんなよ!むかつく。」

男たちの会話を聞いても、陽太には今一つ要領を得ない。彼らは、青年を鏡弥と呼び、または充弥と呼んだ。
陽太は男たちの中央でふんぞり返る、金融業者に的を絞った。この男だけは、鏡弥を抱こうとはしていなかった。

「俺の鏡弥は一人しかいないはずだ。あんたらのいう鏡弥というのはどこにいる?話がまるで見えない。訳が分からない。鏡弥と充弥とはどういう関係なんだ?説明してくれないか、俺に判るように。」

「じゃあ、こっちから聞いてやるよ。どこまで、理解できた?大学まで行って、勉強しようという奴なら、ある程度の見当位つくだろう?」

陽太は、およそ現実味のない単語を口にした。

「思い当たるのは、解離性同一性障害……二重人格者……?」

「おお、さすがに利口だな。そこに気が付いたか。見てみな?さっきのあいつは、どっちだと思う?」

「あれは、俺の鏡弥じゃない。鏡弥は、もっと清らかで弱々しい。充弥と呼んでた方が、鏡弥に近い。」

その声が聞こえた鏡弥が、一瞬悲しげな視線を向けたのに陽太は気が付かなかった。

「まあ、どっちでもいい。あいつが借金の片にここに連れてこられたのは、もう6年も前の事でね。寄ってたかって面白がって玩具にしているうちに、あんなふうになったんだよ。さあ、あんたには、別件の契約をしてもらおうか。形式だけのものだがな。」

目の前に置かれた書類に、陽太はサインをするよう促された。
借金が利子を生み、とうに元金を数十倍も上回っていた。借金完済するまでは、自由とは無縁のようだ。

「最近は極道も、頭良くないとやっていけなくてね。インテリやくざって名前くらいは聞いたことあるだろ?」

「ああ……。」

「まあ、これも一種の勧誘と思ってくれていい。実際、事業ひとつ興すのにも、その道の専門家ってのが必要でね。裏道で生きてたものが、ぎりぎりのところで生きてくのは、なかなか大変なんだ。ドンパチやっても、うっかり医者にかかると引っ張られたりするんでね。手駒は、こうして早いうちに取り込んで揃えておくんだ。まあ、あいつを使って、あんたを手に入れようとしたわけだ。他にも、弁護士や会計士、そう言う肩書を持ってるやつは何人かいる。」

陽太はじっとそいつを見た。

「俺がいずれ医者になったら、あんたらの中で怪我人が出た時は、四の五の言わずに面倒を見ろって話だな。気の長い話だ。俺はまだ一回生で、解剖実習だってまだやったことないんだ。青田買いにもほどがあるだろう。」

「極道ってのは案外、気の長い性質なんだ。」

「教えてくれ。鏡弥は何で二重人格なんぞになったんだ?あいつの本当はどっちなんだ?」

俺を雁字搦めにしたように、鏡弥も騙したのかと聞いた。どう見ても、気の弱い鏡弥……充弥がこいつらの仲間だとは思えなかった。陽太が好きな鏡弥は、どうやら本当は充弥という人間の別人格のようだ。

「あれはな、桜口組の愛人のせがれだよ。本名は、桜口充弥というんだ。」と、男は教えてくれた。別に、充弥が何者だと知られても、こいつらには何の影響もない。
男の話を鵜呑みにすれば、充弥は抱きたいときに抱ける、彼らにとって都合のいい共有の抱き人形らしかった。

「あいつはな、親の不始末背負っちまったのさ。抗争の戦利品だ。若頭が好きものでな、桜口組の天辺の命(たま)助ける代わりに、そこにいた人形みたいな小せがれを寄越せって言ってもらって来たのさ。まあ、母親ってのは、とうの昔に若い者と逃げようとして始末されていなかったしな。誰も止めるものはいなかったんだよ、可哀想にな。」

「……すごかったぜ。あいつは無垢だったからな、もう反応が新鮮っつうか珍しいってんで、幹部連中が何日も寄ってたかって抱き潰したんだ。気をやりっぱなしでぐったりしたのを、俺は病院に連れて行ってやろうと思ったんだ。さすがに、失血死はやばいと思ったからな。」

「それで……?」

「抱き上げた俺の手に縋ったのさ。『助けて、まだ死にたくない……。ぼくは、充弥よりも役に立つよ。』ってな。それが、あそこで抱かれている鏡弥だ。中学生だったかな。」

痛ましい話だった。




陽太さんにばれちゃった。(*´・ω・)(・ω・`*) まあ、いずれはばれるだろ。

一つの身体の中に、二つの精神。

多重人格は、往々にして性暴力に晒された時に、出現するものらしいです。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。此花咲耶


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